医学界新聞

対談・座談会 高岡徹,和田恵美子,滝澤幸孝

2024.07.09 医学界新聞(通常号):第3563号より

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 パラスポーツの本当の魅力は,障がいのある方が社会参加して誰かとつながれること――。パラスポーツは運動継続のモチベーションになるだけでなく,毎日の楽しみにもなり得ます。今夏の仏パリでのパラリンピック開催を控えたいま,アスリートレベルではなくレクリエーションレベルのパラスポーツの可能性に焦点を当てるべく,本紙ではパラスポーツセンターとの連携を行う高岡氏,パラスポーツ医の資格を取得し週末には障がいのある方とアーチェリーを楽しむ和田氏,パラスポーツ振興・推進に取り組む日本パラスポーツ協会の滝澤氏の3氏による座談会を企画した。障がいのある方にとっての身体的・社会的側面から見たパラスポーツの魅力と,医療者ができるかかわりについて考えました。

(撮影協力:横浜ラポール)

高岡 パラスポーツは,パラリンピックで見るアスリートレベルにとどまらず,レクリエーションレベルまで広く行われています。本日はパラスポーツ医の資格を取得されている和田先生と,日本パラスポーツ協会の滝澤様と共に生涯スポーツとして楽しむパラスポーツをテーマに話したいと思います。

和田 リハビリテーション科の外来患者がアーチェリーを始めたことがきっかけでパラスポーツと出合い,今では障がいのある方と一緒にアーチェリーをしています(写真1)。また,東京パラリンピック2020の開催に併せてパラスポーツ医の資格を取得しました。あいにくコロナ禍による影響でパラリンピックには参加できませんでしたが,パラスポーツ医の研修で学んだことは今でも日々診療に生きています。

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写真1 障がいのある方とアーチェリーを楽しむ和田氏

滝澤 私は日本パラスポーツ協会でパラスポーツ推進・振興をめざし,各都道府県のパラスポーツ協会はじめ関係団体の皆さまと事業を運営したり,パラスポーツ医,パラスポーツトレーナー(MEMO)などの資格の認定や養成に携わったりしています(写真2)。本日は広くパラスポーツ協会の取り組みや,私のこれまでの経験からお話しできればと思います。

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写真2 パラスポーツ医講習会の様子(写真提供:日本パラスポーツ協会)

パラスポーツ医:障がい者のスポーツ・レクリエーション活動において,さまざまな疾患や障がいに対応し,安全にスポーツに取り組むための効果的な医学的サポートを行う。また,関係団体と連携して障がいのある方のスポーツ実施における健康維持・増進,競技力の向上を医学的な視点から推進する役割を担う。登録者は616人(2023年12月31日時点)。

パラスポーツトレーナー:質の高い知識・技能,障がいに関する専門的知識を有し,障がいのある方の健康管理やスポーツ活動に必要な安全管理,また,アスレティックリハビリテーションやトレーニング,コンディショニング指導等を通じて協会や関係団体と連携して競技力の維持・向上を支援する役割を担う。登録者は242人(2023年12月31日時点)。

高岡 各地域においてパラスポーツを取り巻く環境はどのようなもので,医療者はそこへどのようなかかわりができるのでしょうか。

滝澤 全国47都道府県全てと,10の政令指定都市にパラスポーツ協会があり,そこが地域におけるパラスポーツ振興の統括組織になります。障がいのある方がスポーツをするための施設といったハード面と,地域組織・団体と共にパラスポーツを指導・支援するためのソフト面の両面からパラスポーツ振興に取り組んでいます()。当協会が力を入れて養成と認定を行っているパラスポーツ医,パラスポーツトレーナーは主に医療者を対象としており,和田先生をはじめ有資格者の方々には各地域でご活躍いただいています。

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 地域におけるパラスポーツの振興を図るための連携・協働のイメージ
主に医療者がかかわる内容を色文字で示した。

和田 当院の位置する高知県ではパラスポーツの参加者が少ないため,競技によっては健常者の方と一緒に活動している現状があります。特にアーチェリーは健常者とルールの区別もないので一緒に活動しやすい競技です。地方ならではですが,全体の競技人口も多くないので障がいのある方に指導を行ってもらうこともあり,フラットな関係が築けています。

高岡 私が所属する横浜市総合リハビリテーションセンターでは,同じ事業団が運営する障がい者スポーツ文化センター横浜ラポールで障がいのある方のスポーツ導入に取り組んでいます。また,当センターではパラスポーツ普及のための研究開発もしており,競技用の電動車いすを買わずともサッカーが手軽に楽しめるよう,普段お使いの電動車いすに取り付けられるフットガードの開発などもしています。

高岡 医療者の立場から,障がいのある方が生涯を通してパラスポーツに取り組むことにどのような効果があるととらえていますか。

和田 パラスポーツが運動のモチベーションになることです。私はパラスポーツに出合うまで外来で「運動してくださいね」と気軽に言っていましたが,何のために運動するのかとの視点を持っていませんでした。無目的に一人で行う運動は続かないものですが,試合で良い成績を出すため,運動サークルで楽しむためなら,ちょっとしたトレーニングを続けられる人はたくさんいます。

