スライド作成のABC
[第4回] スライドの内容と伝え方
連載 柿崎真沙子
2023.11.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3541号より
前回までに,スライドの構成,フォントや背景を解説しました。そこまで決まったら,次は実際の中身です。
文章は箇条書きで
伝えたい内容を文字としてスライドにする場合は,基本的には箇条書きにするのが良いと思います。同じ内容を示したスライドで同じ説明をしても,スライドの内容がすっと頭に入って印象に残るのはやはり要素ごとに改行され,重要な情報のみがシンプルにまとめられている箇条書きではないでしょうか? もちろん,ある教科書ではこのような定義になっている……といった文章を示す必要がある場合もありますが,多くの場合は箇条書きにするほうが聴衆には理解されやすいです。
第2回でも取り上げたように一般的にスライド1枚で1分が目安になるので,文字量はその範囲に収まるようにしましょう。自分のスライドを見返した体感では,500字を超えると文字が詰まってしまい,行間を調整しても見づらいと感じました。パワーポイントは文字量に応じて文字の大きさを自動で調整してくれます。タイトルは40~44 pt,見出し・小見出しが24~28 pt,本文が18~22 pt程度に収まる量が良いと思います。また,話す内容をそのままだらだらスライドに書いてしまうと,スライドを見ながら読み上げるだけになってしまい,スクリーンやパソコンの画面を見続ける発表になってしまう恐れがあります。ですので,スピーチのメモ書きのようなイメージで,自分自身や聴衆がスライドを見ると今話している内容のエッセンスがわかる,というような形で作ると良いでしょう。
データは表,グラフ,図どれで示す?
自分自身の研究結果や,イントロダクションで使用するさまざまな統計データをスライドに落とし込む際,表にするのが良いでしょうか,それともグラフや図にするのが良いでしょうか?
私は,じっくり見てもらいたいものや,比較項目の種類が多いデータ(発表する研究の参加者の基本特性など)については表にしています。また同じデータでも,口頭発表では時間が少ない場合も多いので視覚的にわかりやすいグラフにして口頭説明で情報を補い,ポスター発表ではじっくりと見てもらう時間があるので表にする,と使い分けることもあります。ポスター発表でも,座長がいて短い説明時間がある場合は,聴衆がぱっと見て結果を理解しやすいようにグラフを,発表を聞いた後にじっくりポスターを見たい人,または発表は聞いていない状態でポスターを見に来る人が理解しやすいように表を,とグラフと表を組み合わせたりします。他にも,グラフだけにして数値を細かく記載したりします。状況によって同じ内容でも伝え方を変えることで,よりわかりやすい発表になるでしょう。図1は同じデータを表とグラフにしたものになります。男女で差がある,とぱっと見てわかりやすいのはやはり表よりもグラフではないでしょうか。数字自体をじっくり見てもらいたい場合はグラフ中に数字を入れ込むようにしたり,表もグラフもどちらも示すのが良いと思います。
一方,基本特性など示さなければならない項目数が多いデータはグラフにすると煩雑でわかりにくくなることも多いので,基本的に表を使用します。項目数が多いデータを無理にグラフにしようとすると,全ての項目でグラフを作らなければならなくなるため,スライド1枚に対するグラフの数が多くなったり,スライドの枚数が必要になったりします。視認性の低下や,1枚のスライドで伝えられる情報量の減少につながるため,避けたいです。
また,イントロダクションなどで使用する統計データですが,年次推移などは情報量が多く,表で示すとかなりわかりにくいため,基本的にはグラフにすることが多いです。統計データが都道府県別や国別などになっている場合は,グラフではなく地図にすると視覚的にわかりやすい場合もあるので,データによっては一般的なグラフではなく,マップ(地図比較)を使って色の違いでデータの差を示す場合もあります。
イラストや写真は大きさと位置を揃えて見やすく
私自身の専門である疫学・公衆衛生学の分野では,基本的に結果は数値として報告されてくるため,文字情報,表,グラフ・図,のみで学会発表が完結する場合が多いです。しかし実践報告などの場合は,何を実施したか伝えようと思っても,文字情報だけでは伝わらないことも多く,その際はイラストや写真を使うことになります。研究分野によっては電気泳動やX線検査,MRI検査の結果などを写真で伝えるケースも出てくると思います。その際気を付けることは,イラストや図,写真,文章のレイアウトです。2枚以上の写真やイラストを使用する際は,写真の大きさと位置をそろえると見やすくなり,写真やイラストに対応した文字情報を入れる場合は,写真と文字の大きさと間隔などの位置に注意するとぱっと見てわかりやすくなります(図2)。もちろん,デザイン性のあるスライドにしたい場合は,大きさを変えた写真をコラージュしても良いかと思いますが,私はデザインの素養がないので大きさと位置を揃えるのみにしています。
配色以外の強調方法も検討する
「このキーワードは覚えておいてほしい」「この結果は重要だ」といったように,内容やデータで強調したい部分が出てくることもあると思います。その際,第3回で紹介したように配色による強調はよく用いられる方法です。しかし,同じく第3回の最後に少し言及したように色の感じ方にも多様性がありますので,色だけで区別をつけるのではなく,太字にする,下線を入れるなどすると良いでしょう。図の場合は色を変えるだけではなく,ドットや斜線などで区別をつける,区切りを入れるなどの方法をとることで,多様性にも対応できます1)。自分のスライドがどのように見えているか気になる方は,色のシミュレーターというアプリがありますので,そちらで確認してみてください。
参考文献・URL
1)カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット政策委員会.カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットガイドブック 第2版.2018.
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