医学界新聞

連載

2007.11.12

 

連載
臨床医学航海術

第22回

  医学生へのアドバイス(6)

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部部長)


前回よりつづく

 臨床医学は大きな海に例えることができる。その海を航海することは至難の業である。吹きすさぶ嵐,荒れ狂う波,轟く雷……その航路は決して穏やかではない。そしてさらに現在この大海原には大きな変革が起こっている。この連載では,現在この大海原に起こっている変革を解説し,それに対して医学生や研修医はどのような準備をすれば,より安全に臨床医学の大海を航海できるのかを示したい。


 前回までに教養を自分で培うための勉強方法について述べた。医学生は学生時代に教養を身につけるだけでなく,自分独自の勉強方法を確立しなければならない。同時に,学生時代には人間としての基礎的技能も身につけておかなければならない。人間としての基礎的技能とは,社会に出て生活するためになくてはならない技能のことである。

 筆者はその基礎的技能として表のような11の技能を挙げる。これらの技能はどれも重要であるのは言うまでもないが,学生時代にできるだけ身につけておくべきである。なぜならば,これらの基礎的技能はいったん社会に出てからは当然各人が身につけているものとされるので,働きながら最初から学び直すことなどほとんど不可能だからである。言い換えると,これらの基礎的技能を身につけないで社会に出るのは,基礎体力や基礎技術ができていないのにスポーツの試合をしたり,音階もできないのにコンサートに出るようなものなのである。

 以下にそれぞれの技能について述べる。

人間としての基礎的技能
(1)読解力-読む
(2)記述力-書く
(3)聴覚理解力-聞く
(4)言語発表力-話す,プレゼンテーション力
(5)論理的思考能力-考える
(6)英語力
(7)体力
(8)芸術的感性-感じる
(9)コンピュータ力
(10)生活力
(11)心

読解力――読む(1)

 まずは読解力である。基礎学力はよく「読み書きそろばん」と言われる。その「読み」にあたる読解力である。そんな当たり前のことを,わざわざ言う必要もないと思われるかもしれない。だが医学生がほんとうに読解力があるかというと,はなはだ疑問である。

 筆者はある臨床研修指定病院で4月から新研修医となるであろう医学生に,研修開始前にあらかじめ5冊ほどの教科書を4月1日までに読んでくるように指示したことがある。その5冊の教科書は研修医となって誰もが読むような基本的な教科書で,かつ,医師でなく看護師や救急救命士でも読むことができるような簡単な教科書を厳選したつもりである。国家試験が終了してから4月1日の研修を開始するまで約1か月近くある。この間に卒業旅行に行ったとしても少しくらい本を読む時間はあるであろう。そして,あらかじめこれらの基本的な5冊の教科書を新研修医が研修開始以前に読んでおけば,スムーズに臨床研修が開始できるに違いないと考えたのである。

 ところが,その期待はみごとに裏切られた。4月1日に「指定された本を読んだ人?」と挙手させると誰一人手を挙げなかった。「全部読んでないなら何冊くらい読んだ?」と聞くと,全部読んでいない研修医がほとんどで「途中まで読んだ本が1,2冊。」というのが数人であった。これは4月1日の「エイプリル・フール」ではなく,なんと単なる「フール」であった!

 有名と言われる大学医学部を卒業して...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook