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AO法骨折治療 アドバンスト頭蓋顎顔面手術
腫瘍,骨矯正,外傷

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頭蓋顎顔面(CMF)領域の骨折治療に関する研究開発を行い、世界的な教育・普及活動を行っているAOCMFによるテキストの第2弾。今回はコンピュータ支援による仮想手術計画や患者個別のカスタムメイドインプラントの作製などの最新技術を含め、CMF領域の切除・再建・矯正手術の基本から最先端までのすべてを余すことなく解説。口腔外科医や形成外科医をはじめとしたCMF外科に携わるすべての医師・歯科医師へ贈る、充実の一冊。

原著 Michael Ehrenfeld / Neal D Futran / Paul N Manson / Joachim Prein
監訳 下郷 和雄
訳者代表 外木 守雄 / 宮脇 剛司
発行 2023年11月判型:A4頁:720
ISBN 978-4-260-05081-4
定価 41,800円 (本体38,000円+税)

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日本語版の序/序/はじめに/謝辞

日本語版の序

 AOCMF世界理事会の承認を得て,2017年に『AO法骨折治療頭蓋顎顔面骨の内固定──外傷と顎矯正手術』〔『Principles of Internal Fixation of the Craniomaxillofacial Skeleton: Trauma and Orthognathic Surgery』(Thieme,2012)の日本語版〕を原書の刊行から5年後に上梓し,幸いにも多くの読者を得た.
 その3年後の2020年秋に,同じAOCMFグループから,より先端的な疾患解釈と技術を網羅した第2巻である『Advanced Craniomaxillofacial Surgery: Tumor, Corrective Bone Surgery and Trauma』が刊行された.内容からしてその時点で確かに最先端といえる内容をできるだけ早く日本の関係の諸兄に届けるべく,ともにAOCMFJapanの代表を務めた,外木教授と宮脇教授とに相談して,先の第1巻の編集者を確保したうえで,直ちに作業に取りかかることにした.

 翻訳を担当した30名を超える方々はいずれもAOCMFの分野で活躍し,教育・講演活動に参加している国内随一の専門家ばかりである.
 とはいえ,これだけの大部の,多人数での翻訳作業となると,決して容易なことではない.そのうえに,COVID-19の跳梁である.デスクワークには支障はないとはいうものの,各自の主たる業務場所である医療現場での環境の大幅な乱れやすべての経済活動の低迷を前にして,さすがに物事の進捗は図れない.そして,3年ほどが経過してしまった.

 最先端の内容の紹介がやや遅れたとはいえ,本書が見事な統一感を持って近年のこの専門部位の外科治療の急速な進歩を余すところなくまとめてあることに変わりはない.もちろん質的に(量的にも)十分に読み応えのある“教科書”になっている.内容に関しては,まさに各々の著者本人が研究し開発してきた内容を記載していると感じられ,実に現場に即して実態を反映したものになっている.
 本書で取り扱っている多様で大量の学術文書の翻訳作業がほぼ順調に進んだのは,多くの著者と個人的にも仲間としてもつながりがある翻訳者をそろえることができたことも幸いしたといえる.

 この大部な教科書は,最初は気軽に読める本ではないと感じる向きもあろうが,母語で楽に読み進むにつれ,その記述が疾患/病態/手術計画/手術手技などの理解と新たな発見を誘うものであることに気づくであろう.この分野の一部にでも関与する医師/歯科医師が全編残さず読み込むことで,CMFの分野全体への理解が深まり,まさしく多科連携医療の中核を担うべき人材に必要な知見の集積に役立つ一冊になっていると確信している.
 精読後も机上に置いて折に触れて読み返し,時には参考文献にまで手を伸ばしていただくことで,最近20年ほどのこの領域の先端的臨床医学の発展をも体感できるものと思う.
 仕上がった訳本はページ割りもほぼ原書どおりに作られており,将来的に原書に戻って専門用語を使いこなしたいときの手がかりにも使えるだろう.

 本書を通じて,著者や翻訳者たちの,この臨床医学への誇りと愛を感じ取っていただき,原書の序に編集者が述べているように,この学問を“楽しんで”いただければ,訳者一同これに勝る喜びはない.

