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『神経病理インデックス 第2版』より

新井信隆

2023.06.23

 多くの研修医が頭を悩ませる医学領域がある。それは神経病理である。1つだけでも難解なイメージのある「神経」と「病理」がドッキングしている。できれば目を合わさないようにして通り過ぎたい。だが,神経内科専門医をめざすには避けて通れぬ重要な領域なのである。さて困った……。

 そんな研修医・専攻医の救世主となったのが『神経病理インデックス』である。豊富な写真や簡潔な説明で,難攻不落に見えた峻嶮も,本書にかかれば霧が晴れ,登頂ルートが浮かび上がる。多くの読者に恵まれた本書がこのたび18年ぶりの改訂を行った。前版のわかりやすさはそのままに,約300点の写真を追加,記載も最新の内容にアップデートされている。

 今回「医学界新聞プラス」では,本書『神経病理インデックス 第2版』の内容から「染色法」「神経細胞」「神経突起」「頭部外傷」をピックアップして4回に分けて紹介する。

神経組織のための染色法

ヘマトキシリン・エオジン染色 hematoxylin-eosin stain:HE染色

 細胞質はエオジン好性(好酸性)で赤く染まり,核,核小体はヘマトキシリン好性(好塩基性)で青く染まる。神経細胞の粗面小胞体であるニッスル小体(Nissl substance)はヘマトキシリン好性に染色され,その他の細胞質はおおむねエオジン好性に染色される。軸索,樹状突起は,腫大性の変化などがない場合は識別は難しい。

 アストロサイトは細胞質に乏しく,やや明るく大きな核を有している。組織障害に反応すると細胞質が線維成分の増加によって豊富になり,また線維成分も突起内に蓄積され,好酸性を呈する。オリゴデンドログリアはアストロサイトより小さく,好塩基性に濃染した核を有し,細胞質はほとんど見えない。ミクログリアの核は好塩基性の棍棒様を呈するので,識別は容易である。

 HE染色はほぼすべての病理構造物を染め出せるが,リン酸化タウが神経突起に蓄積した病変(ニューロピルスレッド,嗜銀顆粒),アストロサイトに蓄積した病変(房状アストロサイト,アストロサイト斑),オリゴデンドログリアに蓄積した病変(グリアコイル状小体,嗜銀性スレッド)などは染め出せないため,鑑別診断を要する場合は,後述するガリアス・ブラーク(GB)染色,リン酸化タウの免疫染色が必須である。

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皮質型レヴィ小体
黒質など脳幹諸核で認められるレヴィ小体に比べ,大脳皮質の神経細胞に形成されるものは大きい。
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サイトメガロウイルス封入体
神経細胞やグリア細胞の核の中に好塩基性の封入体が形成され,鳥の目のように見える。
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麻疹ウイルス封入体
オリゴデンドログリアの核内に好酸性の封入体が形成される。核膜は厚くなるため見つけやすい。
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軸索腫大(スフェロイド)
軸索が局所的に球状に膨れている軸索腫大の他,紡錘状,棍棒状に膨れているものもある。
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ヘモジデリン
ヘモジデリンは茶褐色の塊であり,エオジンにもヘマトキシリンにも染まらない。

ニッスル染色 Nissl stain

 神経細胞に対する染色法で,粗面小胞体であるニッスル小体を,色素のクレシル紫が紫色に染める。紫色に染まったニッスル小体が塊状に存在し,虎斑様と表現される。神経細胞の密度計測に便利だったが,現在はNeuN(neuronal nuclei)染色を用いることが多い。

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迷走神経背側核
ニッスル小体(粗面小胞体)が紫色に染まる。ニッスル小体が豊富な比較的大きな神経細胞がよく染まる。

ルクソール・ファスト・ブルー染色 Luxol-fast blue stain:LFB染色

 LFB色素によって,神経突起を取り巻く髄鞘の主成分であるリン脂質を青く染める髄鞘染色である。髄鞘が豊富な大脳白質は青く染色される。髄鞘が破壊される脱髄性の疾患では,その病変分布を明瞭に特定することができる。

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進行性多巣性白質脳症(PML)
髄鞘が破壊されている場所がLFB色素に染まらないため病変の識別に役立つ。

クリューバー・バレラ染色 Klüver-Barrera stain:KB染色

 ニッスル染色とLFB染色の二重染色であり,神経細胞および神経突起を取り巻く髄鞘を同時に染色する,最も一般的な神経系の特殊染色である。染色標本のルーペ像は,さまざまな原因による破壊性病変を検出するために有用である。HE染色,KB染色に加え,後述するボジアン染色,ホルツァー染色は,スクリーニング4染色と呼ばれる。

