医学界新聞

連載

2009.07.27

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第156回

A Patient's Story(7)
医療ナビゲーター

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2838号よりつづく

前回までのあらすじ:2009年初め,私は,早期直腸カルチノイドと診断された。腫瘍を局所切除すれば完治するはずだったが,保険会社から「人工肛門にしない限り保険適用を認めない」と横やりが入り,手術は直前でキャンセルされた。


 隣人F氏(保険会社重役)の助言に従い,保険会社に対し「誤った」決定を取り消すよう,不服申請の手続きを採ることにしたのは,前回も述べた通りである。

 F氏はさらに,保険会社との交渉を手伝ってくれる「プロフェッショナル」として,T女史を紹介してくれた。T女史は,もともと弁護士だったが,F氏が重役を務める保険会社で数年間「不服審査部門」の責任者を務めた後,いまは,保険会社とのトラブルをかかえる患者を支援することを「ビジネス」にしているのだった。ちなみに,T女史は,自分のビジネスに「医療ナビゲーター」という呼称を与えていたが,私の場合もその典型だったように,米国では,往々にして患者が制度上の隘路・迷路に入り込まざるを得ない現実を考えると,その呼称は当を得たものだった。

癌手術の適否を内科医が審査

 保険会社から給付拒否の通知を受け取った翌日,私は,T女史の自宅を訪れた。日曜日だったので,オフィスではなく,彼女の自宅で会うことになったのだった。

 保険会社からの通知を読むなり,T女史は,通知を書いた医師の専門が内科であることを指摘した。「もちろん,この医師は署名しただけで,通知の本文を書いたのは別の職員()ですけれど,あなたの不服申請の審査に際しては,直腸外科の専門医を審査員に含めるよう申し入れましょう」と彼女は続けた。私にとって,T女史が(1)保険会社の審査医師の名と専門を熟知し,(2)審査業務の実際に精通しているだけでなく,(3)患者が採るべき具体的戦術についても的確...

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