 “Enjoy CMF, good luck!”

 COVID-19のpandemicの影を引きずる2023年の未曾有の酷暑の夏に
 編集者 飯村祐二氏に感謝しつつ……
 監訳者 下郷和雄
 訳者代表 外木守雄 宮脇剛司


 『Principles of Internal Fixation of the Craniomaxillofacial Skeleton: Trauma and Orthognathic Surgery』 を上梓してから8年が経過し,このたびその第2巻に相当する『Advanced Craniomaxillofacial Surgery: Tumor, Corrective Bone Surgery and Trauma』が刊行の運びとなった.本書はAO財団の臨床系の1部門であるAOCMFの企画で作成された.AOCMFは当初から臨床の複数診療科にまたがった領域であるため,本書の企画では口腔顎顔面外科医,形成再建外科医,耳鼻咽喉科医,眼形成外科医,頭頸部外科医,および基礎研究者に執筆を依頼した.

 医学知識は急速に進歩しており,その進歩の普及手段は印刷媒体からビデオチャネルのようなデジタルプレゼンテーションへと変化している.他方,外科医学の原理と手術の基本はかなり一定していてそれほど速く変化するものではないことから,編集者としては先駆的な頭蓋顎顔面骨手術を冊子体に記述する意義が今も十分にある,と考えている.

 第2巻である本書は全6部からなっており,第1部では骨移植片/骨弁,骨置換材料,手技の概要を示す.第2部と第3部は,上/下顎骨,中顔面部,頭蓋-顔面移行部の切除と再建手術をカバーしている.第4部は頭蓋顔面骨格の複雑な変形および病態の矯正手術を扱い,第5部では画像診断と手術計画のテクノロジーを記す.そして最後の第6部では顔面同種移植の原理と技術を紹介する.

 手術の実際の細部に注目した1,300以上の図を付してあり,本文とイラストを組み合わせて外科系の専門各科での実践的手術トレーニングをサポートすることを目的とするとともに,経験を積んだ外科医が手術の参考にしたり,知識を再確認できるように配慮した.
 本書は多くの専門家からの稿で構成するうえで,重複なく統一感ある一冊にするように十分に配慮した.本書が読者の諸氏に真に有用なものとなるものになることを望み,感想やご意見を寄せていただくことを期待している.

 Michael Ehrenfeld, MD, DDS


(訳注)
 2012 年,Thieme 刊.日本語版は『AO 法骨折治療 頭蓋顎顔面骨の内固定──外傷と顎矯正手術』(医学書院,2017)として刊行されている.


はじめに

 AOCMFによるマニュアルの第1巻である『Principles of Internal Fixation of the Craniomaxillofacial Skeleton:Trauma and Orthognathic Surgery』*1 を2012年に上梓してから8年が経過した.AOCMFによるマニュアルの第2巻として,頭蓋顎顔面領域の高度な手術手技をまとめた『Advanced Craniomaxillofacial Surgery: Tumor, Corrective Bone Surgery and Trauma』を刊行するに際して,編集者としてEhrenfeld,Prein,Mansonの3教授に新たにFutran教授が加わった.包括的な頭蓋顎顔面の複雑な病態に対する論理的な手術学的解釈を,しかも関連各科の視点からこれほどまで統括的に記述する,という試みに世界の著名な専門家が参画するようなことは,AO財団*2 のような国際的で学際的な団体がなければ不可能なことであった.過去40年間で,頭部,頸部および頭蓋顔面骨格の疾患の理解と治療は爆発的な進歩を遂げてきた.
新しい手術法/固定法/移植再建術が開発され,なかでも手術計画/分析の分野と各種のインプラントの発展は目覚ましい.これらの進歩は,とりわけ手術に関連した革新的な治療コンセプトを生み出した.強固な内固定技術,頭蓋顔面骨の展開法に加えて,最新の手術計画アルゴリズムは,今日では外傷手術/腫瘍手術/顎矯正手術/頭蓋顔面手術に際して適用され,再建的/整容的な骨格手術の全体に影響
を与えている.