滝澤 かつてパラスポーツセンターに勤務していたとき,脳血管疾患により片麻痺のある方が,麻痺側,健側への加重バランスをコントロールしながら「今日は30回までラリーを続けよう」と目標を持って卓球に取り組まれていました。卓球台に寄りかかりながら球を打つところから,卓球台から離れる,左右に動くといった具合に段階的に目標を立てていました。加えて,利き腕側が片麻痺となった方が「卓球での利き手交換を通じてプレーするときに自分の体をどう動かし使っていくのかを習得できた」と言われており,リハビリテーション効果もあるのではないでしょうか。

高岡 そうした効果も期待できると思います。パラスポーツをうまく治療にも活用しながら,運動・スポーツを継続していただけると理想的です。

 私はパラスポーツの本当の魅力は,障がいのある方が社会参加して誰かとつながれることではないかと考えています。横浜ラポールは障がい者のスポーツ施設であるものの,絵画や陶芸,調理など文化的な活動もでき,多くの参加者がいらっしゃいます。

和田 社会的に活動できる場があることで,障がいのある方の心の持ちようが前向きになることは実感しています。何もする意欲のない高次脳機能障がいの方が,精神障がい者がサッカーをするソーシャルフットボールチームに入ってから,活動日だけは自分でカレンダーに書いたり,サッカーでの出来事を報告してくれたりするようになりました。

滝澤 参加する中で話をする仲間ができ,仲間のいるサークルがあることで自分から参加して運動しようという気になるものです。運動後にラウンジでサークル仲間とコーヒーを飲んでお喋りすることを一番の楽しみとされる方もいます。こうした場をもっと増やせるようにしたいです。

和田 一方,まだまだハード面でのバリアを感じることがあります。PTの方を中心に医療依存度が高いお子さんへのヨガや遊び場教室も開催されていますが,一般のスポーツ施設を借りようとすると施設側が不安に感じることもあります。

滝澤 現在,既存の一般スポーツ施設でも障がいのある方が安心して利用できるように環境整備する動きがあります。まだ議論の途中ではありますが,一つの施設に全ての機能を備えられなくても,別々の体育館,プール,トレーニングルームの三つの施設が連携・協働し,それを総称して「障害者スポーツセンター」とする構想です1)。また,施設の整備が追い付いていなくても周囲のフォローで安心してスポーツができることもありますし,健常者の中で障がいのある方も一緒にスポーツができる仕組みづくりも重要だと考えています。

高岡 先天性障がいの方は親のネットワーク等でパラスポーツができる場所やサークルを知っていることも多いですが,脳卒中や脊髄損傷,交通事故等による中途障がいの方はパラスポーツという選択肢を知らない方も少なくないように思います。また,中途で障がいに直面してから「パラスポーツをする」までを考えると,医療での治療からスポーツへの参加の間には相当なギャップがあり,この間を誰がどうつなぐかに課題があるように思います。

和田 障がいがあっても運動・スポーツができるのだといかに感じてもらえるかですよね。特に中途障がいの50歳代以降の方は「自分はスポーツをする年齢ではない」との先入観を持たれることが多いです。当院は訪問リハビリテーションも行っており,社会に出るという目的設定の選択肢にパラスポーツを活用しています。実際にプールへ帯同して,どう着替え,入水し,泳ぐかを見るなどしています。

 この座談会前に横浜ラポールを見学して,トレーニングジムが実際にスポーツする体育館やグラウンドと同じ施設にあって,運動・スポーツをするための基礎体力向上にうまくつながっていて理想的でした。一般的なケースだと,トレーニングする場所が介護保険のデイサービスになってしまい,スポーツする場所までたどり着きません。ジムでの運動だけだと嫌になって,続かないのです。

高岡 当センターでは横浜ラポールからスポーツ指導員を一人専属で派遣してもらい,医療の範疇での体育オーダーも導入しています。どうしても一人の方を外来でずっと診療することはできないので,うまく横浜ラポールにつなげていったん医療からは離れ,機能的な問題や気になることがあれば改めて相談していただけるような連携を取っています。

滝澤 中途で障がいに直面して,今までの生活が大きく変わってしまう方たちにいきなり「パラスポーツやってみようか?」とは言いづらいと思います。色んな方と一緒になって楽しむための娯楽としての運動・スポーツ,レクリエーションとして考えてほしいです。医療者の皆さんには,障がいのある方とそのご家族に,「ここに行けばこんな事ができるよ」と情報を提供し,つなげる役割をお願いしたいですし,われわれもそのための情報提供をさせていただきたいと思っています。

高岡 障がいがない時はパラスポーツに縁はありませんからね。障がいのある方々をパラスポーツにつなぐためにも,われわれ医療者がパラスポーツを知る必要があると考えます。体験することで医療者にも学びはきっとあるでしょう。

