延命治療の中止を巡って(14)
終末期医療における患者の権利
連載
2007.04.16
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第106回
延命治療の中止を巡って(14)
終末期医療における患者の権利
李 啓充 医師/作家(在ボストン)ここまで13回にわたって,米国での延命治療中止を巡る議論の歴史を紹介した。ここまでの歴史をお読みいただいた読者にはもはや説明の必要はないだろうが,米国における議論の歴史は,「いかにして,終末期医療において患者の権利を守るか」という点に終始してきたと言ってよいのである。
結論から言うと,「終末期医療だからといって患者の権利の中身が変わるわけではなく,通常の医療で守られるべき患者の権利は,終末期医療の場でも守られなければならない」というのが,延命治療の中止を巡る問題を考える際の原則である(逆に言うと,終末期医療の場で患者の権利が守られていない状況が存在するとすれば,それは,終末期医療以外の場においても患者の権利がないがしろにされていることを強く示唆するのである)。
言うまでもなく,現代の医療において,何よりも保証されなければならない患者の権利とは,その自己決定権(autonomy)である。たとえ治療を拒否することが,死を招くなど「不利益」な結果を招来することがわかっていたとしても,患者が自ら選んだ選択に対して,医療の側がそれを拒むことはできないのである。
さらに,医療倫理的には,治療を始めないという決定と,一度開始された治療を途中で中止するという決定とは,患者の自己決定権という原則に照らせば等価の決定である。言い換えると,「治療を継続しなければ死んでしまう」という状況において,「治療を中止する」という患者の決定を受け入れることができないという態度は,「患者の自己決定権は一切認めない」と言っているのと何ら変わりはないのである。
癌治療と延命治療
ここで,例として,医師が勧める化学療法を,癌患者が拒否したり,中止を希望したりした場合を考えてみよう。医師が勧める治療を拒否したり中止したりすることが,確実に「死」という結果を招来することがわかっていたとしても,患者が化学療法を拒否する権利を否定するこの記事はログインすると全文を読むことができます。
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