医学界新聞

連載

2008.02.11



レジデントのための

栄  養  塾

大村健二(金沢大学医学部附属病院)=塾長加藤章信(盛岡市立病院)大谷順(公立雲南総合病院)岡田晋吾(北美原クリニック)

第7回 頭に入れておきたい
強制栄養の重篤な合併症

今月の講師= 大村 健二


前回よりつづく

 強制栄養施行時には,栄養の組成や投与量が患者さんの病態に適しているかを常に考えなくてはなりません。特殊な組成の輸液製剤を安易に使用すると,時に重篤な電解質異常や代謝異常を引き起こします。

【Clinical Pearl】

・ほとんどの症例で,経口栄養に推奨される栄養組成をそのまま静脈栄養の組成にあてはめることができる。
・臓器不全用の静脈栄養製剤を用いる際には,その組成を十分に理解しよう。
・血清電解質のナトリウム,カリウム,クロール,カルシウムまでにしか注意を払わない癖がつかないようにしよう。
・TPN施行中に乳酸アシドーシスが認められたら,まず輸液内容と血清電解質をチェックしよう。


【練習問題】


 66歳,男性。慢性腎不全で10年前から週3回血液透析を受けていた。感冒様症状に引き続き,口内にアフタが多発しA病院口腔外科を受診。精査加療目的に入院となった。

入院時現症:身長168cm,体重59kg。眼瞼結膜に貧血なく,球結膜の黄染なし。舌および頬粘膜を中心にアフタが多発。アフタは浅く,最大径4mmで出血は認めず。表在リンパ節の腫大なし。PS0。

入院時血液検査所見(血液透析後):WBC 1,950/mm3,RBC 320×104/mm3,Hb 10.4g/dL,Plt 8.3×104/mm3,Na 143mEq/L,K 3.7mEq/L,Cl 108mEq/L,Ca 9.4mg/dL,P 2.1mg/dL,UN 23mg/dL,Cr 6.47mg/dL,TP 5.9g/dL,Alb 3.6g/dL。

 キシロカイン®入りの含嗽剤によりアフタの接触痛はやや改善したが,飲食は困難な状態であった。また,経鼻栄養チューブの留置にも苦痛を伴うと判断されたため,CVCから下記の処方の静脈栄養が開始された。

腎不全用高カロリー輸液基本液
 ハイカリック®RF 2パック
 ビタジェクト® 1キット
 エレメンミック® 1キット
腎不全用アミノ酸製剤
 ネオアミユー® 2パック

総エネルギー投与量2,115kcal/日,グルコース投与量500g/日,アミノ酸投与量28.8g/日,脂肪投与量0g/日

 TPN開始直後より高血糖を認めたため,TPNとは別ルートでインスリンの投与が開始された。リンパ球,好中球ともに減少しており,貧血と血小板減少もみられたため血液内科で精査を行うも,確定診断はなされずに10日が経過した。入院第12病日に意識レベルの低下がみられ,血液ガス分析で乳酸アシドーシスを認めた。なお,メイロン®を投与するもアシドーシスの改善はみられなかった。

入院第12病日の血液検査および血液ガス分析所見(血液透析中間日):
WBC 2,200/mm3,RBC 300×104/mm3,Hb 9.9g/dL,Plt 7.3×104/mm3,Na 145mEq/L,K4.0mEq/L,Cl 106mEq/L,Ca 8.2mg/dL,P 0.6mg/dL,UN 50mg/dL,Cr 10.62mg/dL,TP 5.9g/dL,Alb 3.6g/dL,乳酸28mg/dL,動脈血ガス分析pH 7.32(メイロン®投与中)

Q この症例に何が起こったのでしょうか。
A 低リン血症による乳酸アシドーシスです。

【Check】

・低リン血症はrefeeding syndromeとして起こるだけではない。医源性の低リン......

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