医学界新聞

スライド作成のABC

連載 柿崎真沙子

2023.09.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3532号より

 一からスライドを作るとき,皆さんはどうやっているでしょうか? メモ帳やワード,エクセルなどに必要な要素を書き出し,全体の構成をきっちり組み立ててから,パワーポイントなどのプレゼンテーションソフトを開きますか? それともいきなりプレゼンテーションソフトを開き,とりあえず作り始めてみますか? ちなみに私は,学会発表などある程度決まった構成がある場合は前者の「事前に構成を組み立て,必要な要素を落とし込む」方法を使い,「感度・特異度の講義用スライドを作る」のようにテーマが漠然としている場合は後者の「とりあえず作ってみる」方法を採用しています。どちらがより作りやすいかは状況によって左右されると感じているからです。スライドを作成する際に「どちらの方法が良い」という優劣はないと思います。

 学会発表は多くの場合,背景や目的,方法,結果,考察,まとめというような流れが定まっており,発表時間も決まっています。そして,発表スライドを作成する前に,これらの内容を学会抄録(アブストラクト)にして提出する必要があり,指定された構成や文字数の範囲内で過不足なく,正確に,内容がわかるように記載することが求められます。この字数制限は比較的短めに設定されていることが多いため,書き込む内容は吟味する必要があります。つまり,考え抜いた末に作成した学会抄録は,プレゼンテーションの構成としても練り上げられたものになっているはずです。実際学会発表用にスライドを作成する際は,すでに提出している学会抄録に沿ってスライドを作っていけばまとまったスライドができるでしょう。

 あまりにも学会抄録が短すぎる場合は,発表に使うスライドのほうが抄録より内容が多くなるため,どのような内容を加えるかも考えなくてはなりません。その場合は,入れたほうが良いかもしれないと感じたスライドをとりあえず全て作ってしまい,発表時間を計りながら内容を検討します。その際は,文字数の制限の関係で抄録から削らなければならなかったこと,発表内容のメインとはならないものの解析結果として重要だと思われること,自分の研究の目的や考察がより明確になる追加情報などを中心に付け加えていきます。最後に発表のまとめなどを入れるとわかりやすくなったり,内容によっては謝辞が必要になったりすることもあります。

 スライドを付け加えていく際は,枚数や内容が発表時間に対してあまり多くならないようにしましょう。1分当たりスライド1枚+アルファ(つまり10分の発表であればスライドの枚数は10~15枚程度)とよく言われますので,それを目安にすると良いでしょう。とはいえ,早口で話す方やスライド1枚に含める情報がそこまで多くない場合は枚数が多くても大丈夫ですし,逆にゆっくり話す方や,1枚の情報量が多い場合などは少なめが良いと思います。あくまで数値は目安として考え,個別の状況に応じて調節しましょう。ただし,付け加える中で抄録の内容と齟齬がでないように注意してください。

 テーマが漠然としている場合,構成をきっちり考えようと思っても考えがまとまらずに悶々と悩むだけになってしまうことが多いため,私はとりあえずプレゼンテーションソフトを開き,次に示す①~④のように手を動かしながら考えることにしています。

① 「入れたい」と思ったスライドを,タイトルだけ作る。
② 全体の流れを考えながら,他に必要なスライドをタイトルだけ作る。
③ タイトル以外にも説明したい内容がすでに決まっていれば該当スライドにメモ書きを入れる。
④ スライドの順序を整え,内容を作り込む。

 すでに具体的なスライドの内容がイメージできている場合は,①の時点で作り込んでしまうことも多いですが,まずはタイトルや説明したい内容をメモレベルで記載したスライドだけをひたすら作り,後から順序の調整や内容の作り込みを行います。

 そうやって概要だけ作っていると,「この内容はこの後に入れたほうがいいかも」「これを加えると流れがわかりやすくなる」「このテーマだったらこのスライドを入れないと」といったアイデアが思い浮かんできます。アイデアを反映し,全体の流れがある程度固まったら,メモ書き程度のスライドでも1度発表をイメージして全体を通し,内容を確認してみましょう。確認してみて,発表時間に対してスライドの枚数が適切か,何か引っかかる点がないかを考え,さらにブラッシュアップします。それを何度か繰り返していくと,発表に必要なスライドが見えてくると思います。

 個々のスライドのブラッシュアップは,私は手を動かしながら考える派です。入れたい項目をノートにメモしたり,どういう図が良いかいくつかノートにざっと書いてからスライドに起こしたりする場合もありますが,「とりあえずスライドに並べてしまえ!」とばかりに項目を羅列したり,雑にオブジェクトや表を作り,後からきれいに手直ししたりすることもあります()。とりあえず手を動かしていると「あれ? 文章にしてみたけれど,これは図表のほうが良いのでは……」「図表だけでいいかなと思ったけれど,解説の文章を入れたほうがわかりやすいかもしれない」「後半にあったスライドを前半に持ってきたほうがいいかもしれない」など,いろいろ考えも変わってきます。ですので,ノートを目の前にして悩むようならば,プレゼンテーションソフトを立ち上げとりあえずいじってみるというのを私はお勧めします。

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 介護保険について説明したスライドのブラッシュアップの過程(クリックで拡大)

 スライドの順番を整え,内容も詰め切ったにもかかわらず,1度説明してみたらわかりにくく,変更を余儀なくされたことは多々あります。発表の内容をぶつぶつつぶやきながら流れを確認したり,実際にスライドを投影して予行演習をしたりすることは,わかりやすさを客観的に判断するためにとても重要だと思います。構成を先に作り込んでスライドに起こしていく場合でも,構成をあまり考えずにとりあえずスライドだけ作っていく場合でも,予行演習をしてみて違和感があったら構成や内容を変更する,という柔軟性はとても大切です。


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