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『レジデントのための腹部エコーの鉄則 [Web動画付]』より

連載 亀田徹

2023.11.03

 従来,腹部エコーは,検査室で行われる系統的超音波検査として行われてきましたが,近年,臨床医が自らベッドサイドで行うPoint-of-Care Ultrasonography(POCUS)の概念が世界中で共有されるようになりました。腹部エコーの世界は変化の渦中にあると言ってもよいのではないでしょうか。

 書籍『レジデントのための腹部エコーの鉄則 [Web動画付]』は,POCUSと系統的超音波検査の考え方を併せ持ち,解剖学的知識,走査法といった基本から,画像の解釈,病態の把握まで,腹部エコーを行ううえで知っておきたい“鉄則”を1冊にまとめています。本書とともに,新たな腹部エコーの時代へ歩みをすすめてみませんか。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「実践編1(超音波解剖と走査法——胆囊・肝外胆管)」,「基礎編(プローブとオリエンテーション)」,「実践編3(症候別エコーの実践——下腹部痛)」の項目をピックアップし,4回に分けて紹介します。


 

Practice1
急性の下腹部痛を主訴に受診した28歳男性

■病歴・身体所見による診断推論
受診3時間前にじわじわと持続性の下腹部痛が出現した。部位は右寄りで歩行時に響いた。受診までに3回嘔吐あり,下痢はない。血圧144/92mmHg,脈拍数84回/分,体温37℃,BMI 21kg/m2。腹部は平坦で軟,軽い叩打と圧迫で右下腹部に限局した強い痛みを生じた。肋骨脊柱角の叩打痛なし。その他目立った異常所見なし。急性発症で持続性の右下腹部痛で,腹膜刺激症状があることから,急性虫垂炎を第一に考えた。その他大腸憩室炎,大腸炎などを鑑別に挙げた。

■エコー所見と解釈
救急室にあるポータブル装置を用いることにした。コンベックスプローブを用いてピンポイントで示された疼痛部位の直下を観察しはじめると,浅部に管状構造が描出された。詳細に評価するためにリニアプローブに持ち替えて観察すると,円形断面で最大径10mm程度の管腔像を認め,盲端部もとらえることができた。内部には糞石像を認めた〔図1,▶動画01.(図1aに対応)〜▶動画02.(図1bに対応)〕。プローブで圧迫しても変形せず,同部に圧痛が限局していた。

図1.jpg

【鉄則】腹部エコーの適応を考慮するときは,疑われる疾患, 年齢や性別だけでなく,体型や身体所見の「程度」も重要だ

・まず下腹部痛をきたす疾患を領域別(消化管,泌尿器,婦人科など)に整理し,そのうえで腹部エコーの適応となる疾患について理解しておく。
・被曝を考慮し,特に小児や妊孕性のある女性では腹部エコーを優先できるか検討する。
・皮下脂肪や内臓脂肪が多い体型では,一般的に腹部エコーの描出能は低下する。特に虫垂の描出は難しくなる。
・比較的やせ型で,叩打痛や圧痛が強いときは,体表から虫垂までの距離が短いことが多く,腫大虫垂は描出しやすい。少し経験を積めば,このようなケースではポータブル診断装置でも十分診断できる 1)

【鉄則】腹部エコー施行中に「身体所見」を積極的に併用しよう

・腹部エコーで痛みの原因部位を特定するには,プローブによる「触診」が大いに役立つ。
sonographic McBurney’s signとは,エコーで虫垂像が描出された際,プローブによる圧迫でその像に限局した圧痛があることを指す 2)
・プローブによる触診としては,急性胆囊炎の評価で利用されるsonographic Murphy’s signが最も有名である 3)。他には腎盂腎炎を疑う場合に,腎臓に限局した圧痛があるかも確認できる 4)
・プローブによる圧迫は触診としてだけではなく,描出の妨げとなる消化管ガスを観察断面から排除し,プローブと観察対象部位との距離を短くし,描出能を改善する役割もある(graded compression technique,Practice 2→次週医学界新聞プラス参照)。

Practice1のその後

エコー終了後,急性虫垂炎が考えられると患者に説明した。急性虫垂炎が疑われる場合には,原則として腹部造影CTを施行するように外科からの申し出があったが,エコー所見より造影剤の投与なしにCT診断は十分可能と判断した 5)。単純CT(図2)を施行後,外科に引き継ぎを行った。緊急手術で急性虫垂炎の最終診断となった。

図2.jpg

参考文献
1) 亀田徹,他:携帯型装置を用いた超音波検査による急性虫垂炎の診断.日腹部救急医会誌29:823-827,2009

2)Sivitz AB, et al:Evaluation of acute appendicitis by pediatric emergency physician sonography. Ann Emerg Med 64: 358-364, 2014

3) Ralls PW, et al:Prospective evaluation of the sonographic Murphy sign in suspected acute cholecystitis. J Clin Ultrasound 10:113-115, 1982

4) Faust JS, et al:Eliciting renal tenderness by sonopalpation in diagnosing acute pyelonephritis. Crit Ultrasound J 9:1, 2017

5) Hlibczuk V, et al:Diagnostic accuracy of noncontrast computed tomography for appendicitis in adults: a systematic review. Ann Emerg Med 55:51-59, 2010

 

プローブを握る前にこの1冊!

<内容紹介>解剖学的知識、走査法といった基本から、画像の解釈、病態の把握、そして日常臨床でよく出会うものの、実はどこにも対応法が載っていないものまで、腹部エコーを行ううえで知っておきたい“鉄則”をまとめた1冊。悩みがち・迷いがちなテーマを中心に取り上げ、症例をもとに実践的な対応策を示す。実践編1「超音波解剖とプローブ走査法」では、丁寧な解説とWeb動画でハンズオンセミナーのように走査のコツを修得できる。

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