医学界新聞

連載

2009.02.09

「風邪」診療を極める
Primary CareとTertiary Careを結ぶ全方位研修

〔 第6回 〕

甘くない風邪診療:糖とケトンを蹴っ飛ばせ!

齋藤中哉(医師・医学教育コンサルタント)


2813号よりつづく

 第5回は,鳥インフルエンザH5N1に学びました。今回は,医療従事者の「風邪ひきさん」に登場してもらいます。医療従事者も,病気になったら,患者です。

■症例

Pさんは46歳・男性。A透析クリニックに臨床工学技士として勤務。「風邪をひいた後,吐き気のため食事ができず,点滴を希望」。生来健康。機会飲酒。身長168cm,体重65kg。

ビニュエット(1)
A透析クリニックにて

7日前(月曜日)から咽頭痛と鼻汁が生じ,6日前より外科マスクを着用して勤務を継続した。5日前,嘔気のため食思不振。固形物を摂取すると嘔吐。勤務先A院長に自己申請し,4日前(木曜日)より連日点滴1,500ml/日を開始。同僚看護師が毎日ぶどうジュース1,000mlを差し入れてくれ,嘔吐せずに飲んだ。水分のみ摂取しているためか尿意頻回となり,業務を中断してトイレに行く回数が増えた。排尿痛,膿尿:なし。体温は測定せず。診療録に年度初めの健診結果あり:随時血糖89mg/dl,Cre1.0mg/dl,ALT21IU/l,HBs-Ag(-),HCV-Ab(-),HbA1c5.0%。尿定性:糖,潜血,蛋白とも陰性。心電図に異常なし。

この段階で留意することは?

 医師に限らず,医療従事者は,家族や同僚に対して,professionalな態度を保留し,無診察のまま処方や助言をつい行ってしまいがちです。ここでも,A院長はPさんに言われるまま,点滴を処方しています。善意に立つとはいえ,医療従事者間の無診察処方&助言は,時に素人療法以上に危険で,お互いの不幸の源になります。自戒しましょう。医師法(第17条,第20条)でも禁じられています。

 Pさんの場合,【呼吸器】上気道カタルが下気道に波及していないか。【消化器】食思不振と嘔吐が改善しているか。腹痛や下痢を伴わないか。【泌尿器】尿意頻回の他に,排尿痛,口渇・多飲・多尿を伴っていないか。以上を毎日観察し,悪化の見落としを防ぎます。

 「点滴」は低張加糖維持液で,Na=Cl40mEq/l,K35mEq/l,糖10%,リン酸・乳酸含有。差し入れの「ぶどうジュース」は濃縮還元果汁100%,480kcal/lでした。これにより,1日当たり2,500ml,1,080kcalが摂取できていた計算になります。しかし,体重を測定しないで行う輸液は「医師免許失格」です。これは,外来でも,入院でも,同じこと。入院診療でも,1日当たりのinとoutをバランスシート上で夢中で計算していながら,体重を測定していない医師が大勢います。体重変動(ΔBw)こそin & outの決算であり,机上の計算結果もそれによって初めて「検算」できるのですから,「体重測定を行っていない」イコール「輸液管理の本質を理解していない」です。

ビニュエット(2)
A透析クリニックにて

2日前(土曜日),Pさんの眼窩は窪み,頬はこけ,傍目にも憔悴が明らか。心配した看護師長BさんがPさんを介助。血圧120/70mmHg,脈拍80/分,体温36.6℃。ここ2-3日,喉が渇き,トイレが近く,眼もかすむ。服用中の薬なし。クリニック内で,体重60kg。簡易血糖測定器で300mg/dl。尿定性検査で糖とケトン体が陽性。Bさんが「なぁんだ,Pさん,糖尿病? ジュースばかり飲んでるから血糖が上がってんじゃない? 他に何も食べてないんでしょ。尿にケトンまで出てるわよ」と言うと,Pさんは「おかしいな,4月の健診では何も言われてないよ。月曜日,仕事休んで,C医療センターに行ってくる」と答えた。

臨床診

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