医学界新聞

書評

2024.02.19 週刊医学界新聞(通常号):第3554号より

《評者》 南越谷病院リハビリテーション科

 腰痛および体幹機能障害は,理学療法士が臨床において頻繁に直面する課題の一つである。理学療法士の特殊性は人の運動を扱うことにある。そのため上肢の障害に対する肩甲骨の位置の修正,下肢の障害に対する理想的な荷重の回復および初動の力源という意味でも,腰部骨盤帯もしくは体幹に対する運動療法は基本となることが多い。腰部に対する運動療法は,疾患にかかわらず,ADLの拡大に向けた理学療法の根幹になると言える。

 本書では,腰部骨盤帯に関して,構造と機能および評価から解説されている。そのため,書名にある非特異的腰痛だけではなく,多くの腰部疾患および体幹機能についての基本事項が記載されている。宮本重範氏の教えが生かされ,現在では「医療面接」と言われることも多い「問診」および「視診」を重視しながら,自動運動時の痛みの発現もしくは制限からフローチャート(アルゴリズム)が展開されている。医療面接の経験が少ない理学療法士にとっては,「問診」の項目が参考になるであろう。

 腰部疾患に対する運動療法には個別性が必要と言われているが,必須の評価項目,それに対する運動療法は全く確立されていないのが現状であり,議論するためのたたき台となるものが必要とされている。フローチャート内の検査では,難しい手技が入らないように配慮されている。今後は運動器理学療法に関して,本書をベースに,さまざまな腰部疾患および診療形態でのアルゴリズムを話し合うことが重要であろう。

 運動療法については,腰部骨盤帯の安定化に重要な筋群について,急性期,亜急性期,慢性期と病期に分けて提案されている。負荷量や対象とする筋群の組み合わせなど臨床場面で悩んでいる理学療法士も多いのではないだろうか。本書では具体的な方法論が紹介されている。一部でスリングを使用した運動が紹介されているが,まだ完全に一般化された道具ではないので,代替案の提案が待たれる。また,わが国の臨床でよく目にする側弯を伴う中高齢者に対する検査および運動療法は参考になると思われる。

 第8章の非特異的腰痛の治療理論の変遷とシステマティック・レビューでは,治療理論の変遷がわかりやすく解説されているが,モーターコントロールエクササイズのシステマティック・レビューでは拡大解釈が見受けられる。臨床における介入研究のデザインとその効果判定は難しく,十分な研究報告が出ていないことがわかる。わが国において不十分なこの研究の隙間を埋めていただけることを期待したい。

 臨床において,腰痛あるいは体幹機能に対するさらなる治療効果を知りたい,あるいは臨床研究を行いたい方には,ぜひご一読いただきたい。


《評者》 明治薬科大教授・公衆衛生・疫学

 医療者,特に薬剤師の仕事の中心がモノからヒトへ変化し,それに応じて臨床現場で行う臨床研究(介入研究)にかかわる機会が増えてきています。一方,それらの効果測定には,検査値の変化など測定可能かつ客観的指標を用いることが多く,患者中心の医療と言いながら,患者の視点からその効果を測定する研究は限られています。患者視点で効果を測定する代表的な指標が健康関連QOLです。しかしながら医学・薬学教育の中で,このようなQOL評価について学ぶ機会がなく,患者の視点で効果測定を行いたくても,どうしたら良いのかわからない医療者も多いのではないかと思います。

 「臨床・研究で活用できる!」と冠された本書は,医療現場で医療者が,患者が自分自身の健康状態をどのようにとらえているか,治療によってそれがどのように変化しているかを知りたいと考えたときに役立つ情報を与えてくれます。本書は,健康関連QOLとは何を示す指標なのかといった概念的な説明から,日本で使用可能なQOL尺度にはどのようなものがあるかまで,わかりやすく丁寧に書かれています。特に,対象疾患を選ばずに健康全般のQOLをとらえる包括(一般)尺度として5種類,ある特定の疾患のQOLをとらえる疾患・病態特異的尺度として33種類が紹介されています。尺度の特徴,開発の経緯,質問票,結果の解釈,使用上の注意,実際に使用されている研究の紹介など,項目ごとに整理されており,臨床研究にQOL指標を使いたいと考えたときに,どのQOL指標が最も適しているかを比較検討できるようになっています。また,自らがQOLを測定する機会がなくても,QOLを扱う臨床論文が増えてきている現状を踏まえると,本書で取り扱っているQOL評価の特性を理解しておけば,論文に書かれている結果の解釈が容易になります。

 まずは,患者中心の医療の最前線で活躍している医療者,特に患者にかかわる機会の増えてきている薬剤師で,目の前の患者が自分の健康状態をどのように感じているのか,患者視点で治療がうまくいっているのかを知りたいと考えている方には,ぜひ手に取って読んでいただきたい一冊です。


《評者》 日本口腔外科学会理事長
福岡歯大教授・口腔外科学

 何気なく手に取るとズッシリとしたその重量感に圧倒されます。書籍というものは手に持ってその厚みや重さを感じるだけで読む前から何だか充実して知識が増えたような錯覚にとらわれるものです。表紙も快い上質な手触りで,指先の触感からその内容の豊かさが伝わってきます。ページをめくると豊富な写真やイラストが読者を読む気にさせるでしょう。その触感こそが電子書籍にはない知識のリアリティというものではないでしょうか。このリアリティこそAO法の真骨頂かと思います。

 さてAOCMFによる本シリーズの第1巻は,2012年に原書が上梓され,日本語版が2017年に発行されました。第2巻となる本書は,原書が2020年に上梓されたのち,このたびの日本語版の発刊となったわけです。外傷と顎矯正手術における「頭蓋顎顔面骨の内固定」が主題であった7年前の第1巻と比べると,そのタイトルも『AO法骨折治療 アドバンスト頭蓋顎顔面手術――腫瘍,骨矯正,外傷』と進化し,内容が格段に充実し,実践的になっています。その目的は,「第1巻に示した基本原則/基本手技を超えたより困難な課題を取り扱うのに必要な点をカバーし(中略)包括的な治療計画を可能にする」という「はじめに」の言葉に端的に表現されています。章立てにつきましても,骨材料,下顎手術,中顔面手術,矯正手術,と分かれ,それぞれの章に第1巻にはなかった再建手術の項目を設けて充実させ,さらに「画像診断と手術計画のテクノロジー」を加えて,最新のナビゲーションやカスタムメイド技術も取り入れています。最後の章には「顔面同種移植の原理と技術」という将来を見据えた技術に触れており,痒いところに手が届く充実ぶりです。もちろん前巻同様,カラフルで見やすい豊富なイラスト,写真が挿入され,読者の理解を助けています。根拠となる文献や図書も付記され,エビデンスを伴う最先端の教科書と言えるでしょう。ページをめくるだけで手術をしたくなる衝動に襲われると言えば言い過ぎでしょうか。

 最後になりますが,本書は適切な専門用語を駆使したこなれた文章で,大変読みやすく和訳されています。翻訳していただいた日本口腔外科学会の誇るSurgeonである先生方,そしてまた形成外科と耳鼻咽喉科の素晴らしい先生方に感謝申し上げます。

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