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『ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚外用療法』より

安部正敏

2023.05.05

 皮膚疾患の治療において,外用薬はただ塗ればよいわけではありません。塗り方,用量,基剤の使い分けetc……といった基本を押さえた上で用いる必要があります。『ジェネラリストのためのこれだけは押さえておきたい皮膚外用療法』では,最低限理解しておきたい知識をコンパクトに解説。日常診療でよくみる疾患に関しては,診断・治療プロセスから具体的な処方例までを示します。

 「医学界新聞プラス」では,本書の中から4つの項目をピックアップ。第1回,第2回で適切な選択をするために知っておきたい外用薬の構造を紹介し,続く第3回,第4回で「痒疹」「脂漏性湿疹」を例にとり,外用薬の具体的な使い方を解説します。


 

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 いわゆる“虫刺され”が代表格である。それ以外の要因でも生じる難治性のかゆみを伴う皮膚疾患であり,アトピー性皮膚炎にもみられる。極めてありふれた皮膚疾患なので,読者諸氏も患者から相談を受ける機会が多いだろう。ただし,皮疹の診かたに熟達していないと思わぬ過ちを犯すこととなる。皮疹の把握が重要である。

診断・治療のプロセス

 急性痒疹の原因は虫刺が多い。これ以外にも亜急性痒疹,多形慢性痒疹などの分類がある。あくまで皮疹は丘疹であり,単発のものもあれば,多数生じるものもある。形が揃った丘疹が無秩序に多発し(播種状と称する),毛包の位置と無関係なのが特徴である( 図1 )。瘙痒が生じた際に二次感染防止と称して抗菌内服薬が処方されたり,抗菌外用薬が併用されたりすることがあるが,これは不用意な投薬である。厳に慎みたい。

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図1  急性痒疹

痒疹の分類

 痒疹には,急性痒疹,亜急性痒疹,多形慢性痒疹といった分類がある。

| 1 | 急性痒疹
 “虫刺され”が多く,年少者に多い。ストロフルスという病名も存在する。個々の皮疹は似たような形を呈し,単調である。無論,本人や保護者が虫体を目視している場合には,診断は容易である。

| 2 | 亜急性痒疹
 主に成人に生ずる。四肢伸側にみられることが多く,蕁麻疹に似た丘疹が出没し,通常搔破により色素沈着をきたす。

| 3 | 多形慢性痒疹
 高齢者に好発する痒疹であり,激しいかゆみを伴う。皮疹は文字どおり紅斑,丘疹,苔癬化局面と多彩である。治療抵抗性であることが多く,時に紫外線療法を選択する場合がある。

| 4 | 結節性痒疹
 主に成人に生ずる。四肢伸側に強い瘙痒を有する結節が多発する。皮疹は比較的大型であり,硬く触れることもある。慢性に経過した場合には厚い鱗屑を付す場合も多い。

| 5 | 色素性痒疹
 思春期の女性に好発する。蕁麻疹様の膨疹が出現した後,丘疹となり,その後,粗大網状の色素沈着を残す。糖尿病,妊娠,飢餓により発症する。ダイエットブームである現代,少なからずみられる疾患であり覚えておくとよい。

外用療法

 強力なステロイド外用薬を用いる。急性痒疹の場合,外的要因が多数を占めるため,強めのレベルの外用薬をあえて選択し,短期間で治療を終えるのがコツである。亜鉛華軟膏との重層療法も有用。また,瘙痒を制御するために抗ヒスタミン薬投与を行う。慢性痒疹となった場合には,ステロイドのテープ剤も有用である。

生活指導

 患者には他者にうつることはないことを理解させる。また,搔破により悪化するため,就寝時の手袋着用なども重要である。時に誤った知識から消毒を繰り返す患者がみられるが,二次感染防止のためには,むしろこまめな洗浄を指導すべきである。瘙痒が強い場合には,局所の冷却も有用である。
 診断が困難な場合には皮膚科専門医への受診を勧める。治療において,どのレベルのステロイド外用薬を使用するかの判断はなかなか難しく,ある程度の経験を要するのである。

処方例

外用療法

 ▶ 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン軟膏0.1%(パンデル® 軟膏) 1日1~2回 塗布
 効果がみられない場合には以下のいずれかに変更する。
 ▶ ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏0.05%(アンテベート® 軟膏) 1日1~2回 塗布
 ▶ デプロドンプロピオン酸エステル貼付剤(エクラー® プラスター20 μg/cm2) 1日1~2回 貼付

内服療法

 以下のいずれかを用いる。
 ▶ ベポタスチンベシル酸塩錠(タリオン® )(10 mg) 1回1錠 1日2回 朝・夕食後
 ▶ フェキソフェナジン塩酸塩錠(アレグラ® )(60 mg) 1回1錠 1日2回 朝・夕食後
 ▶ オロパタジン塩酸塩錠(アレロック® )(5 mg) 1回1錠 1日2回 朝食後,就寝前
 ▶ レボセチリジン塩酸塩錠(ザイザル® )(5 mg) 1回1錠 1日1回 朝食後,就寝前


 

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外用療法のコツを凝縮してお届けします!

<内容紹介>皮膚疾患を治療するにあたって、最低限押さえておきたい外用療法のポイントをわかりやすく説き起こした1冊。塗り方、用量、基剤の使い分け、古典的外用薬、ドレッシング材、洗浄剤、化粧品、市販衛生材料など、外用療法の基本から解説。新薬など診療の幅を広げる外用薬は特論として取り上げた。日常診療でよくみる疾患は、診断・治療プロセスから具体的な処方例までコンパクトにまとめている。臨床現場で今すぐ使える知識が満載!

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