和田 私は障がいのある方とのアーチェリーを通して本当の意味でのADL支援を知りました。車いすから高い位置の矢取りができないときに,良いことだと思いつい介助していましたが,取れる範囲は本人が自力で取らないと,筋力が落ちてしまうのです。矢を打っているだけでは駄目で,的まで30メートル車いすを漕いで,矢を引き抜くまでしないといけません。医療者はつい介助してしまいますが,パラスポーツセンターの指導員の皆さんは,介助は最低限にしていてその加減が上手でした。

滝澤 私がパラスポーツ医の養成講習会で障がいのある方の活躍について話をすると,病院での患者としての姿しか知らなかった先生方はその変化に驚かれることが多いです。車いすで機敏に体育館を駆け回る姿だけでなく,体育館までも一人で車から降り,生活用車いすから競技用車いすへスムーズに乗り降りする姿が印象的なようです。

高岡 社会に出てからそうした残存能力を最大限発揮している姿は,病院でのADL支援だけでなく,運動・スポーツをしているからこそでしょうし,トップアスリートレベルの動きができる人だけでなく全ての障がいのある方に見られます。診療ではつい麻痺がどうとか,装具がどうとかのお話に終始してしまいがちですが,パラスポーツの魅力や可能性を知っていると提案してみようと思えますよね。そのためには学生時代から教育の一環として,パラスポーツに触れてもらえると良いかと思います。当センターに実習に来る医学生には必ず横浜ラポールを見学してもらい,障がいのある方のチームとボッチャを対戦することもあります。

和田 何かのきっかけがないとパラスポーツの魅力を知ることも,パラスポーツセンターに行くこともありませんからね。医学部やPT,OTの養成校で授業の一環として,パラスポーツを見たり体験したりすることはとても有意義だと思います。加えて,いま臨床に携わる先生方が気軽にパラスポーツを知る機会はあるのでしょうか。

滝澤 当協会のホームページでは,障がいのある方がパラスポーツを行う際にどのような種目があるか,地域でパラスポーツを推進する組織の情報のほか,パラスポーツ指導者養成講習会や全国障害者スポーツ大会に関する情報などを紹介していますので,ぜひ見ていただきたいです。そして,興味を持っていただければ和田先生のように自らもされる競技で医師・患者の垣根なくスポーツをされたり,時間があれば大会に顔を出して応援されたりと,各地域でパラスポーツにかかわっていただけるとうれしいです。

和田 医療でのリハビリテーションは入院・外来ともに時間的余裕がなくなっています。医療者のパラスポーツへの関わりは減っていますが,興味のあるスポーツがあればぜひ一度遊びに行くところから始めてほしいです。

滝澤 地域で障がいのある方が,医療・リハビリテーションの延長として,運動・スポーツ現場につながり健康で豊かな生活が送れるように,医療・福祉と運動・スポーツの関係者が連携できる体制整備をしていきたいと考えております。

高岡 この座談会を通してパラスポーツは楽しみでもあるし,トレーニングにもなると改めて魅力を認識しました。一方でまだまだパラスポーツを知らない障がいのある方たちも,医療者もたくさんいらっしゃるのではという課題も見えてきました。われわれ医療者がもっとパラスポーツを知って触れ合う機会を増やしていけるように努力したいと思います。

 本日は身体機能に障がいのある方が中心的なお話になってしまいましたが,機能障がいがより重度な方や,知的障がい,発達障がいのある方が参加できるスポーツ活動なども考えていかなくてはなりません。本日の座談会が医療者の皆さんへの良いアピールとなることを期待いたします。

(了)


1)スポーツ庁.スポーツ審議会健康スポーツ部会障害者スポーツ振興ワーキンググループ中間まとめ.2023.

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横浜市総合リハビリテーションセンター センター長

1987年横市大医学部卒。神奈川リハビリテーション病院,横浜市障害者更生相談所・所長などを経て2012年より横浜市総合リハビリテーションセンター。20年より現職。リハビリテーション科専門医。編著に『標準リハビリテーション医学 第4版』『社会活動支援のためのリハビリテーション医学・医療テキスト』(いずれも医学書院)ほか,『総合リハビリテーション』誌の編集委員も務める。

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近森リハビリテーション病院 院長

1998年杏林大医学部卒業後,医療法人近森会に入職する。2009年近森リハビリテーション病院リハビリテーション部科長を経て,16年より現職。リハビリテーション科専門医。18年にはパラスポーツ医を取得する。週末には障がいのある方と一緒に学生時代に行っていたアーチェリーを楽しむ。

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公益財団法人 日本パラスポーツ協会 スポーツ推進部 部長

1994年東海大体育学部卒業後,国立障害者リハビリテーションセンター学院リハビリテーション体育学科に入学し,障がい者スポーツを学ぶ。大阪市(長居・舞洲)障がい者スポーツセンターで勤務後,2003年より日本パラスポーツ協会に入職。大会運営や選手強化に従事した後,08年より現職。パラスポーツ指導者の養成など,国内のパラスポーツ振興に取り組む。

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