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多発性硬化症
脱髄巣(白くなっているところ)が皮質と白質にかけて認められる。シャープな境界が本症の特徴である。
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ALS
本症の運動ニューロン変性に伴い,左右の側索(上位運動ニューロン線維の通り道)が白くなっている。
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MSA
橋核,橋横走線維の変性脱落に伴い橋腹側部の萎縮が顕著である。一方,橋被蓋部は保たれている。

ボジアン染色 Bodian stain

 プロテイン銀,銅,塩化金を用い,神経細胞体,主に神経突起を茶褐色に染色する嗜銀染色である。正常の構造物のみならず,異常な線維成分などで構成される異常構造物も染色される。軸索の限局性腫大(スフェロイド)などの軸索あるいは樹状突起の病変,アルツハイマー神経原線維変化(neurofibrillary tangle:NFT)などの異常線維成分など嗜銀性のものが染色される。

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軸索腫大(スフェロイド)
腫大した軸索内にニューロフィラメントが多いほど嗜銀染色の染色性が強くなりはっきり染まる。
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トルペド
小脳変性に伴ってプルキンエ細胞の近位軸索が腫大したものをトルペドと呼ぶ。
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ヒトデ小体(樹状突起腫脹)
プルキンエ細胞の樹状突起が太くなり四方に不整に広がる様をヒトデ小体という。

その他の神経系の嗜銀染色 other silver stains

 プロテイン銀の供給問題によりボジアン染色の代替染色であるホルムズ染色(Holmes stain)やビールショウスキー染色(Bielschowsky stain),メセナミン銀染色(methenamine-silver stain)などが必要に応じて行われる。ビールショウスキー染色では神経線維が明瞭に染色される。メセナミン銀染色は老人斑(SP)のアミロイド成分を明瞭に可視化することができる嗜銀染色で,アミロイドβ(Aβ)蛋白の免疫染色像とほぼ同様の染色結果を示す。

ホルツァー染色 Holzer stain

 クリスタル紫によってアストロサイトの線維成分を紫色に染色する。とくに組織障害に随伴する二次的な瘢痕化であるグリオーシスを明瞭に染色するため,障害を受けた場所をマクロ的に検出することができる。染色液中のアニリンは有害であるので,実験室ではドラフト内で染色しなければならない。そのため,リンタングステン酸・ヘマトキシリン染色(phosphotungstic acid hematoxylin stain:PTAH染色)を代替として行うことがある。グリオーシス検出においてホルツァー染色に優るものはない。

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ラスムッセン脳炎
大脳白質に萎縮はないが強いグリオーシスが全体に形成されている。
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小脳梗塞
梗塞層から少し離れたプルキンエ細胞層でもグリオーシスを著明に認める。
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小頭症
脳形成異常のプロセスにおいてもグリオーシスが生じる場合もある。

ガリアス・ブラーク染色 Gallyas-Braak stain:GB染色

 正常な既存組織は全く染色せずに,リン酸化タウやリン酸化α-シヌクレインが蓄積する一部の構造物を明瞭に染色することができる。正常な背景の基質は染まらず,異常構造物だけが黒色に明瞭に染まるので,分布などを調べる時には便利である。異常に蓄積したリン酸化タウ蛋白をラベルするが,ピック球は染めない。また,多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)の診断的指標であるグリア細胞質内封入体(GCI)はリン酸化α-シヌクレインの蓄積であるが,これは例外的に明瞭に染色するものの,レヴィ小体は染めない。

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火炎型神経原線維変化(NFT)
神経原線維を1本ずつ識別することができるものと一塊になっているものがある。
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ピック球
ピック球はリン酸化タウの蓄積物であるが,淡くしか染まらないことは診断学的には重要である。
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プレタングル
NFTが形成される前段階の病変であるため,淡くしか染まらずやや膨れている。

※書籍では,今回紹介した染色法に加えて,以下の内容を豊富な写真と共に解説しています。

・スクリーニング4染色(HE、KB、ボジアン、ホルツァー)のルーペ像観察
・各脳部位がどのように染まるかを示したルーペ像とミクロ像
・神経変性疾患の鑑別に有用な免疫染色像(ユビキチン,リン酸化タウ,リン酸化α-シヌクレインほか多数)


 

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