臨床・研究で活用できる!
QOL評価マニュアル

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QOLを医療や福祉分野のアウトカムとして活用しようとする流れが加速している昨今、医療者はQOL尺度の基礎知識と実際の使い方を把握しておく必要があるといえる。本書は、現代の医療・福祉分野でおさえるべき46の尺度をピックアップ。各々の特徴を述べるとともに、尺度を使用する際に必要となる開発者、質問票、版権や採点方法、さらにはエビデンスベースの活用方法をまとめている。QOL評価の新たなバイブルとなる1冊。

監修 下妻 晃二郎
編集 能登 真一
発行 2023年11月判型:B5頁:352
ISBN 978-4-260-05279-5
定価 4,950円 (本体4,500円+税)

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  • 序文
  • 目次
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 医療の世界において,QOLという言葉は,もはや当たり前に目にしたり口にしたりするようになってきた.たとえば,各疾患領域における診療ガイドラインに治療の目標として患者のQOLの改善が掲げられていたり,臨床試験のアウトカムにQOL尺度が副次的な項目として含まれていたりする.また,臨床現場を離れた日常においても,ちょっとしたエピソードでQOLが上がった,下がったなどと言い合うようになってきた.このように臨床現場か否かを問わず使われるようになってきたQOLであるが,これを医療や福祉のアウトカムとして用いる場合には,ある程度の基礎知識と各種尺度の特徴を把握しておく必要があると思われる.
 私がまだQOL初学者であったころ,その学問的な拠りどころとしたのは池上直己,福原俊一,下妻晃二郎,池田俊也という4巨頭によってまとめられた『臨床のためのQOL評価ハンドブック』(医学書院,2001)というテキストであった.発刊された当時,ワクワクしながらそれを手に取り,その内容に感動したことを今でも鮮明に覚えている.そしてそれは今なお,国内でQOLを学ぼうとする人たちにとってのバイブル的存在として君臨し続けている.
 一方で,その感動から20余年が経過し,QOLをめぐる環境が大きく変化したことも事実である.まず,QOLに関連した学会や論文発表などをとおして学術的な発展が飛躍的にもたらされた.次にそのことと連動して,国内で使用できるQOL尺度が格段に増えてきた.そして,これらの尺度を用いるというニーズが臨床現場だけにとどまらず,大学院での研究や製薬企業でのアンメットニーズの把握,さらには費用対効果評価という行政での応用へと広がってきたのである.
 このようなQOLをめぐる現代のさまざまなニーズに応えるために,学術的知見をアップデートさせた新たなテキストの必要性が認識され,本書は誕生することとなった.編集に際して心がけたことは,QOLという指標をあくまで科学的な視点でとらえるということと,それまでの類書が疾患ベースでまとめられていたのに対して,QOLの尺度の分類ベースでまとめるということであった.前者は,計量心理学を応用した学術的な基盤を整理するためであり,後者は個々の尺度の特徴を顕在化させ,より実用的な存在になるよう配慮した結果である.
 なお,当初は,できるだけ多くの評価尺度を紹介しようと努めたが,紙面の都合や版権の問題で掲載できなかった尺度も多い.また,尺度の性格上,質問票そのものを掲載できなかったものも少なくない.これらのことを含めて,現時点で最善を尽くした内容であることをどうかご理解いただきたい.
 本書が臨床現場や研究現場で活躍する人々に受け入れてもらえることを心から願うとともに,それを糧として今後も開発され続けるであろう尺度を追加しながら成長していけるのであれば望外の喜びである.
 今回の刊行にあたっては,QOLを重要なアウトカムの1つとして活用している各領域の専門家の先生方に執筆の依頼を差し上げた.私のような若輩者からの不躾な依頼を快く引き受けてくださった諸先生方に心から感謝したい.1つの尺度を開発するためにどれだけの時間と努力が必要であるかを知る1人として最大限の敬意を表するとともに,本書をとおしてQOLの視点を大事にしようとする立場を共有できたことに勝手ながら感激させてもらっている.特に,鈴鴨よしみ先生にはたくさんのアドバイスとともに,多くの尺度のご執筆をご担当いただいたことに御礼を申し上げたい.
 また,立命館大学の下妻晃二郎先生にも心からの御礼を申し上げたい.さまざまな立場がおありになるなか,監修の依頼を快くお引き受けいただいた.先生が国内でQOL研究を牽引されてきた功績は計り知れないくらいに大きく,私自身も先生に教わったことは数えきれないが,そのご恩を本書の中で少しでもお返しできているのであればこれ以上幸せなことはない.
 そして,最後になったが,しかし最小という意味ではなく,医学書院の北條立人氏にも感謝を申し上げたい.本書の企画段階から数多くの助言と,執筆者の先生方との幾重にもわたる連絡調整の労を制作担当の田邊祐子氏とともに取っていただいた.氏の熱意と活躍なくして本書は日の目を見ることはなかったであろう.その意味では,まさに私と北條氏との共同作業によって本書が完成したと言っても決して過言ではないのである.