 『Principles of Internal Fixation of the Craniomaxillofacial Skeleton: Trauma and Orthognathic Surgery』と組本になる本書は,第1巻に記した頭蓋顔面骨格手術と軟組織分析に関する論理的な技術情報にさらなる情報を追加し,補完するものである.この第2巻は,第1巻に示した基本原則/基本手技を超えたより困難な課題を取り扱うのに必要な点をカバーし,さらには頭蓋顎顔面領域全域の治療結果の向上に貢献する,包括的な治療計画を可能にすることを目的としている.

 高度医療センターでの“チームアプローチ”を進めるのに必要なユニークでわかりやすい学際的な視点を,各分野の専門家が提供している.それらは口腔顎顔面外科,形成再建外科,耳鼻咽喉科/顔面形成再建外科,眼科/眼形成外科,脳神経外科,および頭頸部外科である.各分野の専門知識を,焦点を絞って集約し融合して,顔面の骨格手術の技術の過去40年間の進歩のすべてを余すところなく記載
してある.実際のところ,微小血管手術,骨格の分析,コンピュータ支援手術計画,精巧な個人用インプラントの作成,包括的なX線画像分析が出現して,モデルサージェリー,患者固有のカスタムメイドインプラント,コンピュータ支援の詳細な手術計画と分析などによって新しい手術原理や技術が生まれた.これによって,術者個々人が,より複雑な手術目標をより効率的に,短い手術時間で素晴らしい結果を失敗なく得られるようになった.

 重要なのは,X線画像分析やコンピュータ支援手術計画に関する新技術によって,比較的まれで非常に精緻な手術がすべての臨床家に行えるようになる点である.同じ分析手法を術後に使えばその結果からより新しい,よりよい治療法に資するデータが採取でき,継続的に新しいよい手術を生み出し続ける好循環が生まれる.この新しい情報の膨大な分量に,個々の臨床家は当初は圧倒されるかもしれない.しかし,これらの知識は章ごとに分割して解説されており,個々の臨床家が理解のうえで自らの治療アルゴリズムに組み込むことができるように配慮してある.

 この国際的な第一級の専門家を集めて調整をとっていくこと自体が,すでに大事業であった.アートワークを一様に詳細にかつ包括的に作成することも,通常の共著の教科書での限界をはるかに超えているが,このイラストの質と量が記述された原理の修得を助け,対象とした分野の臨床家が期待どおりに知識と技術を向上させるのに資するに違いない.また,さらなる研鑽によって知識と技術を向上させられるよう参考文献を挙げてある.
 今日では,より幅広くなった手術の可能性やインプラント材料,手術計画/分析技術によって手術手技がより単純でわかりやすくなり,患者にとってよりよい結果を得ることができるようになった.術者側からみれば,材料や分析に要する費用を加えても,手術時間の短縮,合併症の減少,二次/修正手術の減少,結果の確実性とあわせて考えると,患者への負担を軽減できる.

 AO財団というユニークな団体のおかげで私たちは,全世界/全世代にわたる,多くの診療分野の専門家からの恩恵を享受できる.第1巻と本書で得られる知識は,関連のすべての専門分野を統合した包括的かつ学際的なものである.本書を企画編集することで,この教科書を持つ人と同様に,私たちも確実に多くを学んだ.

 編集者として,この知識の進歩をもたらす学際的な交流を可能にした教育ネットワークを提供してくれたAO財団とその支援者に感謝する.

 AOCMFの国際的学際的な活動から特別に生み出されたこの成果を楽しんで学ばれることを.幸運を祈って.

 Michael Ehrenfeld, MD, DDS, Prof
 Neal D Futran, MD, DMD, Prof
 Paul N Manson, MD, Prof
 Joachim Prein, MD, DDS, Prof


(訳注)
*1 日本語版は『AO法骨折治療頭蓋顎顔面骨の内固定──外傷と顎矯正手術』(医学書院,2017)として刊行されている.
*2 AO財団についての概略は,上記日本語版のpp3~14を参照されたい.


