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『PT・OT・STポケットマニュアル』より

連載 吉原楓,錦戸裕一郎,角田亘

2023.05.12

「この方法で大丈夫だろうか?」「患者さんにどう説明すればいいのかな?」と不安を抱きやすいキャリアの浅い理学療法士,作業療法士,言語聴覚士の方々にとって,羅針盤となるような書籍『PT・OT・STポケットマニュアル』が刊行されました。この1冊をポケットに忍ばせておけば,自信を持って対応できること間違いなしです!

今回,医学界新聞プラスでは本書の内容から4項目を抜粋し,紹介をしていきます。

基本動作訓練・座位訓練

▼Focus Point

  •  ●基本動作訓練は離床の第一歩であることを理解しよう
  •  ●動作の自立度と安全性を評価しよう

1 基本動作訓練・座位訓練のキホン

1.基本動作訓練

  •  ・基本動作訓練は寝返り,起き上がり,立ち上がりなど日常生活に欠かせない基本的な動作を指す.
  •  ・各疾患におけるリスクを回避しつつ,より効率よい動作の定着を目的とする.
  •  ・訓練は各動作の自立度と安全性を評価しつつ,患者の生活環境に合わせて実施する.
  •  ・患者の状態や周辺環境(努力量,介助者)などによっては,福祉用具などを用いて生活環境を変化させることも一つの手段である.


2.座位訓練

  •  ・座位保持は上肢活動や精神活動など,あらゆる作業を実施するうえで欠かせない能力である.
  •  ・座り心地や座位姿勢,保持時間を評価しつつ,座位での生活時間や身体機能,生活様式に応じ適切な環境や福祉用具を選定する.

2 実際にはこうする


1.基本動作訓練

  • a 寝返り
  •  ・背臥位から側臥位への寝返りは,四肢や頸部の重さによる回転モーメントを利用することで回旋運動が起こりやすくなる.
  •  ・体幹や股関節の関節可動域の拡大と,代表的な疾患別のリスク管理に応じた環境設定が必要となる.
     
  • b 頭部挙上訓練へ
  •  ・長期臥床による循環応答の低下が疑われる場合や,術後における離床の際に実施する.
  •  ・起立性低血圧症状(めまい,気分不良,頭痛,動悸など)に注意して行う.
     
  • c 起き上がり
  •  ・背臥位から端座位への起き上がりは,頸部屈曲と体幹屈曲,回旋,下肢下垂による回転モーメントを利用して行う.効率的な起き上がりには,各関節運動の方向やタイミングを適切に組み合わせる(図1-a).
  •  ・体幹および上肢筋力,体幹や股関節の可動域拡大が必要となる.
  •  
  • d 立ち上がり
  •  ・座位から立位への起立は,屈曲相と伸展相に分かれている.屈曲相は前方への重心移動により足部への荷重量を漸増させることで構成され,伸展相は離殿後の足関節による姿勢調節と下肢の伸展筋力にて構成される(図1-b).
  •  ・体幹や下肢の筋力および可動域拡大と,全体を通した重心移動の軌跡の学習,足関節による姿勢制御の訓練が必要となる.
     
3-図1.png
図1 起き上がりと立ち上がりの重心移動
矢印は重心の移動方向を示す.


2.座位訓練

  • a 座位
  •  ・訓練の前に座位姿勢や足底接地を確認し,重心を自動的あるいは他動的に前後左右に移動させ,安定性限界を確認する.
  •  ・鏡を用いて視覚的フィードバックを利用し,安定性限界を認識させ,体幹の伸展や骨盤の前後傾による頸部〜体幹の立ち直りを促し,上肢運動全体の安定化を図る.
     
  • b シーティング
  •  ・座位姿勢のシーティングとしては,①深く座れているか,②正中位か,③足底接地をしているか,④頸部が正面を向いているか,⑤上肢運動がしやすいか,などを目安とする(図2).
     
3-図2.png
図2 シーティング

3 リスク管理

  •  
  •  ・基本動作は日常生活において何度も繰り返される動作であるため,より効率的かつ低努力で安全性が高いことが重要である.
  •  ・共通の項目としては,安静度やバイタルサイン,起立性低血圧,意識・覚醒レベルの確認が必須となる.
  •  ・その他,整形外科疾患では,患側方向の確認や荷重量,疼痛に注意が必要である.中枢神経疾患では,麻痺側や感覚障害,疼痛に注意が必要である.内部疾患では,呼吸苦,いきみ動作に注意が必要である.