 2023年9月
 秋の訪れを喜びながら
 編集 能登真一

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総論 QOLとは
 CHAPTER 1 QOLの基礎知識
   1 QOLと幸福の概念
   2 健康に関連するQOLと関連しないQOL
 CHAPTER 2 健康関連QOLの評価尺度
   1 プロファイル型尺度とインデックス型尺度
   2 包括(一般)的尺度と疾患特異的尺度・病態特異的尺度
 CHAPTER 3 評価尺度の測定特性
   1 信頼性
   2 妥当性
   3 反応性(応答性)
   4 解釈可能性

各論 健康関連QOLの活用法
 CHAPTER 4 包括(一般)的尺度
  プロファイル型
   1 SF-36, SF-12, SF-8
   2 QGEN (Quality of Life General)
  インデックス型
   1 EQ-5D (EuroQol 5Dimensions)
   2 HUI (Health Utilities Index)
   3 SF-6D
 CHAPTER 5 疾患・病態特異的尺度(世代特異的尺度を含む)
  プロファイル型
   1 FACT-G (Functional Assessment of Cancer Therapy-General)[がん]
   2 EORTC QLQ-C30 (European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire Core 30)[がん]
   3 MacNew (The MacNew Heart Disease Health-related Quality of Life Questionnaire)[心疾患]
   4 SGRQ (St. George's Respiratory Questionnaire)[COPD]
   5 SRI (Severe Respiratory Insufficiency Questionnaire)[呼吸不全]
   6 DQOL (Diabetes Quality of Life)[1型糖尿病]
   7 DTR-QOL 質問表 (Diabetes Therapy-Related QOL Questionnaire)[糖尿病]
   8 PAID (Problem Area in Diabetes Survey)[糖尿病]
   9 KDQOL (The Kidney Disease Quality of Life)[慢性腎疾患]
   10 PGSAS-45 (Postgastrectomy Syndrome Assessment Scale-45)[胃切除後障害]
   11 IBDQ (Inflammatory Bowel Disease Questionnaire)[炎症性腸疾患]
   12 SS-QOL (Stroke Specific QOL Scale)[脳卒中]
   13 SIS (Stroke Impact Scale)[脳卒中]
   14 QOL-AD (Quality of Life in Alzheimer’s Disease)[アルツハイマー型認知症]
   15 DQoL (Dementia Quality of Life)[認知症]
   16 QLS (Quality of Life Scale)[統合失調症]
   17 SQLS (Schizophrenia Quality of Life Scale)[統合失調症]
   18 PSQI (Pittsburgh Sleep Quality Index)[睡眠障害]
   19 WOMAC (Western Ontario and McMaster Universities)[変形性関節症]
   20 JKOM (Japanese Knee Osteoarthritis Measure)[変形性膝関節症]
   21 RDQ (Roland-Morris Disability Questionnaire)[腰痛]
   22 NPDS (Neck Pain and Disability Scale)[頸部痛]
   23 DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)[上肢・手指疾患]
   24 JOQOL (Japanese Osteoporosis Quality of Life Questionnaire)[骨粗鬆症]
   25 HAQ-DI (Health Assessment Questionnaire Disability Index)[膠原病]
   26 PDQ-39 (Parkinson’s Disease Questionnaire-39)[パーキンソン病]
   27 ALSAQ-40 (The Amyotrophic Lateral Sclerosis Assessment Questionnaire)[ALS]
   28 MSQOL-54 (Multiple Sclerosis Quality of Life-54 Instrument)[多発性硬化症]
   29 NEI VFQ-25 (25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire),VFQ-11 [視覚関連疾患]
   30 DLQI (Dermatology Life Quality Index)[皮膚疾患]
   31 PedsQL (Pediatric Quality of Life Inventory)[小児]
   32 GOHAI (General Oral Health Assessment Index)[口腔関連疾患]
   33 SarQoL (Sarcopenia Quality of Life)[サルコペニア]
  インデックス型
   1 EQ-5D-Y
   2 ASCOT (Adults Social Care Outcomes Toolkit)
   3 FACT-8D (Functional Assessment of Cancer Therapy Eight Dimension)
   4  EORTC QLU-C10D (EORTC Quality of Life Utility Measure-Core 10 Dimensions)
   5 ICECAP (Investigating Choice Experiments for the Preferences of Older People─CAPability)
   6 CarerQol
 CHAPTER 6 その他のQOL 尺度
   1 VAS (Visual Analogue Scale)
   2 SEIQoL (The Schedule for the Evaluation of Individual Quality of Life)