謝辞

 編集者は,頭蓋顎顔面外科医の教育に必ずや大きく貢献する本書を分担して著し,読者に知識と経験を分け与えてくださった著者に感謝の意を表す.同時に,重複を避け全体の一貫性を確保するために原文を編集することを許してくださったことにも感謝申し上げる.

 本書の編集に際して多大な援助をくださったAlmuth Nussbaumer氏に特別な謝意を表する.

 本書の刊行にAO教育部門がその人材と専門的知識を提供してくれた.この企画の全体管理をしてくれたVidula H Bhoyroo氏と,献身的に支援いただいたUrs Rüetschi,Robin Greene,Carl Lau,Jecca Reichmuthの各氏に感謝する.

 Marcel Erismann主任をはじめとするすべてのイラストレーター諸氏と,植字を担当したRoman Kellenberger氏に感謝する.

 Prein教授に惜しみない後方支援を贈り,この企画に協力いただいたHans F Zeilhofer教授とChristoph Kunz教授に深く感謝する.

 AOCMFの元および現在の事務局長であるTobias Hüttl氏とErich Roethlisberger氏がこの重要な企画を一貫して支援してくれたことに感謝する.

 最後に,本書の執筆/編纂中に各々の家族の皆さんが示してくれた忍耐と寛容,援助,支援に感謝を表する.

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訳者一覧
日本語版の序

はじめに
謝辞
執筆者一覧

1 骨移植片,骨弁,骨置換材料および手技
 1.1 骨移植片と骨弁のタイプと採取
 1.2 骨延長術による頭蓋顎顔面骨の延長
 1.3 セラミック骨代替材料
 1.4 頭蓋顎顔面領域の組織増殖因子

2 下顎の切除と再建
 2.1 腫瘍手術におけるアクセス骨切りと骨接合
 2.2 連続性を維持した下顎骨の切除(辺縁切除術)
 2.3 良性の単房性骨病変
 2.4 下顎区域欠損:架橋,遊離自家骨移植による再建
 2.5 関節突起の再建
 2.6 血管柄付き組織移植による下顎再建
 2.7 プレファブリックフラップによる再建法

3 中顔面と頭蓋-顔面移行部の切除と再建
 3.1 中顔面へのアプローチと骨切り
 3.2 中顔面の切除手術と再建手術
 3.3 眼窩の切除手術と再建手術
 3.4 二次的前頭洞手術
 3.5 頭蓋底へのアプローチ
 3.6 頭蓋底の再建
 3.7 頭蓋冠の再建
 3.8 眼窩と鼻篩骨骨折後の二次修正

4 頭蓋顔面骨格の複雑な変形および病態の矯正手術
 4.1 銃創の治療
 4.2 整復不良と不正咬合の治療
 4.3 顎関節強直の治療
 4.4 萎縮上下顎骨の歯槽堤増大術
 4.5 顔面半側萎縮症(HFM)──診断,分類,治療
 4.6 顎裂への骨移植と歯槽骨欠損の取り扱い
 4.7 片側および両側の完全口唇口蓋裂に対する顎矯正手術
 4.8 創外骨延長器による上顎の骨延長法
 4.9 創内骨延長器による中顔面の前方移動
 4.10 高位中顔面骨切り術
 4.11 頭蓋骨縫合早期癒合症
 4.12 眼窩性両眼隔離症
 4.13 脳瘤
 4.14 薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)

5 画像診断と手術計画のテクノロジー
 5.1 下顎関節突起と中顔面骨折の内視鏡治療
 5.2 頭蓋顎顔面手術における3D製造技術とその応用
 5.3 頭蓋顎顔面再建術のナビゲーションとコンピュータプランニング
  5.3.1 序論
  5.3.2 画像解析:データ取得と処理
  5.3.3 仮想モデルとデータ抽出
  5.3.4 実体模型
  5.3.5 術中ナビゲーション
  5.3.6 術中イメージングと治療の質の管理
  5.3.7 事前整形インプラント:汎用型
  5.3.8 既製の眼窩用事前整形メッシュ
  5.3.9 下顎再建用事前整形プレート
  5.3.10 下顎用カスタムメイドインプラント
  5.3.11 頭蓋顔面再建に用いるカスタムメイドインプラント
  5.3.12 コンピュータ支援による手術計画と実際──実体模型,カッティング/ドリリング/ポジショニングガイド,カスタムメイドインプラント
  5.3.13 顎矯正手術とデンタルスプリント作製の自動化
  5.3.14 頭頸部腫瘍の専門科間の共通課題──コンピュータ支援手術の現在と未来
  5.3.15 コンピュータ支援による甲状腺眼症の手術

6 顔面同種移植の原理と技術

索引

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うまいやり方を習得するためのカギが述べられた良書
書評者:三谷 浩樹(がん研有明病院頭頸科部長)

 「これは手術かな……」と考える患者を診たときに,CT/MRI,触診/視診から「どこまで切ればよいのか」を考えるが,いざ手術が始まれば次々と現れる動脈・静脈・神経の処理が待っており,術者には迷っている猶予はない。例えば下顎歯肉癌では,Ca断端に近づくことなく下顎周囲組織をフリーにする必要があり,そこからいよいよ下顎骨の処理に入っていく。レシプロソーで骨を切る時間はごく一瞬であるので,「刃を当てる位置,角度,力加減」がベストでなければ,術前に思い浮かべたとおりの切除にならないし,少しズレただけでも場所によっては,その後の再建計画にも影響を及ぼすことになる。

 本書『AO法骨折治療 アドバンスト頭蓋顎顔面手術』は,そのような頭蓋・顎顔面骨の手術に携わる医師にとって,基本から応用までを網羅した良い指南書である。第2部の「下顎の切除と再建」を例に挙げると,骨切りの基本法から下顎再建法まで,項目ごとに実践に沿って,立体的なイラストとともに詳しく述べられている。この挿絵は,切除前/切除後の様子がわかるように本文とマッチしており,実際の手術の「一瞬の骨切除」の際にも,術者の脳裏にイメージが浮かび上がり,正しい切除ラインをトレースする助けになるであろう。

 口腔がんでは下顎辺縁切除にとどまらず,下顎区域切除・再建を行う機会はたびたびあるが,切除範囲は個々の症例ごとで異なるため,複雑な動きを再現するのにはどのような方法がいいのか,多くの術者が悩んでいる実情がある。例えば下顎再建において,再建後の偏位は限りなくゼロをめざすが,術前CTを用いた3Dプリンターによるカスタムメイドの実体モデルで下顎カーブを再現する場合,死腔を埋める軟部組織/皮島との関係から腓骨のどこを使うか,スクリュー孔をどこにうがつかなど,下顎の位置/動きが最適になるようにその場での微調整が求められる。実臨床では「計画どおりだからこれで良いはずだ」と突き進むのではなく,三次元的な下顎の動きを考慮しながら少しずつ修正を施す必要があるため,「これではうまくないな……」という場面に遭遇したときは,何とかして良い工夫/施策を生み出さねばならないが,本書では随所に解決につながるカギが述べられている。各項目を読み解くと,先達のやり方を目学問/耳学問で学んだことを思い出し,「そういったメカニズムであったか」と改めて知識が整理されていった。

 本書は定型的な手術方法から,さらに発展したケースへの対応まで,平易に訳された文章とイラスト/写真でわかりやすく紹介されており,「トラブルが起こりにくいやり方」をめざし,自己の能力として定着させるにはおあつらえ向きの良書である。座右の書としてすぐに読み返せるよう,耳鼻咽喉科/口腔外科の初学者からエキスパートまで,幅広くお薦めしたい。


最新の技術と手法を学ぶための優れた実践的教科書
書評者:貴志 和生(日本形成外科学会理事長/慶大教授・形成外科学)

 本書『AO法骨折治療 アドバンスト頭蓋顎顔面手術』は,AO頭蓋顎顔面グループから2020年に出された書籍の日本語版です。本書は頭蓋顎顔面領域の骨に関した治療における最新の技術と方法論を網羅的に扱った貴重なテキストであります。またコンピュータ支援仮想手術計画や患者個別のカスタムメイドインプラントの作製といった革新的な技術を含んでおり,口腔外科医や形成外科医,さらには広く頭蓋顎顔面外科に携わる全ての医師・歯科医師にとって必読の書であります。本書は豊富な内容を含んでおりますので,原著では読むに大変な労力がかかると思われますが,わかりやすい日本語訳を行っていただいたおかげで短い時間で大変理解しやすくなっています。日本語訳を行われた先生方の多大な努力に感謝致します。

 本書は,基本的な手術技術から最先端の技術まで,非常に豊富な写真とイラストを用いて頭蓋顎顔面領域に関する複雑な手術手技をわかりやすく解説しております。そのため視覚的な学習効果があり,実際に手術に携わる方々の手術の理解には非常に有効です。前半部分は,現在臨床に携わっている医師・歯科医師にとって理論と実践のバランスがよく取れた内容になっています。後半部では,コンピュータ支援手術計画の章は,現代の医療技術がいかに進化しているかを示しており,また,カスタムメイドインプラントの章は,個々の患者に対する個別化医療の重要性と,その実現方法について詳しく説明しており,実践的な知識を提供しています。実際の症例を基にした説明は,理論と実践のギャップを埋め,より実践的な知識の習得を可能にしています。

 このように本書は,頭蓋顎顔面外科の分野で,最新の技術と手法を学ぶための優れた教科書です。本分野に関心を持つ医師や歯科医師,学生にとっては,知識を深め技術を向上させるのに役立つ一冊であり,強く推薦致します。


ページをめくるだけで手術をしたくなる,充実の教科書
書評者:池邉 哲郎(日本口腔外科学会理事長/福岡歯大教授・口腔外科学)

 何気なく手に取るとズッシリとしたその重量感に圧倒されます。書籍というものは手に持ってその厚みや重さを感じるだけで読む前から何だか充実して知識が増えたような錯覚にとらわれるものです。表紙も快い上質な手触りで,指先の触感からその内容の豊かさが伝わってきます。ページをめくると豊富な写真やイラストが読者を読む気にさせるでしょう。その触感こそが電子書籍にはない知識のリアリティというものではないでしょうか。このリアリティこそAO法の真骨頂かと思います。

 さてAOCMFによる本シリーズの第1巻は,2012年に原書が上梓され,日本語版が2017年に発行されました。第2巻となる本書は,原書が2020年に上梓されたのち,このたびの日本語版の発刊となったわけです。外傷と顎矯正手術における「頭蓋顎顔面骨の内固定」が主題であった6年前の第1巻と比べると,そのタイトルも『AO法骨折治療 アドバンスト頭蓋顎顔面手術――腫瘍,骨矯正,外傷』と進化し,内容が格段に充実し,実践的になっています。その目的は,「第1巻に示した基本原則/基本手技を超えたより困難な課題を取り扱うのに必要な点をカバーし(中略)包括的な治療計画を可能にする」という「はじめに」の言葉に端的に表現されています。章立てにつきましても,骨材料,下顎手術,中顔面手術,矯正手術,と分かれ,それぞれの章に第1巻にはなかった再建手術の項目を設けて充実させ,さらに「画像診断と手術計画のテクノロジー」を加えて,最新のナビゲーションやカスタムメイド技術も取り入れています。最後の章には「顔面同種移植の原理と技術」という将来を見据えた技術に触れており,痒いところに手が届く充実ぶりです。もちろん前巻同様,カラフルで見やすい豊富なイラスト,写真が挿入され,読者の理解を助けています。根拠となる文献や図書も付記され,エビデンスを伴う最先端の教科書と言えるでしょう。ページをめくるだけで手術をしたくなる衝動に襲われると言えば言い過ぎでしょうか。

 最後になりますが,本書は適切な専門用語を駆使したこなれた文章で,大変読みやすく和訳されています。翻訳していただいた日本口腔外科学会の誇るSurgeonである先生方,そしてまた形成外科と耳鼻咽喉科の素晴らしい先生方に感謝申し上げます。

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