医学界新聞

連載

2009.02.23

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第5回 〕
看取り(2)-看取りの文化-

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

 死と看取りを地域に戻すこと,それは「看取りの文化」を守ることを意味します。古来,看取りや人の死にまつわるさまざまな習俗,習慣,しきたり,風習が伝えられ,その地域特有の生活様式や価値観が形成されてきましたが,これを「看取りの文化」と呼んでいます。それは私たちが意識しないにもかかわらず,生活の中に溶け込み,その地域に生まれ育った人の価値観や思考方法に影響を与え,地域社会をまとめる原動力ともなっていました。

 「看取りの文化」は地域社会を支えるものであり,それが失われることは,ある意味では地域社会の崩壊につながる重大なできごとですが,病院の中に死が封じ込められ,地域の中で看取ることが非常に少なくなった今,その危機が迫っており,早急の対応が必要です。

 看取りを地域に戻すための十和田での取り組みは,2006年2月に私が緩和ケア科の医師として患者を受け持つことで始まり,4月に2人,5月に3人,6月に1人を病院で看取りました。

 私にとって病院での看取りと自宅の看取りはあまり変わりません。どちらでも看取るのは家族です。看取りの仕方を家族によく指導し,医師と看護師が同席しないことの了解をとり,息を引き取ったら少し時間をあけて訪室し死亡確認します。その後しばらく家族だけの時間を持ち,身体の清拭はできるだけ家族も参加するよう勧めます。

病院内での新しい看取り方にストレスを感じていた病棟

 しかし,このやり方は担当する病棟に...

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