MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2025.02.11 医学界新聞:第3570号より
《評者》 安達 洋祐 原看護専門学校学校長
できるナースは,バイタルサインを感じて,考える
◆生命徴候:呼吸を数え,脈拍を触れる
著者の山内さんが本書で伝えたいのは,「呼吸と循環を感じて考えること」である。本のタイトルは「緊急度を見抜く」,キャッチコピーは「この思考過程が臨床推論」とあるが,本文を読んで感じたのは,「みんな,もっとバイタルサインを感じよう!」という呼びかけである。
バイタルサインは「生命徴候」と訳されるが,アメリカのロックバンドGreen Dayの歌にあるように(Check my vital signs to know I'm still alive),「生命の信号,生存の合図」であり,自分が生きていることを周囲の人に気付いてもらう「無言のメッセージ」である。
ナースは,患者の最も身近な存在であり,患者の変化に最初に接する立場にある。著者は医療の現場を支えるナースに期待し,ナースこそバイタルサインに精通してほしいと願い,「患者のメッセージを感じてほしい」「身体の変化を読み取ってほしい」と祈っている。
◆病態把握:身体の変化を理解する
バイタルサインの変化は緊急事態であり,的確な判断と迅速な対応が求められる。例えば呼吸数であれば,「人間は酸素なしでは生きられない→酸素が不足すると呼吸数が増える→呼吸数が増えると死腔が増える→換気効率が悪化して酸素摂取は不十分→酸素投与が必要」となる。
慢性呼吸不全の患者は,脳幹のセンサーが高濃度の二酸化炭素に慣れており,「酸素不足で酸素分圧低下→呼吸数増加と酸素投与で順応→脳幹は酸素過剰と判断して呼吸を抑制→二酸化炭素の蓄積で昏睡」となり,このような病態を理解しないままの機械的な対応は患者を危険にさらす。
パルスオキシメーターが普及し,バイタルサインはすべて器械による測定になり,医師は「ナースが測定するもの」,ナースは「測定して記録するもの」ととらえるようになった。著者はナースのために,「数値を見て記録するだけのロボットになるな」と言っている。
◆臨床推論:病状を考え,対応を決める
著者は20年前に『フィジカルアセスメント ガイドブック』,10年前に『フィジカルアセスメント ワークブック』(ともに医学書院)を上梓している。「バイタルサインは五感で把握」「信用できるのは器械より五感」という神経内科医(身体診察が上手)の言葉は説得力がある。
さらに,著者は米国で診療看護師の資格も取得しており,「患者を観察し判断して対処に結びつける」というアセスメントのスキルを熟知している。医師が臨床検査に頼って身体診察を怠る昨今,ナースのアセスメント技法を易しく惜しみなく伝授しているのが,本書の魅力であろう。
私は外科医として,11の市中病院と大学病院で勤務したが,どの病院にも「賢いナース」(知識が豊富),「できるナース」(技能が秀逸)がいて,私を助けてくれた。著者とは経歴がまったく異なるが,看護教育に従事して思うことは不思議と同じであり,随所に共感を覚えた。全国のナースが本書で学び,「賢いナース」「できるナース」になって活躍してほしいと願う。
《評者》 仲間 知穂 YUIMAWARU株式会社代表取締役
クライエント中心の実践の意義がわかる作業療法入門書
作業療法における基本的な概念として「クライエント中心の実践」があります。本書『作業療法をはじめよう 第2版――COPM・AMPS・ESIスターティングガイド』は,その実践を支える知識と技術を網羅した一冊です。COPM,AMPS(Assessment of Motor and Process Skills),そしてESI(Evaluation of Social Interaction)という三つの評価ツールを中心に,作業療法士にとって重要な基礎と実践的な知見が検討されています。
◆COPMとクライエント中心の実践
