医学界新聞

連載

2009.04.20

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第7回 〕
在宅ホスピスケア(1)

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

 終末期がん“患者”の在宅医療を始めたのは1987年4月です。このころは,“在宅ターミナルケア”と私は命名していましたが,1992年ごろより,川越厚先生(ホームケアクリニック川越)にならって“在宅ホスピスケア”という言葉を使い始めました。今は,“在宅緩和ケア”という言葉も使われていますが,ほとんど同じ意味で使われているようです。

 約20年の実践のなかで,私は在宅ホスピスケアを,「進行したがんに限らず,死が間近に迫った人およびその家族を自宅あるいは居宅(自宅に近い環境の生活空間)で楽に生き,できればそのまま看取りができるように支える地域社会のシステム」と定義しています。この定義で強調したいことは,医療のシステムではなく,地域社会の互助システムである点です。このシステム内容については,後で詳しく解説を加えます。

 十和田に来てからの約3年間で,この在宅ホスピスケアを提供した方は約160名になりました。今は,地域の訪問看護師と薬剤師,そしてケアマネジャーやヘルパーとの協働のもと支援をしていますが,皆熱心によくやってくれていますので,私の訪問は原則的に週1回で,緊急に訪問しなければならない場面は非常に少なくなっています。2009年4月現在,13名の訪問診療を行っており,今回はその内容について紹介します。

 79歳女性,乳がん。かなり進行した乳がんでしたがホルモン剤がよく効いて,がんの病状は安定し,21か月が経過しています。同様に長期になっているのが43歳男性,肝転移を伴う膵臓がんの方です。在宅療養開始から,約26か月経ちますが病巣はそのままで,時々胆管炎を起こしますが,比較的元気です。彼はたばこが吸いたくて具合が悪くなっても病院には入院しません。このように喫煙や飲酒のため自宅に戻る人も少なくありません。在宅酸素を利用しながらたばこを吸っていた人もいました。58歳男性,脳転移を伴う耳下腺がん。時々寝込んでしまうため在宅ホスピスケアを開始しました。彼もたばことお酒が近くにないと不安なようです。進行した膵臓がんの方がこの地域では非常に多いと感じています。71歳女性,肝転移を伴う膵臓がん。TS-1(経口抗がん剤)の効果があり,元気になり現在病院のギャラリーで個展を開いています。81歳女性,肝転移を伴う膵臓がん。多少認知症があり,同様に高齢の夫との二人暮らしで,介護力が問題となっています。同様に介護力が心配されるのが89歳男性,進行した肝硬変を伴う肝がん。毎日息子が訪れていますが,その息子さんが病状をあまり理解せず,また,訪問診療への理解も乏しいように思えます。一度,食事がとれなくなったときに救急車を呼んで急患室を利用しています。84歳女性,肝転移を伴う大腸がん。ほとんどベッド上生活ですがパーキンソン病の夫との二人暮らしです。79歳女性,多発骨転移および脳転移を伴う肺がん。病的骨折(大腿骨)のためほとんどベッド上生活ですが,いたって気ままに暮らしているようです。82歳女性,胆嚢がん。胆嚢がんは通常病状の進行が速いのですが,この方の場合,比較的長い経過をたどっています。しかし,診断から約7か月目になり黄疸が出て看取りの段階となっています。83歳女性,がん性腹膜炎を伴った原発不明がん。奥入瀬渓流から車で約10分ほど下流に住んでいます。在宅中心静脈栄養法(HPN)開始から約2週間経ちましたが,順調です。同様にHPNを使っているのが70歳男性,食道がん。放射線治療終了とともに自宅に戻りました。約5か月になります。74歳女性,がん性腹膜炎で原発不明がん。脳梗塞後遺症があり腸閉塞を繰り返すためHPNを行っています。原発がわからないまま高度に進行している方も少なくないと感じています。63歳男性,原発不明で多発骨転移のため出血傾向がありますが自宅に戻りました。

 このように,自宅で安心して暮らすためには多職種の連携が重要で,また,楽に過ごすためには適切な症状緩和治療が必要です。次回はこの症状緩和治療について解説します。

 

 

この項つづく

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