参考文献

1)藤原智行:基本動作とセルフケア― 1. 起居動作.臼井 滋(編):日常生活活動学,Crosslink理学療法学テキスト,pp74-89,メジカルビュー社,2020

移乗訓練・車椅子移乗訓練

▼Focus Point

  •  ●患者の安全を最優先しよう
  •  ●介助者の負担を軽減しよう
  •  ●患者や介助者の位置,車椅子の位置など環境調整しよう

1 移乗・車椅子移乗動作のキホン

  •  ・移乗動作はADLであり,移動動作へつながる生活上必要不可欠な動作のひとつである.
  •  ・移乗動作の方法は,患者の状態(疾患や全身状態など)や環境(病期や場所など)により異なる.

2 移乗・車椅子移乗動作のポイント

1.転倒に注意しよう

  •  ・急性期病院においては,特に起立性低血圧や臥床による全身筋力の低下,内服薬による副作用などにより,これまで本人が行えていたパフォーマンスが必ずしも実施できるとは限らない.そのため,評価を事前に実施し,変化がないことを確認しながら実施していくことが望ましい.


2.介助者の負担を軽減しよう

  •  ・ベッドから車椅子など移乗元と移乗先の角度は約30°とし,移動距離を短くする(図1).
  •  ・ベッドから,またベッドへ移乗する際には,ベッドの昇降機能を利用して移乗元から移乗先にかけて高いところから低いところへ,または水平移動ができるよう環境調整して移乗動作を実施する.
  •  ・殿部離床時に負担がかからないように,起立動作前に浅く座る(大腿の中間がベッドの端にくるように),足を引き下腿を前傾させる,足を肩幅程度開く,足底を設置させることを意識する.
  •  ・介助中の安定性を高めるため,介助者は可能な限り支持基底面を広くし,重心を低くして実施する.
  •  ・移乗動作時は患者の足が絡まることがあるため,移乗先側の足を半歩程度前へ出しておく.
  •  ・介助者と患者の重心の高さや距離をできるだけ近づけ,重心移動を利用しながら実施する(図2-a).
  •  ・介助量の多い患者は,無理をせず介助者を増やし安全に実施する.後方より介助する場合は,殿部を介助する(図2-b).
     
3-図3.png
図1 車椅子とベッドの位置関係
3-図4.png
図2 介助を伴う移乗動作
a:1人介助による移乗動作,b:2人介助による移乗動作

3 リスク管理

  •  ・移乗動作は座位や立位,足踏みが複合的に連続して実施されるため,転倒やバイタルサインの変化に注意しなければならない.
  •  ・術後や介入時は,必ず主治医より安静度(バイタルサイン,荷重制限,離床の可否など)を確認し実施する.
  •  ・移乗動作はリハビリテーション以外の病院内でのADL場面で多く実施される動作であり,他職種と情報共有し共通認識を持つことでインシデントやアクシデントの軽減につなげる.

4 移乗動作・車椅子移乗訓練の実際

  •  ・急性期病院ではドレーンやバルーン,点滴ルートなどが留置されていることが少なくない.そのため,より患者に負担がなく,かつ,安全に実施できる環境作りが必要不可欠となる.
  •  ・動作は過介助にならず,できることは患者に実施してもらい,患者の能力を最大限引き出すことが重要である.
  •  ・リハビリテーションで獲得できた移乗動作を病棟内でのADL動作で繰り返し実施してもらうことにより,実際に病院生活でも定着し,できる活動が増え,活動量の向上や身体機能の向上につながる.

\知っておきたい/重度の介助を要する患者の車椅子移乗動作

発症早期または麻痺が残存するような脳卒中の患者は,移乗動作に重度の介助を要することがある.発症早期の麻痺が弛緩性の時期は下肢の支持性がないため,跳ね上げ式の車椅子やスライディングボードを使用することで介助量の軽減,転倒予防になる.また,車椅子のベッドに対しての位置も重要である.基本的には端座位になった状態で,車椅子は非麻痺側につけて,非麻痺側の上下肢を可能な限り使用しながら車椅子移乗動作を実施してもらうことが重要である.

参考文献

1)杉本 論:中枢神経障害に対するADL指導.細田多穂(監):日常生活活動テキスト,第3版,pp159-161,南江堂,2019
2)篠原智行:基本動作とセルフケア― 1. 起居動作.臼田 滋(編):日常生活活動学,pp94-99,メジカルビュー社,2020 (錦戸裕一郎)

 

リハ現場での「これは困った!」に応える、先輩療法士からのベストアドバイス

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