看護のアジェンダ
[第229回] Everyday ethics(日常倫理)
連載 井部俊子
2024.01.22 週刊医学界新聞(看護号):第3550号より
2023年11月末,「今度everyday ethicsを書きたいと思っています」という相談を著者から聞いて心待ちにしていた新刊が完成し,手もとに届いた。
携帯電話を探し回る患者,鳴り響くセンサー
頁をめくって“ながめて”いると,こんなフレーズが目に飛び込んできた。「携帯電話を身につけ,操作するのが本人にとっての日常であり,毎日の生活に欠かせないものであった。そのため,携帯電話を探すために本人は歩き回り,一方,看護師は,本人が立ち上がるたびに鳴り響くセンサーへの対応に追われてしまっている」というのである。客観的に考えると,なんともこっけいな話である。この方は,「携帯電話を日常的に使用していたにもかかわらず,入院するやいなや,看護師は“紛失するおそれがある”と家族に相談し,携帯電話をナースステーションで管理することにした」というのである。しかも,「家族もまた,“他人に迷惑がかかるから”とその管理に同意している」。
いったいどういういきさつがあったのかと思い,該当の事例を読んだ。
河村隆さん(80歳代)は,70歳代の妻と仕事を持つ40歳代の長女との3人暮らしで,長く営業職に携わっていた。河村さんはトイレに対するこだわりがあり,いつ排泄したかをカレンダーに書き込むなど几帳面な性格であった。ところが最近は日時がわからなくなり,正しく記入することができなくなっていた。さらに,夜中にトイレに行くときに転倒することが増えてきた。
河村さんはある日,自宅で転倒して救急入院し,外傷性くも膜下出血と診断された。認知症による短期記憶障害,見当識障害,せん妄を発症していた。状況がよく理解できず混乱した河村さんは,「家に帰りたい」と何度もベッドから降りようとして落ち着かず,安静を保つことが困難であったことから抗精神病薬が処方された。さらに安全対策として,起き上がったら作動するセンサーがベッドに装着された。
入院2日目の朝,センサーが鳴って看護師が駆けつけると,河村さんがベッドの脇に倒れていた。床頭台に頭をぶつけたようであった。すぐに頭部CT撮影をしたが経過観察となった。
くも膜下出血の経過は良好であったため,リハビリテーションが開始された。河村さんは徐々に歩行できる距離...
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