医学界新聞

連載

2009.08.10

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第157回

A Patient's Story(8)
ブログ開設

李 啓充 医師/作家(在ボストン)


2840号よりつづく

前回までのあらすじ:2009年初め,私は,早期直腸カルチノイドと診断された。腫瘍を局所切除すれば完治するはずだったが,保険会社から「人工肛門にしない限り保険適用を認めない」と横やりが入り,手術は直前でキャンセルされた。


 「人工肛門にしろ」という保険会社の決定を取り消させるために,プロの「助っ人」T女史(医療ナビゲーター)を雇った経緯は前回も述べた通りである。

 T女史と私にとって,保険会社の決定を取り消させるための最優先課題が「医学的エビデンス」を集めることにあったのは言うまでもない。そして,前回も記したように,早期直腸カルチノイドに対しTEM(Transanal Endoscopic Microsurgery)が適応となることを示す文献を集めるのはそれほど困難ではなかっただけに,保険会社が「TEMは研究段階の治療」と言い張ることが,不可解でならなかった。

よみがえる「リジェクト」の憂うつ

 T女史と私が「不服申請」に備えて文献的証拠を集め始めた直後,私は保険会社から「保険給付拒否」の決定を告げる二通目の通知を受け取った。通知に署名した医師は最初の審査医とは別人だったが,拒否の理由が「TEMは研究段階の治療」であることに変わりはなかった。

 私には,保険会社がなぜ同一内容の通知を二度も送ってきたのか,その理由がわからなかったが,T女史の説明によると「それは,あなたのカルチノイドを取るはずだった外科医が,保険会社に対し,正式に『再考』(reconsideration)を求めたから」だった。つまり,給付拒否の取り消しを求めて外科医が直談判に及んだことに対する回答として二通目の通知が送られてきたのだった。「医学的証拠をそろえて反論すれば保険会社の理不尽な決定を覆すことができる」と信じ込んで文献収集に励んでいた私にとって,「直腸外科の専門医が理非を尽くして反論したにもかかわらず,保険会社が拒否の決定を変えなかった」事実は,「医学的証拠をそろえたとしても,保険会社の決定を変えることができない」可能性を示すものだっただけに,あらためて前途に対する不安がかき立てられたのだった。

 文献収集の過程で,私は,保険会社が頑なに「TEMは研究段階の治療」と言い張る理由を示唆する文書に遭遇した。TEM...

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