医学界新聞

書評

2024.03.18 週刊医学界新聞(通常号):第3558号より

《評者》 あいち小児保健医療総合センター 総合診療科医長

 笠井正志先生から「ロックな書評を」と依頼され,(何を言っているのかよくわからなかったが)ロックな書評を試みてみようと手に取った本の書名が『こどもの入院管理ゴールデンルール』である。反抗の音楽の代表格ともいえるロケンロールな書評の対象が「ルール」とは……。ルールを破ってこそが,ロックじゃないのか。

 気を取り直して,「ルール」とは何か,考えてみた。ルールは,よくある「マニュアル」や「トリセツ」と何が異なるのだろうか? そんな思いを抱えながら,この本を読み進めていった。すると本書がルールとしているものがおぼろげながら見えてきた。

 本書では,各病態や疾患ごとのページの頭に「ゴールデンルール」と称したクリニカルパールのような一文がある。例えば,細気管支炎の項では「余計なことをせず,安寧・安心が最大の治療」とか,栄養の項には「絶飲食にするなら,その理由と,どうなったら経腸栄養を開始するのかを説明できなければいけない」というふうに。なるほど,これらの一文たちを読むだけでも,とても現実的で実践的な臨床現場のリアルを感じる。数多のマニュアル本ではその疾患・病態の定義に始まり,Aという状況にはBとか,Xという数値を超えたらYとか,懇切丁寧に一対一対応を教えてくれるが,このゴールデンルールはそんな知識やガイドよりもっと「知恵」に近い。そしてこの知恵は,笠井先生をはじめ上村克徳先生,黒澤寛史先生,そして兵庫県立こども病院の面々が日々のこどもの入院診療の中で絞り出し厳選し,その中から浮かんできた不文律を言語化したモノ,つまりルールなのだ。

 その実,各医療施設にもおのおのの不文律が多いことを私は知っている。入院3日目には採血とか,CRP 2 mg/dL以上は抗菌薬とか,解熱しないと退院できないとか……ね。

 さて,皆さんにはそれらの不文律をルールとして言語化して書式化する勇気はあるだろうか? その不文律は,どうして生まれたのか? 疑問を呈しても変わらないのはなぜか? 何より誰のためなのか? これらの問いに胸を張って答えることはできるだろうか?

 翻って,本書におけるルールには,一本しっかりとした芯がスゥっと通っている。それは「こどものためになっているか?」である。この信念があるからこそ,不文律は胸を張って言語化され,ルールとして日の目を見たのだ。

 さて,最後に本書で白眉ともいえる部分をもう一つ紹介する。重症なこどもの入院管理の先,つまり各病態の集中治療管理におけるルールも教えてくれているのである。小児科医は手前味噌で集中治療をやりすぎるきらいがあるが,本当にこどものためを考えるなら,集中治療の専門家に診療を任せたほうが良い瞬間が実はたくさんあることを,本書から学んでほしい。

 本書を通読中,私はずっと深くうなずき続けていた。傍から見たその姿は,ロックに心酔しヘッドバンキングしているようだったろう。皆さんも珠玉なルールたちにロックを感じてください。ロックな書評,オシマイ!


《評者》 日本形成外科学会理事長
慶大教授・形成外科学

 本書『AO法骨折治療 アドバンスト頭蓋顎顔面手術』は,AO頭蓋顎顔面グループから2020年に出された書籍の日本語版です。本書は頭蓋顎顔面領域の骨に関した治療における最新の技術と方法論を網羅的に扱った貴重なテキストであります。またコンピュータ支援仮想手術計画や患者個別のカスタムメイドインプラントの作製といった革新的な技術を含んでおり,口腔外科医や形成外科医,さらには広く頭蓋顎顔面外科に携わる全ての医師・歯科医師にとって必読の書であります。本書は豊富な内容を含んでおりますので,原著では読むのに大変な労力がかかると思われますが,わかりやすい日本語訳を行っていただいたおかげで短い時間で大変理解しやすくなっています。日本語訳を行われた先生方の多大な努力に感謝致します。

