医学界新聞

スライド作成のABC

連載 柿崎真沙子

2024.02.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3553号より

 学会発表やセミナー講演などでスライドを使うことは今や当たり前になっていますが,発表だけではなく,講義の説明用や配付資料としてもスライドを使用することがあります。今回は特に配布用のスライドについて取り上げたいと思います。

 配付資料としてスライドを配る際,スライドデータそのものを配布するのか,印刷して配布するのか,さまざまな場合があると思います。

 最近は電子ファイルの受け渡しの技術が進歩しているので,比較的大きなファイルサイズであっても送付が可能になっており,スライドデータそのものを資料として配付することも増えているかと思います。一方で,印刷配布という方法もまだ根強く残っており,その場合1枚のA4用紙にスライドを印刷してしまうと分量が多くなるため,2~6スライドを並べて資料を作成し,配布することもあるでしょう。後者はファイルからエクスポートを選択し,PDFの作成から保存する方法や,印刷機能の出力形式をPDFにし,プリンターのプロパティからシートごとのページ数の設定などを行う,などいくつか方法があります。

 その時々によってデータと印刷,どちらが適しているのかは変わりますが,私は印刷の場合は大体A4用紙にスライドが2枚配置されている資料を作成し,配付することが多いです。データで配布する場合もそのままA4で印刷できるので,こちらの形式を使用しています。第3回「スライドの背景とフォント」でも取り上げましたが,サイズはワイドよりは3:4のほうが収まりが良いのでお勧めです。また,スライドデータそのものを資料として配付する場合も,OSの違いなどで配置のずれが生じるので,PDF化して配布することをお勧めします。

 発表用のスライドをそのまま配付資料として使う場合は多いかと思いますが,スライドに動画や強調,挿入アニメーションなどを入れている時は,印刷配布やPDFデータとして配布する場合に注意が必要です。

 まずは動画の場合の対策です。動画はPDFや印刷配付資料に載せられません。そのため,①動画のスクリーンショットを掲載して印刷し,動画としての資料配付はなしにする,②クラウドサービスや動画サイトに動画をアップロードしておいて,配付資料の該当スライドにURLやQRコードを貼り付ける,③Wordなどに動画のURLやQRコードを添付して,別ファイルとして送付する,といった対応が必要になります。動画データをPPTファイルに埋め込んで共有することも可能ですが,データ量が大変重くなります。ファイルサイズが大きくなるとメール添付でははじかれてしまうことも多いので気をつけましょう。

 見落としがちなのは強調や挿入アニメーションを使ったスライドを使用している場合です。例えば1枚のスライドで挿入アニメーションを使って元々のスライドの上から図を載せている場合,印刷されるのはアニメーション後のスライドになってしまい,下にどのようなスライドがあったのかがわからなくなります。解決策として,①2枚のスライドに分けて作り,図を載せる前のものと後のものを両方配布する,②そもそも図が重ならないように強調して1枚にする,といった改変が必要になります。改変が面倒なので,私はなるべく上に図が重ならないようなスライドを作るようにしています。

 基本的に学会発表で使用するスライドは,印刷配布を前提としていないので,アニメーションも動画も好きなだけ挿入することができます。しかし,セミナーや講義など,学会発表で使用するスライドと同様のものを資料として配付する場合,先ほど触れた動画の有無や図の重なりといった点に注意が必要です。また,1枚のスライドにぎちぎちに文字が詰め込まれているスライドだと読みにくくなる一方で,トピックタイトルだけの提示ばかりで説明文がほとんどないなど,あまりに情報量が少ないスライドだと資料としても適切ではなくなってしまうため,スライド1枚当たりに含まれる内容が適切な情報量であるかという点が重要になってきます。

 「じゃあ発表用と配布用は別々に作ればいいのでは?」と思うかもしれませんが,段々仕事が忙しくなると,別々に作る時間がなくなってしまうのは多くの方々も経験がしているのではないでしょうか?

 ということで,基本的には学会発表などの段階から,スライドそのものは「印刷して資料配付しても大丈夫」なスライドとして意識して作成すると,そのまま授業やセミナーに流用でき,配付資料としても使え,効率が良いと思います。

 忙しくなると発表用と配布用のスライドを別々に作っている暇がなくなる……と述べましたが,実は私は配付用資料と講義用資料を別のファイルにしています。というのも,講義では計算問題などを解かせるため,回答を一緒に配布してしまうと講義が成り立たなくなってしまうからです。しかし,別々のファイルを作るとは言え,スライドそのものを別々に作っているわけではありません。まずは回答なども全て入れた講義用のスライドを作って保存してから,同じファイルをコピーし,配布用にファイル名を変え,回答スライドだけを削除するようにしています。回答については授業後配布するため,また講義用ファイルをコピーし,今度は回答部分以外を全て消去して回答用の配付資料を作ります。つまり,配付用資料は別に作りますが,単純に配布に向かないと思ったスライドだけを削除することで労力を削減しています。

 今までの各回では,なるべくシンプルなスライドになるように説明してきたつもりです。デザイン性の高いスライドは,プレゼンする場合は良いのですが,いざ配付資料として使おうとした場合,印刷がしにくいからです。また,潤沢に費用がある組織での講演ではカラーで画素の良い印刷配付資料を作っていただけることもありますが,大学の講義などでは経費の関係で「配付資料は白黒印刷です」,といったことも多く,あまり凝ったデザインのスライドを作ってしまうと配付資料としては見づらいものとなってしまうからです。

 白黒で資料を印刷する場合,写真や凝った図表はせっかくスライドに入れたのに潰れてしまい,見にくくなることがしばしばあります。白黒にしても強調部分がわかるようにするために,なるべく写真を減らしたり,色だけで強調がわかるようにするのではなく,太字やアンダーラインを使用したりすると良いでしょう(連載第3回参照)。


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