心の不調に対する「アニメ療法」の可能性
[第12回] メンタルケアを生活の一部として身近なものへ
連載 パントー・フランチェスコ
2024.06.11 医学界新聞(通常号):第3562号より
あっという間に本連載も最終回を迎えました。今回は,これまでに連載内で提案してきたアニメ療法の可能性を前提に,皆さんに課題を共有して連載を締めくくりたいと思います。思う存分に想像力を膨らませて,未来のメンタルヘルス,well-beingについて妄想してほしいです。社会変革は妄想から,科学者の白昼夢から生まれると言っても過言ではないと筆者は考えています。
さて,今まで話したアニメ療法の特徴には,私たちの身近な存在であること,メンタルケアに予防的にかかわれることなどが挙げられました。「身近」というのは,換言すれば「わざわざ診療所に行かなくても済む」メンタルケアであることを指します。昨今精神医学と心理学の研究分野では,remote,virtual,internet-deliveredといった語の使用が急増しています。リモートメンタルケアの手法が人気を集めているためです。
連載第8回でお話しした認知行動療法(CBT)が持つリモート性と予防的な意味について少し話を広げたいと思います。現代では,メンタルヘルスを理解し支援を強化するために,生物・心理・社会(bio-psycho-social)モデル1)を用いることが一般的です。その中でもCBTは心理学的理解と支援を提供する主要な手段の1つとなります。CBTは,日常生活習慣の改善から精神疾患に対する専門的介入まで,その有効性から世界中で用いられる心理学的アプローチとなり,対面・リモートの両方はもちろん,集団で,書籍を用いてなど,さまざまな形態で実施されています2)。そのため,アニメ療法はCBTの未来の姿としても考えられます。
なぜリモートメンタルケアが急増しているのでしょうか。メンタルヘルス上の悩みがあっても患者が臨床医のもとを訪れない,あるいは訪れても悩みを相談しようとしない問題は以前から存在しており,サービスギャップ(メンタルヘルスサービスの必要性と利用率の差)が示唆されています3)。そこには,支援提供者がサービスを必要とする人に到達できない問題と,サービス利用者がサービスにアクセスできない問題があります。前者ではサービス提供に関するプライバシーやコスト,後者では精神医学や精神病にまつわるスティグマ,支援へのアクセス方法に関する選好の壁などが要因と思われます4)。近年,サービスギャップを埋めるために,双極症5),不安障害6),うつ病7),治療アドヒアランス8),一般的な感情の悩み9)など,さまざまな問題を解決する手段として,インターネットを利用したCBT(ICBT)が利用されるようになりました。Anderssonによると,セラピストによるICBTは抑うつ,不安,身体症状の領域において対面式CBTとほぼ同等の有効性を示しています10)。しかし,セラピストによらないICBTはセラピストによるICBTに比べて有効性が低く,脱落率が高いとされます。精神療法は対面......
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