めざせ「ソーシャルナース」!社会的入院を看護する
[第17回] 病院で困りやすい患者への対応
連載 石上雄一郎
2024.09.10 医学界新聞(通常号):第3565号より
CASE
市中肺炎にて入院した75歳男性。抗菌薬投与で徐々に症状は改善し,入院3日目には酸素投与は2 Lとなり,徐々に食事も取れるようになった。患者から看護師に「主治医から軽い肺炎だから2~3日入院しましょうと主治医から言われていたけれど,すでに入院3日が経過しており,家にいる猫の世話をするため家に帰らせてほしい」と相談があった。主治医に状況を確認したところ,「まだ不安定な状況で,入院の継続が必要」とのことで看護師は患者への対応に苦慮していた。
病院で困りやすい患者
変わった患者だな,癖が強い家族だなと感じたことはないだろうか。こうした患者や家族への対応として,まずは①意識障害,②認知機能障害,③精神疾患/パーソナリティ障害,④発達障害特性の評価を行いたい。この中で最も遭遇する可能性が高いのは,せん妄と認知症患者であり,疾患に応じた対応が必要となる。精神疾患の既往がある場合はかかりつけ医に対応方法などを確認できる。しかし,発達障害や境界性パーソナリティ障害(註)はあくまで個人の特性であり,正常な状態と連続している。感情に配慮するような支持的な対応だけではうまくいかず,トラブルが起こりやすいため医療者は苦手意識を持ちやすい。今回は病院で困りやすい,発達障害と境界性パーソナリティ障害の患者への対応を中心に共有する。
1)発達障害
まずは,「言っていることは間違っていないが,何かおかしい」「話が通じない」といった発達障害者とのコミュニケーションで起こりがちな事態を把握し,気づくことである。その他のケースとして,想像力を働かせるのが苦手,予定外の変更に対する融通が利かない,言葉を文字通り受け止める,こだわりが強く自分の考え方ややり方に固執するなどが挙げられる。
病院は,患者にとってわかりにくい暗黙のルールが多い。病気が今後どのようになるのかの見通しは不確実であり,与えられる情報量も多いため混乱を来たしやすい。発達障害特性がある患者の視点に立って評価し,対応することが求められる1)。
2)境界性パーソナリティ障害
分裂機制が特徴的で,自分も他者も善か悪かのいずれかに二分化する。見捨てられるかもしれないとの不安から相手を試したり,他人を操作しようとしたりすることも特徴である。特定の医療者に見てもらいたいとの欲求から特例を要求することや,何度も病院へやって来て説明を要求することもある2)。
何が苦手かをアセスメントし対応する
1)医療者の陰性感情を自覚する
患者と話が通じず対応が難しいと,足が遠のきがちになるのは仕方ない側面もある。医療者はこうした陰性感情を自覚し,チームで対応することが重要だ。適宜,精神科チームに協力を仰ぐことも考えたい。
一方で,〇〇障害と病名によるレッテルを貼ってしまうことには注意したい。こうしたレッテルは医療スタッフの偏見や誤解につながり,さらに対応を困難にしてしまう。大事なことは何が苦手かをアセスメントし対応することである。患者の特性により実際の対応は異なるが,ある程度気をつける点は決まっている。
2)構造化によって視覚化する
学習環境や活動を「視覚的に」示す構造化は,自閉症教育で重要視されてきた手法で,相手が理解しやすいように伝える手法である3)。特に...
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