医学界新聞

医学界新聞プラス

『肝胆膵画像診断の鉄則』より

連載 山下 康行

2024.11.27

肝胆膵画像診断の鉄則』は,部位・画像所見別の37のシナリオに沿って,主要疾患の症例を提示。肝胆膵脾の画像診断のポイントを“鉄則”形式でズバッと示した一冊です。各疾患の画像所見の解説に留まらず,所見をみた際にどのようにして鑑別診断を進めるかといった診断のプロセスについても言及しています。またモダリティの選択など,画像診断を進めるうえでの留意点についても適宜取り上げ,読影の腕試しができるWeb付録も収載しています。

「医学界新聞プラス」では本書のうち「Chapter1 肝臓 シナリオ1 多血性の腫瘤」の内容を4回に分けてご紹介します。

 

Q&A形式で画像診断を進める際のポイントを解説します.必ず知っておいてほしいポイントは「鉄則」としてまとめています.
Q3.鑑別のためにMRIもオーダーすべきか?
A3. MRIではCTで得られない情報を得られることがあり,鑑別に迷ったときには有用

【鉄則】CTで確信が持てないときはMRIを

  • ● 多くの肝腫瘍はCTのみでほぼ診断可能である.本シナリオの3例(図1-1〜3)はいずれも典型例であり,CTだけで診断可能であろう.しかし,非典型的な画像所見を呈することも少なくない.確信が持てないときや,さらに診断を確実なものにするために,肝腫瘤の診断ではMRIが役に立つことがある
  • ● T2強調画像は組織の水分の量を評価できる撮像法であるが,通常の肝細胞癌や転移などの実質性腫瘍の水分量はそれほど多くないため,嚢胞などの水っぽい腫瘤とは異なり高信号にはならない(図1-7a)
図1-7.jpg
  • ● 一方,血管腫は嚢胞同様,水分が多いため,著明な高信号を呈する(図1-8).造影をしなくとも充実性か,嚢胞性かを判断できる.一方,FNHは正常の肝細胞に類似しており,T2強調画像ではあまりはっきりしないことが多い(図1-9a)
  • ● Gd-EOB-DTPA(EOB)は正常の肝細胞に取り込まれる造影剤で肝腫瘍の鑑別にも威力を発揮する.多くの肝細胞癌はEOBを取り込まないのに対し(図1-7b),FNHではほとんどがEOBの取り込みを認め(図1-9b),鑑別に有用である.しかし,一部の肝臓癌はEOBを取り込むので注意が必要である.肝血管腫に関してはEOBを取り込むことはないが,遷延性濃染がはっきりしないことがある(→78頁,図8-9,10).
  • ● 腹部の画像診断では,超音波検査で病変が指摘された場合,次の検査は基本的にCTでよい.MRIのほうが診断能が高いことも少なくないが,検査のアクセスの容易さ,マネジメントの観点からはCTのほうが大局をつかむのに好都合である.若年者で血管腫が強く疑われた場合は,被曝などの観点から,CTを飛ばしてMRIを施行してもよいだろう.この際に造影は不要である.
図1-8.jpg
図1-9.jpg
Q4.多血性腫瘤が多発している場合,どのような疾患を考えるか?
A4. 多血性の転移,肝細胞癌,肝血管腫,肝腺腫,非腫瘍性病変(偽病変)など

【鉄則】多発性の多血性病変では転移を忘れるな

  • ● 多血性腫瘤はいずれの腫瘤でも多発性のことがあるが,多発例では転移の可能性が高くなる
  • ● 日常臨床でみる多血性の転移は,膵などのNETの肝転移が多い​​​​​​​(図1-10).肝細胞癌では肝硬変内に肝臓癌が多発性に発生することもある.また中分化や低分化の肝細胞癌では肝内転移がみられることもある.
  • ● 肝血管腫も多発することが少なくない.いずれも特徴的な画像所見から診断に迷うことは少ない.
  • ● 糖原病などの患者では肝腺腫が多発することがあり,肝腺腫症と呼ばれる​​​​​​​(図1-11).癌化に注意しなければならない.
  • ● FNHも稀に多発する.
図1-10.jpg
図1-11.jpg
Q5.FNHや肝腺腫で乏血性や悪性のことがあるか?
A5. FNHではないが,肝腺腫ではタイプによってはあり得る

【鉄則】FNHと肝腺腫の鑑別にはEOB造影MRIが有用である

  • ● FNHと肝腺腫は年齢や性別,ダイナミックCTでの画像所見が類似しており,鑑別が問題となることがあるが,多くの場合はEOB造影MRIで鑑別可能である.FNHの大多数はEOBを取り込むのに対して,肝腺腫ではタイプで異なり取り込むものは一部である
  • ● 一方,肝腺腫のHCA-β-catenin活性型では取り込みがみられる.また,この型では悪性化もみられるので注意が必要である.
     
 

肝胆膵脾の画像診断においてこれだけは押さえておきたい“鉄則”を1冊に!

肝胆膵脾の画像診断のポイントを“鉄則”形式でズバッと示した1冊。部位・画像所見別の37のシナリオに沿って、主要疾患の症例を提示。各疾患の画像所見の解説に留まらず、所見をみた際にどのようにして鑑別診断を進めるかといった診断のプロセスについても言及する。またモダリティの選択など、画像診断を進めるうえでの留意点についても適宜取り上げる。読影の腕試しができるWeb付録を収載。

目次はこちらから

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook