医学界新聞

看護のアジェンダ

連載 井部俊子

2024.02.26 週刊医学界新聞(看護号):第3555号より

 2024年1月3日に届いた朝日新聞の1面は「能登震度7,死者57人」の大見出しのもと,「M7.6 200棟以上火災,3.2万人避難」と並んで「日航機炎上,海保機と衝突」が報じられた。これが私の誕生日の新聞記事である。

 2024年1月15日発行の公益社団法人日本看護協会「協会ニュース」では,高橋弘枝会長が次のように報告している。「日本看護協会は,本会内に危機管理対策本部を設置し,発災直後から被災地域の各県看護協会と連絡を取りながら対応を進めております。石川県看護協会では1月5日から,災害支援ナースの県内派遣(災害対応区分レベル1)を開始しました。さらに6日には,本会による全国派遣(災害対応区分レベル3)も開始し,10日現在,6県看護協会から延べ84人の災害支援ナースを派遣しているところです」。さらに,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4〔2022〕年12月)が制定されたこと,国による広域派遣や養成・登録の仕組みの整備が進んだことを受けて,日本看護協会では,災害時の応援派遣に加え,新興感染症発生時にも対応できる新たな災害支援ナースの仕組みを構築し,「災害・感染症医療業務従事者」の養成を2024年4月からスタートすると述べている。

 2024年は,お互いを思い,それぞれができることを誠実に行う新たな出発となった。どのようなナースを養成し,派遣するかといった仕組みは,最前線の現場である医療機関等の看護管理者の意思決定に直接影響を及ぼす。

 同号の協会ニュース3面に,「第27回認定看護管理者認定審査」結果が掲載されている。707人が受験し,合格者は568人(合格率80.3%)。これで合格者総数は5258人になったという。日々さまざまなことが生じ,迅速な判断が求められる看護管理者を,効率良く輩出する必要があると考えると,合格者568人はどのくらいの時間をかけて,どのような力をつけてきたのであろうか。

 このところ,日本看護協会認定看護管理者制度の抜本的見直しを必要と考えてきた私は,思い立って,正月早々,認定看護管理者の現任教育に関心を持っている仲間3人()を招集した。そこで議論した結果をたたき台として世に問うこととしたい。

 

認定看護管理者制度の刷新について(提言)

Ⅰ.基本的な考え方

 『看護職の生涯学習のガイドライン』(2023年)の基本的考え方を踏襲する。

1.生涯学習は,看護職個人が主体となって行う
2.生涯学習は,生涯にわたり行う
3.生涯学習は,学んだことを実践に活かし,実践から学ぶという循環によって行う
4.生涯学習は,看護職個人としての責務として行う
5.生涯学習は,個人の主体性を尊重して行う
6.生涯学習支援は,看護職を雇用している組織等の責務として行う
7.生涯学習支援やキャリア形成支援等を行う機関は,看護職個人と雇用している組織の双方を支援する

Ⅱ.認定看護管理者制度刷新の方向性

 現行制度を上記の考え方にもとづいて制度を修正する。

1.認定看護管理者教育のあり方

1)学習者中心とする
・看護管理者個々が自らの学習ニーズにもとづいて必要な科目を選択し,必要な単位を取得する(ファースト・セカンド・サードの撤廃)。
・教育機関を科目によって選択できるようにする。
・看護管理者の「実務」に密着した科目を準備し,成人学習理論を適用する。
・職位や年齢を問わず看護管理に関する学習を早期から始められるようにする。

2)教育機関の特徴を活かしたカリキュラム作成を可能とする
・診療報酬制度や介護報酬制度,労働基準法など制度に関連した科目は,他職種協働において必須の情報であるため,共通科目として日本看護協会がe-learningを設定する。
・すべての教育機関のカリキュラムを公表し,学習者の選択に資する。
・教育機関認定制度の透明化を図る。
・大学院のクラスの一部のり入れ(科目等履修)を可能とする。

3)単位制の導入と資格試験
・学習者は所定の単位を取得し,日本看護協会に申告することによって日本看護協会認定看護管理者試験を受けることができる。
・現行制度は,105時間(ファースト),180時間(セカンド),180時間(サード)の465時間であるから(看護管理者教育検討委員会答申にもとづいて)15時間を1単位とする31単位となるが,新制度は10単位(150時間)に短縮する。
・毎年,特定科目の単位更新を義務づける。

2.認定看護管理者教育機関のあり方

1)教育機関の認定は,日本看護協会が行う

2)認定看護管理者教育を担当する職員の育成
・カリキュラムマネジメント,成人学習理論などの基礎知識の学習を必須とする。

3)単位認定の基準は各教育機関が定める

3.カリキュラムの構成
 職能団体が実施する看護管理者教育であるから,実務教育が基本となる。カリキュラムの骨格は,「病院看護管理者マネジメントラダー」が示している6つの能力(組織管理,質管理,人材育成,危機管理,政策立案,創造する能力)などがあるが,地域包括ケアに伴う社会的ニーズにもとづいて柔軟な科目構成とするため十分に吟味する。看護管理者の土台となる「読む,書く,話すなどのリテラシー」「わが国の保健医療福祉制度」「労働法」は必須の学習内容とする。

山田雅子氏(聖路加国際大学),吉田千文氏(常磐大学),佐々木菜名代氏(浜松医科大学医学部附属病院)

 

 2021年3月末現在,認定看護管理者の年齢構成(n=4371)は,55~59歳が40%,60~64歳が28%,50~54歳が19%,65歳以上が7.2%,50歳以下が5.7%となっている。平均年齢は57.1歳である。認定看護管理者という資格を取ったころには定年を迎えることになる。こうなると,資格を取ることが目的化してくる。50歳以下が1割にも満たない現状をどう考えたらよいのであろうか。

 私は本連載第180回(2019年12月)で次のように書いた。

 

 看護系大学が増え,それに伴って大学院も増加しているなかで,認定看護管理者教育は早晩,大学院レベルに移行し,学位が取れるようにすべきであると私は考える。管理の基礎は学士課程で学び,上級実践は大学院で学習する。他方,現任教育ではその時代に必要な重要な施策や社会情勢に関することなどを自由に選んで学習することができるような環境を整えたいものである。日本看護管理学会もその一翼を担えるであろう。

 

 今回の提言はその途中にある。


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