医学界新聞


国内外のエビデンスを踏まえて

寄稿 青木拓也

2023.10.30 週刊医学界新聞(通常号):第3539号より

 かかりつけ医機能が発揮される制度整備などを含む「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が,2023年の通常国会で成立した。同改正法では,かかりつけ医機能を「身近な地域における日常的な診療,疾病の予防のための措置,その他の医療の提供を行う機能」と定義し,かかりつけ医機能報告制度の創設や医療機能情報提供制度の刷新などが盛り込まれた。

 なお,都道府県に報告する具体的なかかりつけ医機能として,①日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能,②通常の診療時間以外に診療を行う機能,③入退院時に必要な支援を提供する機能,④居宅等において必要な医療を提供する機能,⑤介護サービス提供者等と連携して必要な医療を提供する機能の5項目が列挙された。

 今回の法改正は,かかりつけ医に期待される役割が「プライマリ・ケア」であることを明示している。その根拠として,かかりつけ医機能は学術的かつ国際的に普及しているプライマリ・ケアを特徴づける機能(以下プライマリ・ケア機能)と対応している。

 プライマリ・ケア機能の構成要素として,近接性(医療システムの入口としてのアクセスの担保),継続性(長期的な全人的関係に基づくケア),包括性(幅広い医療サービスの提供),協調性(他の医療機関や介護サービス提供者などとの連携),地域志向性(地域の健康ニーズの把握や地域への積極的な参画)などが挙げられる1)。前述のかかりつけ医機能の①は継続性と包括性,②は近接性,③と⑤は協調性,④は地域志向性にそれぞれ対応する。

 ここで強調しておきたいのは,プライマリ・ケア機能は理論として存在するだけではなく,その効果に関する豊富なエビデンスが蓄積されている点である。なお,これまでは日本と医療システムが異なる海外でのエビデンスが中心であったが,近年国内でもプライマリ・ケア領域のヘルスサービス研究が活発化しつつある。

 わが国ではCOVID-19パンデミックを契機にかかりつけ医機能の強化が大きな論点になっているが,その科学的根拠は十分に提示されてこなかった。そこで本稿では,エビデンスの代表例(生態学的研究を除く個人レベルの研究)を紹介したい。

◆医療の質

 医療の質は多元的な概念だが,ここでは主に有効性(エビデンスに基づいた医療の効果が得られる可能性のある者に正しく提供されること)のプロセス指標を意図する。例えば米国での複数の大規模研究において,前述の機能で定義されたプライマリ・ケアの提供が慢性疾患の管理や予防医療の質向上と関連することが報告されている2, 3)

 同様にわが国においても,プライマリ・ケア機能評価指標の日本版であるJapanese version of Primary Care Assessment Tool (JPCAT,)を用いて実施した全国調査によって,かかりつけ医機能が高いほど住民が受ける予防医療(がん検診などのスクリーニング,予防接種,禁煙や減酒などのカウンセリング)の質が高まることが示されている4)

◆健康アウトカム

 重症化などによる入院の予防は,かかりつけ医を含めたプライマリ・ケア提供者に期待される重要な役割である。実際にシステマティック・レビューを含めた海外の先行研究において,プライマリ・ケア機能を構成する近接性,継続性,包括性は,総入院や予防可能な入院の減少と関連することが示されている5~7)。また別のシステマティック・レビューは,プライマリ・ケアの継続性が良好であるほど患者の死亡......

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東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部 講師

2008年昭和大卒。東京医歯大病院にて初期研修後,日本医療福祉生協連家庭医療学レジデンシー・東京修了。20年より現職。医療政策学修士,博士(医学)。日本プライマリ・ケア連合学会理事・家庭医療専門医,社会医学系専門医,臨床疫学認定専門家。主な研究テーマはプライマリ・ケアにおける医療の質・患者安全,多疾患併存(マルチモビディティ)。第31回日本医学会総会奨励賞受賞(社会医学系部門)。

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