医学界新聞

連載

2007.07.09

 

名郷直樹の研修センター長日記

42R

都心の辺境

名郷直樹  地域医療振興協会 地域医療研修センター長


前回2735号

△月×○日

 勤務先が変わった。へき地診療所から,海に近い半島の病院へ,ついには都心の病院へと流れ着いた。ただ都心といっても,都心のはずれである。都心のはずれ,って,都心なのか,はずれなのか,よくわからないけど,そういうのがいい。川をわたれば隣の県という位置である。一般的に言えば,前の病院よりよほど都会なのだが,この都心のはずれは,自分にとってもフィットする。素敵なロケーションだ。

 

 「すべての文化は辺境から始まる」

 

誰が言ったか忘れたけれど,新しいことを始めるには辺境に限る。辺境の都心から,都心の辺境へ。4年以上前,村にいたときには,その中心部にいた。そして今,その逆の,都心のはずれにいる。2つの場所は似ているようで違うようで,でも少し違いが明確になった。へき地診療所時代,村の中心部にいたのがいけなかったのかもしれない,そう思う。

 1時間半かけての電車通勤。これはまた大きなチャンスかもしれない。村にいたときは,毎日車で5分の通勤であった。今は6時台に徒歩で駅へ行き,7時前の電車に乗って,途中1回の乗り換えを経て,都心の辺境をめざす。行きは東へ,帰りは西へ,懐かしい歌がよみがえる。電車は今日もすし詰め,延びる線路が拍車をかける。満員,いつも満員。床に老婆が倒れるスペースはない。倒れようものなら宙吊り状態だ。私の荷物は,手を放しても決して下へ落ちることはない。常に宙吊りだ。どこへも行き着かず,宙ぶらりんのまま,私自身の日記のように。

 しかし,都心の都心を過ぎて,都心の辺境へ向かい始めると,これまでがうそであるかのように電車はすいてくる。大部分の人は,乗ったときから降りるときまですし詰め状態で,何もいいことなく電車を降りていく。しかし,私は都心の都心へと通勤する人たちを都心に置き去りにして,再び辺境へと向かうのである。上りと下りを一度に経験できる,なんと贅沢な電車通勤だろう。

 都心の辺境へ...

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