心の不調に対する「アニメ療法」の可能性
[第5回] 物語がメンタルにプラスの作用をもたらす仕組み①
連載 パントー・フランチェスコ
2023.11.20 週刊医学界新聞(通常号):第3542号より
「アニメ療法」とは民間療法の類なのか医学的根拠のあるセオリーなのか,疑問に思う方も多いでしょう。今回は,筆者が提唱する「アニメ療法」の基盤にある物語療法についてお話しすることで,理解を深めていただければと思います。アニメ療法とは,アニメ,ゲーム,漫画など,いわゆる創作物の,娯楽を超えた価値を活用する療法です。精神健康度のために物語を用いるセラピーと言い換えられます。そもそも物語が精神的なサポートをできることは,医学においても前代未聞のことではありません。
まずはアニメ療法の根底にある3つの理論を紹介します。1つ目は,米国の心理学者Albert Banduraにより提唱された観察学習理論。他者(モデル)の行動や態度,あるいは感情表出を観察することで,その行動型を学習するとする理論です。1960年代,Banduraらは,人は他者をまねるのではなく,他者の行動からありのまま学びとるのだと主張しました1)。観察対象は生身の人間だけではなく,架空のキャラクターでもこの理論を活用できるのではないかというのが筆者の考えです。
また,Michael Whiteのナラティブセラピーはアニメ療法と深くかかわります。ナラティブアプローチによれば,私たちの悩みの原点は“支配的な物語”です。それは,私たちの中に存在する,他の可能性を想像できない物語を指します。セラピストの目的は,対話を通じて新しい物語(支配的な物語とは異なるもの)を紡ぐことです。「あなたはこうはなれなかったかもしれないけれど,別の可能性もあるのですよ」2)といった具合に,代替となる物語の可能性を示します。創作物を対象者に提供することで,あり得る他の可能性を想像しやすくなるのではないかと筆者は考えています。
3つ目は,米国の臨床心理士Janina Scarletによるスーパーヒーローセラピーです。バットマン,キャプテン・アメリカ,ワンダーウーマンなど,自身と関連しそうなヒーローになりきることを患者に推奨するものです。カウンセラーは通常,患者に本や映画,テレビに出てくるヒーローで好きなものがあるかを尋ねることから治療を始め,患者の現在の症状や治療目標の設定・実施との関連性を引き出すことに取り組みます3)。アニメ療法ではヒーローに限定はしませ...
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