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『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』より

連載 齋藤佑樹 上江洲聖

2023.10.27

 作業療法は個別性が高く,どんな強固なエビデンスに基づいていたとしても,選んだ道が確かであるとは言い切れません。そのため,作業療法士(OT)には常にオーダーメイドのかかわりが求められ,そのプロセスに悩む新人や若手のOTは数多く存在します。そうした方にお薦めの新刊『作業療法の曖昧さを引き受けるということ』では,駆け出しのOTが迷いがちな臨床場面や作業療法における目標設定について,マンガを交えて解説されています。マンガで示される臨床現場での先輩OTの実践を臨床実習生である主人公の目を通して見ることで,作業療法の本質が何かに気付く過程を追体験することができます。

 「医学界新聞プラス」では,本書の誕生秘話が語られた座談会の模様を全3回に分けてご紹介します。

阿吽の呼吸

―そうした思いを背負ってスタートしたわけですが、原作を書き進める中では苦労したことも多かったのではないでしょうか。

上江洲 もともとは、各章それぞれのテーマを先に決めてからストーリーを書き始めたんです。例えば第1章だと「対象者との信頼関係」みたいな感じで。でも書き始めてみたらそれじゃうまくいかない気がして、だいたいの着地点は決めつつ、ストーリーの流れにまかせてキャラを勝手に走らせてみたんです。どんな形になっても齋藤さんだったら完璧に解説してくれると信じていたので。「ごめんなさい、アレちょっと無視します。好きにやりまーす。あとお願いしまーす」って(笑)。

齋藤 なんかもう、途中の記憶があまりない……(笑)。でも書きにくいと思った箇所は一つもなかったですね、不思議と。

上江洲 そんなふうに進めたから、一つの話の中にいくつも重要なポイントが出てきたり、複数の話でキーワードが重複したりしてしまって。結局、原作とマンガがすべて出揃ってから解説を書いてもらうという、とんでもない予定外のことをさせてしまったなと思っています。

齋藤 でも、いいですよね、そのほうが。勝手にキャラが動き出して、よかったと思います。

上江洲 もちろんテーマに沿って書けと言われれば書けるとは思うんですよ? でも今回は自由にやれそうな雰囲気だったので、自由にやらせていただきました(笑)。

―お二人の関係性がなせるワザですね。

上江洲 それはありますよね。「はい! あとよろしく」って(笑)。結果的にものすごい速さで解説ができあがってきて、さすがに驚きました。

齋藤 ぜんぜん速くはないですよ。でも、なんて言ったらいいんだろう、ストーリーを読んだときに、既視感というか、そういう感覚を抱きました。上江洲さんとはもう十年来の付き合いで、授業で使う資料をシェアしてもらったこともあったし、大城さんがピアノを弾いたところは実際に写真で見たことがあったよね。

上江洲 そうでしたね。

齋藤 それに、臨床への思いも重なる部分が多いから、「上江洲さんは、このときどういうふうに考えていたんだろう」ってすごく頭をひねって解説を書いたような、そんな感じはまったくなかったですよ。もちろんすべてが聞いたことのあるエピソードではなかったですが、自分にも同じような経験があったので「ここで何を言いたいのか」は、すぐにイメージできました。

隠れた工夫・設定

―えんぴつさんは、最初にこの企画を持ちかけられたときはどう思われたんでしょうか。

えんぴつ 率直に「難しそうー」って思いました。作業療法士さんのお仕事の内容も知らなかったし、「病院の中ってよく知らないし、描くのが大変な物も多そう……」と心配していました。でも、すごく難しそうだけど、学生さんたちの役に立つならやってみたいなというのが、大きな動機になって引き受けさせていただきました。

―そのあと原作をご覧になったときはいかがでしたか?

えんぴつ すごく描写が細かくて驚きました。マンガで全部は描ききれないけど、詳細に書いてあるのはすごくありがたかったです。キャラの設定で、どんな本が好きかとか、野原さんは彼氏が途切れずいたタイプだとかが書かれていて、「あ、そういう子なんだ」みたいな(笑)。

齋藤 すごく細かかったですね。上江洲さんの設定は。

上江洲 実は、登場人物全員にイメージしている誰かがいて、もちろん個人情報は特定できないようにアレンジしていますが、モデルになる人をベースに創作でキャラを付け足していけば、どんどん膨らむなぁと思ったんです。使うところはほんの一部なんだろうけど、セリフの端々に表れるのかもしれないなと思いながら肉付けしていきました。「普通はそうやってつくるんだから」って、小段さんから急に言われて……ね(笑)。

えんぴつ 最初、それ()を見て「こんなに登場人物が多いの」って驚きました。ストーリーをまだ全部いただいてなかったので、「これは大変だぞ」と。でも実際に登場したのは数名だったのでホッとしました(笑)。

又吉 楓 (またよし・かえで) 22歳、ベリーショート、たれ目、精神科で実習中、明るい、丸顔、弱いところを見せられない、勉強できる、父親が軽い脳梗塞で入院したことがある、飲み会のムードメーカー、意外と傷つきやすい、おしゃれにカッコつける人は苦手、彼女がいる人を好きになってしまうことがある。電車がないので沖縄の学生は車で通学・通勤する、白い中古の軽 自動車、ジーパン、「ま、いいじゃん」、「あはははは」。
 
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 膨大なキャラ設定
例えば、野原の友人である又吉楓は、上記のように詳しいプロフィールが設定されていた。このようなキャラ設定が、他の友人や家族、職場の同僚など、本編には登場しないキャラだけで総勢22名に決められていた。

―マンガを描かれるうえで、何かここはこだわったというポイントはありますか。

えんぴつ 地味なこだわりなんですけど、花城さんの吹き出しはきれいな形にしています。対照的に野原さんはフリーハンドで揺らぎを出して……。

上江洲 ホントだ! 初めて気づいた。

えんぴつ 『ドラゴンボール』(鳥山明、集英社、1984~1995年)だとベジータのセリフの吹き出しって、いつもカクカクしているんですよ。そういうのいいなぁって。

齋藤 超面白い(笑)。

上江洲 文字の配置や改行の位置もすごく計算されているのがわかります。

えんぴつ ありがとうございます。セリフはなるべく4行以上にならないように気をつけました。私は状況や心情をすべてセリフで説明しているマンガを見ると、「キエーッ」ってなっちゃうんですよね(笑)。「絵で説明せぇ、それを!」と思うので、絵で表現することを心がけました。

齋藤 いかに言葉を使わずに表現するかというのは、プロとしてのこだわりどころなんですね。

えんぴつ そうできるようにがんばっています。でも、その一方で、本書では言葉を尽くしてやり取りすることが大事な場面も多いので、そこはなるべく削らないようにしました。

 

作業療法の臨床場面をマンガで描き出した新時代の羅針盤

<内容紹介>作業療法は個別性が高く、どんな強固なエビデンスに基づいていたとしても、選んだ道が確かであるとは言い切れない──本書は、常にゆらぎのある臨床の最前線で、その曖昧さを引き受ける覚悟を決め、真摯に対象者との協働実践を続ける作業療法士に向けた新時代の羅針盤です。

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