 本書は,基本的な手術技術から最先端の技術まで,非常に豊富な写真とイラストを用いて頭蓋顎顔面領域に関する複雑な手術手技をわかりやすく解説しております。そのため視覚的な学習効果があり,実際に手術に携わる方々の手術の理解には非常に有効です。前半部分は,現在臨床に携わっている医師・歯科医師にとって理論と実践のバランスがよく取れた内容になっています。後半部では,コンピュータ支援手術計画の章は,現代の医療技術がいかに進化しているかを示しており,また,カスタムメイドインプラントの章は,個々の患者に対する個別化医療の重要性と,その実現方法について詳しく説明しており,実践的な知識を提供しています。実際の症例を基にした説明は,理論と実践のギャップを埋め,より実践的な知識の習得を可能にしています。

 このように本書は,頭蓋顎顔面外科の分野で,最新の技術と手法を学ぶための優れた教科書です。本分野に関心を持つ医師や歯科医師,学生にとっては,知識を深め技術を向上させるのに役立つ一冊であり,強く推薦致します。


《評者》 東大教授・耳鼻咽喉科・頭頸部外科

 内視鏡下鼻副鼻腔手術を学ぶ手法として,手術書を読む,手術に入って指導医に教わる,洗練された手術の動画を視聴する,などがある。いずれも手術修練の重要な要素であるが,手術書は通常「仮想的・理想的」な解剖の症例に対する手順が示されており,実際の症例の解剖の多様性に遭遇したときに,はたと行き詰まってしまう場合がある。手術の助手や洗練された手術動画の視聴から得られるものは大きいが,次々とモニターに現れて瞬時に処理される個々の構造物に対する系統的な知識がなければ,教育効果を最適化することは難しい。

 本書は内視鏡下経鼻手術の第一人者であるアデレード大のWormald教授と北大耳鼻咽喉科の先生方により企画された,内視鏡下鼻副鼻腔手術の症例問題を論理的に解く力を身につけるためのユニークなトレーニングブックである。もちろん単独で読んでも学習効果が上がるが,Wormald教授の原著『ウォーモルド内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術』をよりよく理解するための傍用の参考書にもなり,また原著から得られた知識や手術手技をさらに飛躍させ自分のものとするための実践のための書ともなる。加えて本書は用語の解説が豊富で,自分で鼻科学の原著論文を読むための基礎知識の習得にも役立つ。

 本文で述べられている通り,本書ではまず「手術を簡単にする」ための工夫,なぜそれを行うのか,その理論的根拠となる研究結果は何か,という点が詳しく解説されている。続いて副鼻腔手術の各論へと進むが,特に鼻科手術の難関である前頭洞の操作については多くのページが割かれている。術前CT読影による個々の症例の蜂巣と排泄路の解剖,術前プランニングの解説に続いて,600枚を超える豊富なイラストによって手術の流れがコマ送りのように順を追って図解されている。問題演習と答え合わせを行いながら学習が進んでいくイメージである。本書を読みながら副鼻腔3Dモデルを用いた手術トレーニングを行えば,まるでWormald教授が傍らに寄り添って指導してくれているかのような感覚になるだろう。

 また,本書には13にも及ぶコラムが掲載されており,アデレード留学を通じて得られた海外でのリアルな経験や知識,副鼻腔シェーマなど北大で実践されている試みが紹介されており,楽しく読み進めることができる。さらに,各ページの下欄にはワンポイントアドバイスが載っている。それぞれほんの数行のコメントであるが,いずれもある程度の鼻科手術の経験がある医師であれば一度は立ち止まって考えたことがある疑問にエキスパートの意見が示されており,思わず見入ってしまう。

 このような読み応えのある本が完成したのは,もちろんWormald教授の豊富な経験と手術を科学するマインドが出発点ではあるが,さらに北大の執筆者の先生方がWormald教授の手術コンセプトと体系をいったん消化した上で伝道師として読者にわかりやすい形で書き下してくれていることが大きい。

 本書は内視鏡下鼻副鼻腔手術に関する副鼻腔解剖の知識や手術手技を実臨床へと活用するために非常に適した書である。Wormald教授直伝の鼻科手術に関するテクニックや心得を学べる一冊として,初学者から熟練者まで全ての鼻科手術に携わる医師にお薦めする。

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