COPMは,クライエントが自分にとって重要な「作業」を探究し,その実行に向けて主体的に関与していくプロセスを支援するツールです。私自身も臨床現場でCOPMを活用し,生活を変えていくことに受け身であったクライエントが,自らの課題に取り組む姿勢に変わる瞬間に立ち会ってきました。クライエントと協働的に「作業ができること(作業の可能化)」の実現に向けアプローチする作業療法において,クライエントの作業を理解することは最も重要なプロセスといえるでしょう。
本書の特筆すべき点は,面接という難しい実践について,事例を豊富に紹介しながら,面接中のクライエントのニーズや価値観を知る方法が丁寧に解説されていることです。クライエントの言葉に耳を傾け,真のニーズを知るための具体的な面接技術が詳細なコメント付きで紹介されており,初心者にとっては基礎技術の習得に,経験者にとってはスキルのブラッシュアップに最適で,実践的なガイドだと感じます。
◆作業遂行分析の重要性と臨床への応用
作業遂行分析は,クライエントがどのように作業を行うかを評価し,作業療法の計画を立てる上で極めて重要な技術です。本書では,臨床現場で混同されがちな「作業遂行分析」と「活動分析」の定義を明確に整理し,これらを臨床現場で効果的に活用するための技術を紹介しています。
具体的には,作業遂行分析に関連する評価ツールとしてAMPSやESIがイラスト付きでわかりやすく解説され,それぞれの評価がどのようにクライエントの目標達成に貢献するかが示されています。これにより,作業遂行分析が単なる評価の枠を超え,クライエントの生活の質向上に貢献する手段であることが理解できるでしょう。
◆ガイドブックの域を超える臨床的にわかりやすい内容
本書はタイトルどおり,評価ツールを使い始めるためのガイドブックとして書かれていますが,実際にはそれを超える価値があります。COPMや作業遂行分析を臨床で使いこなすために必要な理論や知識体系がまとめられており,作業療法士としての基盤を築くための一冊といえます。
クライエント中心の実践の意義を再確認させながら,実際の臨床で評価ツールを活用するための技能を提供してくれる本書を,これから作業療法を学ぶ皆さまには,まず手に取っていただきたいと思います。
《評者》 奴田原 紀久雄 武蔵野徳洲会病院尿路結石治療24時間 センター長 / 杏林大名誉教授
なかなか伝えにくい手術手技の極意を懇切丁寧に説明
かつての開放手術では,手術の助手につき術野を観察してその外科手技を獲得していった。術者の手の動きと術野でのはさみや鉗子の動きは術野を見ているだけでほぼ正確に把握できた。現在主流の内視鏡手術において,手術野は開放手術と比較にならないほどよく観察できる。しかしこの視野を展開するために,術者の手元ではいかなる操作が内視鏡や操作器具に加えられているのかは,術野から目を離さないとわからない。すなわち同時にこの2つを観察し理解することは困難である。この壁を越えるためにシミュレーターやハンズオンがあるが,それでも術者の手元で行われている操作テクニックを解説し尽くすことは難しい。
本書は上部尿路結石治療のスタンダードを示しつつ,それを完遂するためのテクニックを解説した世界的にも類がない良書である。手術テクニックを言語化する難しさは大変なものであるが,第Ⅰ部で使用機器と術前診断,術前感染症対策につき簡潔ながら十分な解説を加え,第Ⅱ部で各術式の基本的手技を驚くほど深入りして紹介している。さらにこれで説明しきれなかった細部を第Ⅲ部のCase Discussionで補足(というよりこれ自体が卓越した技術伝授書といえるが)している。今まで数多くの手術とハンズオンセミナーを行ってきた著者らの経験に基づいた,他書ではまねできない解説書といえる。これらのテクニックを惜しむことなく記載しているのは,著者たちの安全性を確保した上で上部尿路内視鏡外科治療を普及させようとする情熱に他ならず,同じ道を歩んできた者として尊敬せざるを得ない。
本書の個々の特徴や読ませどころを上げればきりがないが,もし読者が初心者であれば術式別の体位の取り方を,本書を参考にお互い被験者となり経験するとよいであろう。どの部位に荷重がかかるかを実感できるはずである。バスケットカテーテルの操作を,術野ではなくベンチ上で練習し(p.61参照),分解組み立てを行うことは(p.72参照)すぐに役立つテクニックになる。
