ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第15回] 熱中症診療これだけ! 診断・治療を遅らせるな
連載 徳竹雅之
2023.08.21 週刊医学界新聞(レジデント号):第3529号より
まだまだ暑さが続きますね! 熱中症はもう見慣れましたか? 地球温暖化はさらに進行することが予見されており,気温が高くなるとあらゆる理由での救急外来受診が増え,その滞在時間も長くなることが指摘されています1, 2)。忙しい状況でも熱中症診療を抜け目なくサクサクこなせるよう,下記①~③のピットフォールを確認しましょう。
①多彩な症状にだまされて診断が遅れる
熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」であり,多様な症状や徴候を一連のスペクトラムとしてとらえています3)。『熱中症診療ガイドライン2015』で紹介されている重症度分類を眺めてみましょう(図)。実に多様かつ非特異的な症状が記載されていますが,極端に言ってしまえば症状などどうでもよく,「暑熱環境にいた」かどうかが最も重要です。患者,付き添い,救急隊などから「暑熱環境にいた」という情報が得られれば,熱中症疑いの暫定診断をつけて迅速に治療を始めなければなりません。体温上昇がない場合があるのもピットフォールです。Ⅲ度熱中症ともなれば高体温が認められることが一般的ですが,大多数を占めるのは脱水や電解質異常を中心とした症状を呈する,より軽症な熱中症です。院外で脱衣やクーリングなどの処置がされていると正常体温であることも多いので,高体温がないことを根拠に診断を除外してはいけません。

もちろん鑑別診断は挙げておくべきで(表)4),特に敗血症はいつでも鑑別上位に挙がってきますので,fever workupと抗菌薬治療の閾値は下げておいたほうが良いでしょう。さらに,多くの疾患(虚血性心疾患,脳卒中,喘息やCOPD,高血糖,腎不全,精神疾患など)は暑熱にさらされることで悪化したり誘発されたりすることがあるので,基礎疾患の増悪がないか考えておくことも重要です5, 6)。

②鑑別診断に振り回されて治療が遅れる
熱中症の治療は,迅速な冷却がポイントです。初動が遅れるほど予後不良となるため,理想的には来院から30分以内に深部体温を38℃台に低下させることが求められます。最も効果的な方法は冷水浸漬です。鑑別診断を考えすぎて検査firstにしていると,とても30分以内での治療遂行はできません。
受診時点で38℃以上が確定していれば深部体温測定を開始します(救急外来では膀胱温測定が簡便性と信頼性の観点から良いと思われます)。ルートと採血くらいを済ませたらそのまま冷水浸漬へGo! というスピード感です。冷水であっても氷水であっても体温低下率にそれほど差はありません7)。この方法はもはや院内外において熱中症に対する標準的な治療となっています3, 8)。当院では救急隊からの第一報で熱中症による高体温が疑われる場合には,ベッドバスに氷水をなみなみと注ぎ,床をびっしょびしょにしながら患者さんを冷水に浸しています。冷水浸漬をする設備がない場合には,脱衣させた後に扇風機で仰ぐ,氷嚢で頸部/腋窩/鼠径部を冷却する,冷輸液を使用するなどを組み合わせて治療に当たると良いでしょう。しかし,これらを全て併用しても冷水浸漬に勝る効果はありません。なお,扇風機などを使用した蒸散冷却法による......
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