索引

Column
 1 幸福度評価
 2 ePRO
 3 プロスペクト理論
 4 EQ の新バージョン(EQ-HWB)
 5 われわれを幸せにするもの
 6 ワールド・ギビング・インデックス(世界寄付指数)
 7 健康寿命
 8 PROMIS
 9 幸福感と所得の関係

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患者視点で効果測定を学びたい薬剤師にも最適
書評者:赤沢 学(明治薬科大教授・公衆衛生・疫学)

 医療者,特に薬剤師の仕事の中心がモノからヒトへ変化し,それに応じて臨床現場で行う臨床研究(介入研究)にかかわる機会が増えてきています。一方,それらの効果測定には,検査値の変化など測定可能かつ客観的指標を用いることが多く,患者中心の医療といいながら,患者の視点からその効果を測定する研究は限られています。患者視点で効果を測定する代表的な指標が健康関連QOLです。しかしながら医学・薬学教育の中で,このようなQOL評価について学ぶ機会がなく,患者の視点で効果測定を行いたくても,どうしたらよいのかわからない医療者も多いのではないかと思います。

 「臨床・研究で活用できる!」と冠された本書は,医療現場で医療者が,患者が自分自身の健康状態をどのようにとらえているか,治療によってそれがどのように変化しているかを知りたいと考えたときに役立つ情報を与えてくれます。本書は,健康関連QOLとは何を示す指標なのかといった概念的な説明から,日本で使用可能なQOL尺度にはどのようなものがあるかまで,わかりやすく丁寧に書かれています。特に,対象疾患を選ばずに健康全般のQOLをとらえる包括(一般)尺度として5種類,ある特定の疾患のQOLをとらえる疾患・病態特異的尺度として33種類が紹介されています。尺度の特徴,開発の経緯,質問票,結果の解釈,使用上の注意,実際に使用されている研究の紹介など,項目ごとに整理されており,臨床研究にQOL指標を使いたいと考えたときに,どのQOL指標が最も適しているかを比較検討できるようになっています。また,自らがQOLを測定する機会がなくても,QOLを扱う臨床論文が増えてきている現状を踏まえると,本書で取り扱っているQOL評価の特性を理解しておけば,論文に書かれている結果の解釈が容易になります。

 まずは,患者中心の医療の最前線で活躍している医療者,特に患者にかかわる機会の増えてきている薬剤師で,目の前の患者が自分の健康状態をどのように感じているのか,患者視点で治療がうまくいっているのかを知りたいと考えている方には,ぜひ手に取って読んでいただきたい一冊です。


「測りにくいことを測る」への挑戦
書評者:友滝 愛(東海大学特任講師・看護学)

 Quality of Life(QOL)の評価に関心を持ったときに,ぶちあたる壁があるとすれば,主に,「そもそも『QOLを測る』ってどういうこと?」「どんな調査項目で何を測れるのか?」「QOL測定の計量心理学的な評価って何?」ではないでしょうか。本書は,「臨床・研究で活用できる!」ことに主眼を置いて,この3つの観点がカバーされています。目次に記載されている尺度を数えると,その数46!に上り,「QOL評価を臨床や研究で取り入れたい」と思ったときに,最初に手に取る一冊として最適です。
 本書の特長の1つは,上記「どんな調査項目で何を測れるのか?」への答えとして,実際の調査票のサンプルを見ることができる点です。編者の「序」でも述べられていますが,これだけの尺度を取り上げるに当たり,著作権の問題などをクリアしていく作業は非常に大変だったであろうことが,容易に想像できます。本来であれば,活用したい人が(まだ実際に活用するかはわからないけれど)自ら取り寄せるなど,さまざまな作業を要します。また,実際に尺度を使うときには,「尺度が開発された論文の原典を調べる」「スコアリングの方法を確認する」「使用許諾について確認する」といった作業も必要ですが,本書では尺度の使い方とともに,充実した引用文献が提示されています。私たちは本書を通して,本来自分たちでやるべき労力が大幅にカットされる!という恩恵にあずかることができます。