またレーザー砕石装置を使用する全ての術者に精読していただきたいのはp.13~17のレーザーの特性などが詳説された部分である。レーザーの特性と砕石原理を本書によって十分に理解し,特に発生する熱による有害事象をなくすコツを広く共有することが重要で,これは今後普及する新しいレーザー砕石装置が導入される段階で特に大きな意味を持つであろう。
また経験を積んだ術者の方々にも,少し手強いと思われる症例があった際には第Ⅲ部のCase Discussionの類似した症例を一読しておくことをお勧めする。もちろんそのようなことをしなくても手術を遂行する力があると思うが,トラブルが起こったとき,どのような判断で手術を続行するのか,あるいは撤退するのかなどについて有用な示唆が得られるであろう。
繰り返しになるが,本書はなかなか伝えにくい手術手技の極意といえるものを懇切丁寧に説明している。そしてこれはこのことを踏まえての評者からの著者へのお願いになるが,このテキストをもっと有用に活用できるように,付随した動画集を編さんしていただければと思う。
最後になるが,これこそ著者たちが大いに望んでいたことであると確信するが,本書がこの分野の手術手技の普及と安全性の向上に大いに役立つことを期待してやまない。
《評者》 増田 知子 千里リハビリテーション病院セラピー部部長
「学ぶ手がかり」が惜しみなく収載された待望の良書
中枢神経ではさまざまな機能を持つ神経回路が相互に連関し,システムとしてはたらいています。脳卒中者のリハビリテーションにおいて,この神経システムの理解が不可欠であることは,今や関連職の共通認識でしょう。また,脳画像を的確に読み解いて得られる情報が,効果的・効率的な治療の鍵を握ることも同様です。
しかし,臨床の理学療法士・作業療法士にとって,神経システムや脳画像の理解が大きな難関であることは間違いありません。神経回路の連関は難解かつ数が膨大であり,「学ぶ手がかり」を探すこと自体がすでに困難です。構造や機能局在の解説にとどまらない,臨床に役立つ神経回路の知識がまとめられた書籍が希少であることも,学びの障壁になっていると感じます。
本書は,そのような状況で奮闘する理学療法士・作業療法士に対して,まさに「学ぶ手がかり」を惜しみなく授ける待望の良書です。
まず,本書の最大の特長の1つである症状別のインデックスが,神経システムの知識とその活用を格段に身近なものにしています。これは,複雑多岐にわたる神経回路を,目の前の患者さんの症状と即時に結び付けて探究できる貴重なツールです。部位別インデックスと照合できる仕様も実践的です。このインデックスによって,臨床の傍らで手引きとするのに最適な,使い勝手の良さが際立つ1冊となっています。
全10章の構成のうち,脳の部位別に分けられた前半の7章では,驚くほど多くの神経システムが網羅されています。圧倒される情報量ですが,中でも臨床で知識が必要な機能は重点的に解説されており,非常に実用的な内容です。後半の3章では,「複数の神経システムにまたがる脳梗塞・脳出血」といった,学び進んだ次の段階での神経システムの解説が用意されています。各章の終盤では,症例の脳画像の理解から評価,リハ戦略の組み立てまでの流れが提示されており,その章で得た知識を患者像に投影して,知識を臨床に落とし込む際に役立ちます。
また,全ページにわたって色彩豊かな図表が豊富に配置され,システムを視覚的にイメージできます。脳の立体的なイラストにより,経路の走行や位置関係を3次元的に把握できます。第2版からは「みてわかるWeb動画」が収載され,さらに臨床とのリンクが強固になったと感じます。
神経システムと脳画像に関して,これほど系統立てて整理し,リハ戦略へと導く書籍の著者が,共に臨床の理学療法士であることには,驚きを禁じ得ません。その一方で,お二人が強い熱意と責任感を持って臨床経験を重ねられてきたからこそ生まれた構成・内容であるとも感じます。手塚純一先生,増田司先生の類いまれな探求心と脳卒中リハへの真摯な取り組みの結晶である本書が,リハ関連職を通じて多くの脳卒中者のために役立てられることを切に願います。
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