医学界新聞

連載

2008.12.01

「風邪」診療を極める
Primary CareとTertiary Careを結ぶ全方位研修

〔 第4回 〕

風邪と血尿と血痰と

齋藤中哉(医師・医学教育コンサルタント)


2804号よりつづく

 前回は,劇症肝炎に学びました。「風邪」の訴えに対して,遭遇頻度の高い疾患の「型」を無理に当てはめて治療を開始したり,軽症であるとの思い込みで観察を中断したりすることによる診療の失敗は後を絶ちません。この経験を反省し,繊細な経過観察を心がけない医師は,primary careの場でも,tertiary careの場でも,「藪医者」です。

■症例

Nさんは77歳・男性,元地方公務員。「風邪が治らず,咳が止まらない」。生来健康。喘息の既往,喫煙歴,飲酒歴:なし。身長178cm,体重71kg。

ビニュエット(1)
A胃腸科医院を受診

3週間前より咳。痰は絡まない。夜になると悪寒と発熱38.6-39.3℃。解熱剤内服により,日中は37℃台まで解熱。18日前,市立B病院内科を初診。呼吸苦,息切れなく,胸痛,動悸,筋肉痛,関節痛もない。血圧120/70mmHg,脈拍72/分,呼吸数14/分。心肺音に異常なし。胸部レントゲン異常なし。非定型肺炎の疑いで,clarithromycin400mg/day内服7日分が処方された。 症状の改善を見ないまま,2週間前,右側腹部に違和感が生じ,深夜,激痛となった。朝まで我慢して,A胃腸科医院を受診。右肋骨脊柱角に叩打痛。腹部超音波では,肝,胆道系,両腎,膵の形態に異常なし。尿定性で蛋白1+,潜血1+を認めたため,右尿路結石と診断し,点滴1,000mlとpentazocine15mg筋注を施行。痛みやや軽快し,帰宅。

異型肺炎と右尿路結石の鑑別診断は?

 症状や重症度ごとに,自己判断で医療機関を「とっかえひっかえ」することが,日本人の受療行動の基本型です。これは,自分の診たい疾患しか診ない医師の診療行動の「裏返し」でもあります。患者は賢いですから,医師の習性を読み,「かかりつけ」ではなく,「かかり分け」に自己の生存を託しているのです。

 Primary careの場における尿路結石診療の実態は,確定診断されないまま,状況診断により補液と鎮痛剤が処方され,おしまいという展開が大部分です。「側腹部痛」の盲点は後腹膜臓器。膵,腎,大動脈は必ず視野に入れます。「側腹部痛+血尿」の鑑別は,尿路結石よりも先に,大動脈瘤/解離と腎梗塞の除外。ところで,尿路結石で尿蛋白が陽性になるでしょうか?「発熱と咳と検尿異常」の布置を意識し,精査を開始したほうがよさそうです。

ビニュエット(2)
市立B病院泌尿器科を受診

その後も,夜間の発熱と咳が持続。右側腹部痛は腰背部全体の違和感となった。9日前より食欲低下し,ジュース類だけ経口摂取。8日前,尿が真っ赤になった。A胃腸科医院に電話したところ,「ウチでは無理。泌尿器科に回って」とのこと。

1週間前,市立B病院泌尿器科を受診。嘔気,嘔吐あり。頻尿,排尿痛,失禁なし。両側腰背部に叩打痛。白血球17,000/μl(左方移動あり),Hb9.8g/dl,Cre1.8mg/dl,CRP22.8mg/dl。尿検査:肉眼的血尿,蛋白2+,赤血球多数,白血球5-10/hpf,顆粒円柱6-8/hpf,赤血球円柱20-25/hpf。腹部超音波で,尿路系に水腎症や石灰化を認めない。前立腺は内部均一でやや腫大。内科に紹介され,細菌性腎盂腎炎の疑いで入院。血圧140/80mmHg,脈拍76/分,呼吸数16/分。食思不振と発熱37.5-38.3℃による脱水補正のため点滴2,000ml/dayと抗生剤cefazolin2g/dayを開始。症状の改善をみないまま,3日前より尿量減少し,Cre5.8mg/dl,K5....

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