 ところで,「QOLを評価する」と聞いたとき,どのように感じるでしょうか? 「QOLは患者自身の主観的なもので,数値で評価すること自体が相反するのでは?(半信半疑)」という人もいれば,「主観的なものを数値で測るって,なんだろう!?(興味津々)」という人もいるのではないでしょうか。私の場合は,後者でした。

 私がQOL評価を初めて知ったのは,約20年前の大学時代にさかのぼります。授業やゼミでは,こんな議論がありました。「臨床研究のアウトカムとして,死亡率や合併症の発症率といった客観的なアウトカムだけではなく,患者自身の主観的評価が求められている」ことを背景に,「治療による効果よりも,副作用による日常生活への支障や心理的な負担が大きいとしたら,その治療は患者にとって最善なのだろうか?」と。そのような問題意識のもと,「QOLを測る」ことへの挑戦があると知り,とても印象に残りました。
 また,当時から私が関心を持っているのは,QOL評価の中でも,なぜ「健康関連QOL」に焦点を当てるのか?ということです。もちろん患者にとっては,医療は生活の一部分であり,健康に関連するQOLだけが“切り取られる”わけではありません。また,患者のあらゆることを医療のみでカバーできるわけでもありません。医療者には,医療の枠だけにとどまらない全人的な視点が求められていることは大前提ですが,それでも「医療を評価しよう」とするときには,医療によって変えることができる部分と,変えることが難しい部分を見極める必要も生じます。このような「そもそも『QOLを測る』ってどういうこと?」については,本書の「総論 QOLとは」の章が,緻密に重ねられてきた議論を理解する助けとなります。本書は,明日からQOL評価に取り組みたい!という方に最適なのはもちろん,いますぐ活用することは考えていなくても,まずはその意義や意味をしっかり考えてみたいという方にもお薦めです。
 QOL評価が,より良い医療の一助となることを願って――。


「QOL」を知りたい・使いたい人たちへ待望の一冊
書評者:齋藤 信也(岡山大大学院教授・保健学)

 医療関係者でQOLという言葉を知らない人は皆無ではないかと思う。私は外科医であるが,外科ではこれまで根治性を重視し,QOLを軽視しがちであった歴史がある。そこに乳房温存や,機能温存手術が導入される中で,それがもたらすQOLの改善を測ってみたいという素朴な気持ちが生じてくる。ところがいざQOLの測定となると,使用可能な日本語版尺度がなかったり,あったとしても,不自然な日本語で,それをわかりやすく変更しようとすると「そんなことをしてはいけない!」と言われたり,さらには「勝手に使うと著作権者から訴えられるよ」などと脅かされると,少し気がなえてくる。加えて,信頼性とか妥当性とか,測定特性とか計量心理学の用語が頻出すると「うーん」となってしまいがちである。

 そこに現れた待望の一冊が本書『臨床・研究で活用できる! QOL評価マニュアル』である。編者の能登真一先生は,理論と実践の両面にわたり,斯界をけん引してきたリーダーでもあるが,同書を「臨床・研究で『活用』できる『マニュアル』」と明確に性格付けている。背景となる理論は過不足なくコンパクトにまとめられている上に,「尺度別」に具体的な記載がなされている点がユニークである。「マニュアル」としてその尺度の特徴・開発経緯・日本語版の開発・版権の使用に当たっての注意点・質問票そのもの・スコアの算出方法と解釈・測定特性・エビデンスが,一覧できる利便性の大きさは類書にはないものである。しかもわが国でその尺度を開発(翻訳)した当事者がその項目を執筆しているということで,版権のことも具体的でわかりやすく記載されている。これ一冊あれば,QOL測定のハードルはとても低くなる。

 一方本書は,実践面に徹したマニュアルであり,QOLの初学者には向かない本であると誤解される方もいるかもしれないが,QOLの基礎知識,評価尺度と測定特性についての項目はコンパクトではあるものの,非常によくまとまっており,この分野への入門書としても秀逸な出来栄えとなっている。多くの臨床家・研究者の皆さまに手に取っていただきたい一書である。

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