スライド作成のABC
[第3回] スライドの背景とフォント
連載 柿崎真沙子
2023.10.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3536号より
スライドを作るとき,サイズや背景,フォントの種類はどのように選択していますか? パワーポイントのデフォルト設定で良いのでしょうか? スライドのデザインで重要になるのは,スライドのサイズ,フォントの種類,背景とフォントの色です。
スライドのサイズは4:3に
パワーポイントを開くと,スライドのサイズはデフォルトでは16:9のワイドサイズに設定されています。もちろんこのワイドサイズをそのまま使っても良いのですが,私がおすすめするのは昔から定番の4:3の標準サイズです。なぜ標準サイズがおすすめかというと,スクリーンの投影面積が4:3スライドのほうが広いからです1)。さらに配付資料として2分割,4分割,6分割などで資料を印刷する際にも,ワイドサイズより標準サイズのほうがスライド面積が広くとれ,収まりが良いので,私は必ず4:3にするようにしています。
読みやすいフォント選び
1つのスライドファイルに使うフォントは基本的には1種類に絞ります。フォントは横より縦の線が太く,払いや止めがあるセリフ体と,線の太さがほぼ一定であるサンセリフ体の二種類に大別されます。また,教科書によく使われる教科書体があります。セリフ体の代表はMS P明朝や游明朝,ヒラギノ明朝といった明朝体や,英字でよく使われるTimes New RomanやCenturyなどがあります。サンセリフ体の代表はゴシック体ですが,メイリオ,ArialやHelveticaといったフォントもあります。一般的にスライドにはサンセリフ体が適していると言われており,私もMSPゴシックやメイリオをよく使っていました。しかし,最近ではユニバーサルデザインの観点から作られたUDフォント2)と呼ばれるフォントも増えてきており,私もメイリオから徐々にBIZ UDPゴシックに切り替えています(表)。
また,フォントはiOSとWindows,Officeのバージョンなどで互換性があるものとないものがあるので,学会発表などでパソコンの機種が限定されている場合は,必ず発表用のものと同じ機種で試写してみましょう。
スライドやフォントの配色
◆背景は断然無地の白!
背景色は断然無地の白を推奨します。スライドを資料として配付する際,背景に色がついていると印刷しにくいですし,印刷でもデジタルデータでも白は書き込みがしやすいためです。パワーポイントに最初から入っているテンプレートは充実しており,所属組織で推奨しているテンプレートもあるかもしれませんが,背景色とフォントのコントラストや図表の配置など考慮しなければならないことが多くなってしまうので,最初は無地の白で作ってみることをおすすめします。また,背景にグラデーションを入れる見せ方は,文字のコントラストが一枚のスライド内で変わってしまい,重要な点が瞬間的にわかりにくくなってしまうので避けたほうが良いでしょう(図1)。写真やイラスト入りの背景などについても同様です。コントラストが変わってしまうので,特に文字数が多いスライドでは避けたほうが良いと思います。ほとんど使うことはありませんが,私がこういった背景に色の差が出るスライドを利用する場合は,タイトルなど文字が多くないスライドに使います。
◆メインカラーとアクセントカラー
わかりやすいスライドに欠かせないのは見やすい配色です。白黒の単調な配色よりも何色か使ったほうが話のポイントとなる部分がわかりやすくなります。だからといってたくさんの色を使ってしまうとごちゃごちゃして,何が重要なのかわかりにくく,逆に見にくくなってしまいます。ですので基本的には,スライド全体のメインカラー,文章や単語などに用いる文字の基本色,強調したい文字に用いる強調色(アクセントカラー)の3色を中心に使うと良いでしょう。もしそれ以上使いたいときは同系色の色を使うと統一感のあるスライドになります。メインカラーとアクセントカラーは同じような色合いで色の濃淡,彩度や明度を変えても良いですし,色相で全く逆の色(赤と緑,オレンジと紫,緑とピンク,など)を使っても良いと思います(図2)。
◆視認性とコントラストを意識して配色を決める
色には彩度と明度があり,彩度は色の鮮やかさの度合いです(図3)。彩度が高いとビビットで元気の良い印象になりますが,ギラギラした感じになるのであまり目には優しくないです。逆に彩度が低いとモノトーンに近づいていき,落ち着いた印象になりますが,あまり彩度を下げてしまうとくすんだ印象になってしまいます。明度は色の明るさの度合いで,明度が低いと黒に近づき,明度が高いと白に近づきます。この,明度と彩度の差が濃淡の差であるコントラストとなります。コントラストが高すぎるとはっきりと鮮やかに見えるものの目が疲れ,コントラストが低すぎると柔らかい印象になるもののあまりはっきり文字や図形が見えなくなります。この差を利用して,強調したい部分についてはコントラストを高くし,あまり強調したくない場合はコントラストを低くします。例えば図4のようによく「これからやるのはここ!」とわかるようなスライドを作る場合はコントラストの差を利用します。背景とフォントの色のコントラストは,白地に黒が基本ではあるのですが,ほんの少しだけコントラストを落とし,濃いグレーや紺にすると,特に明るく映写される際には目の疲れが軽減されるとも言われています4)。いつも黒を使っている方は1度濃いグレーなどを試して,印象や見やすさが変わるかどうかを試してみてもいいかもしれません(図5)。
ちなみに私の場合は,以前は黒バックに緑やピンクを基本色・強調色として使っていましたが,ここ10年ほどは白無地の背景に,メインカラーは明度をあげ,少し彩度を落としたピンク,強調したい文字も濃いピンクにして,文字の基本色は濃紺,他にも色が必要な場合は,メインカラーと明度,彩度を合わせたパステルカラーの水色,黄緑,黄色,オレンジを使っています。
◆配色で自分を印象づける
スライドの色によって聴衆に与える印象も異なります。印象を変えたい場合は発表ごとに配色を変えてもいいですし,私のようにいつも同じ配色を使い,「この配色の感じは柿崎さんのスライドだな」と印象づけてしまうのも良いと思います。ウェブを探してみると配色スケールなども多く公開されていますので,そういったツールを利用して,いいなと思う配色を試行錯誤してみましょう。さらに,色覚には多様性があり,色の見え方も人それぞれです。そういった多様性に配慮したユニバーサルカラーを用いた配色もあります3)。配色にこだわりがない場合,まずはユニバーサルカラーの配色を参考にしてみるといいと思います。
参考文献・URL
1)前田圭介.SMARTなプレゼンでいこう!.医学書院;2019.
2)モリサワ.ユニバーサルデザインと文字.
https://www.morisawa.co.jp/fonts/udfont/
https://ppt.design4u.jp/color-selection/
3)カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット政策委員会.カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットガイドブック 第2版.2018.
4)プレゼンデザイン.プレゼン資料で色を効果的に使う方法.2022.
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