医学界新聞

スライド作成のABC

連載 柿崎真沙子

2023.08.21

 初めての成果発表,初めての学会発表,初めての勉強会での講師。医学生・医療者が避けて通れないのが「スライド作成」です。スライド発表をしてみたけれどいまいち聴衆の理解を得られていない,セミナー後の感想を見てみるとどうも評判が良くない,今まで扱ったことのない内容についてスライドを作ってみたけれど,話しているうちに自分でも何が言いたいのかわからなくなってきてしまった……。そんな経験はありませんか? 私は何度もありました。

 図1は,疫学研究の方法・デザインについて紹介するスライドの1枚で,前向きコホート研究を解説したものです。2008年に作成してから多少の手直しはしたものの,大きな修正は加えずになんと15年も使い続けています。このスライドは多くの方に「わかりやすい」と言っていただき,15年度の日本疫学会一般向け疫学紹介スライドショーコンテストで優秀作品賞を受賞しました1)。このように,大幅な修正なくずっと使い続けているスライドもあれば,図2で示す3枚のスライドのように,見やすさを追求した結果,年月を経て形を大きく変えたスライドもあります。これらは「基本的な統計――簡単な分析統計」を解説するスライドの一部であり,こちらも17年度に最優秀作品賞をいただきました2)

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図1 前向きコホート研究について解説したスライド(文献1より転載)
2008年に作成した当時は黒だった背景を白に変えたり,矢印の位置や文章を微調整したりはしているものの,原型は変えずに15年間使い続けています。
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図2 検定の流れを説明したスライドの変化
文章の羅列(a)→順番を示す図(b)→視線が左右にさまよわず,上から下に一直線で見ることができる図(c),とブラッシュアップしました。書かれている項目はあまり変わっていません。

 私がわかりやすいスライド作りを追求できたのは,一般の方には何がわからないのか,どうすればわかりやすいかを身をもって知っていたからです。実は私は農学部農学科出身で,医療系の国家資格は一つも保有していません。医学の基礎もないまま,農学部から医療系の大学院に飛び込んだため,医学用語や研究手法などを理解し,イメージをつかんで研究をするようになるまでにとても苦労しました。先のスライドで挙げた研究デザインの種類や統計手法もはじめはちんぷんかんぷんだったのです。私がもし,少しの説明で全てを理解できる頭脳の持ち主だったなら,賞をいただくような「わかりやすい」スライドは作れなかったと思います。

 最近では人工知能(AI)が進化し,生成系AIを利用したスライド作成サービスサイトによって,スライド作成がある程度自動化できる時代になりました。しかし,このようなAIを使って作成されたスライドは,本当に「わかりやすい」スライドなのでしょうか。私は,(現時点では,というただし書きを付けますが)先の一連のスライドがAIに作れるとは思っていません。スライドをAIに作らせてみても,実際はかなり人間の手を入れないと使えないことも多いでしょう。そう思う一方で近年の技術の進歩の著しさに鑑みると,かなり近い将来,多少手を加えれば実用に耐え得るレベルのスライドを,報告書などの文章から簡単に作成できるようになりそうだとも感じます。では,どこにどう手を加えると,「わかりやすい」スライドになるのでしょうか?

 結局「わかりやすい」スライドを作るには,与えられたデータを表形式にするかグラフ形式にするか,グラフであればどの種類のグラフにするか,どのように概念やイメージを表していくか,という人間の「判断」が必要になります。将来的には理解度を数値で示して比較してくれるなど,AIが「わかりやすさ」の判断を手伝ってくれることは大いにあり得ます。また,私の作成したスライドを含め,インターネット上で公開されているスライドがAIの学習に利用され,さらにわかりやすいイメージや概念図を出力してくれるかもしれません。けれども,どんなにAIが進化してもその「わかりやすさ」を判断するのは私たち人間になるでしょう。そして,何がわかりやすくて何がわかりにくいのか。その判断力は自分の手で「わかりやすいスライドを作れるようになる」ことで身に付くと私は考えています。

 私の15年使っているスライドのように,一度「これだ!」というスライドができると,ずっと同じものを使い続けられます。また,自分のスキルが上達して「わかりやすい」がわかってくると,昔作ったスライドもわかりやすいように手直しして活用し続けられるでしょう。もちろん,専門家向けにはその後に挟むスライドに専門的な考察を載せる,一般向けや年齢が低い人向けであればかみ砕いた説明を追加する,のように,発表の対象者や状況に応じて工夫をする必要はあります。とは言え,せっかく試行錯誤するのですから,多くの人にとって必要な情報を過不足なく押さえた長く使えるスライドが作れると良いですよね。

 わかりやすいスライドの作成方法については多くの書籍やホームページ,講義などで取り上げられていますが,この連載では,普段私がスライドを作る際に意識している,私なりの「わかりやすいスライド」作成方法をお伝えできればと思います。次回からは,スライドの構成,フォントや背景,データの表し方,図解やイメージ図,スライドの用途などを項目ごとに解説していきます。


1)柿崎真沙子.2015年度日本疫学会スライドコンテスト受賞作品「医学研究のデザイン」.一般社団法人日本疫学会.2016.
2)柿崎真沙子.2017年度日本疫学会スライドコンテスト受賞作品「基本的な統計――簡単な分析統計」.一般社団法人日本疫学会.2018.

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名古屋市立大学大学院医学研究科医学・医療教育学分野 講師

2004年明大農学部農学科卒。09年東北大大学院医学系研究科障害科学専攻修了。博士(障害科学)。東北大助教,藤田保衛大(当時)講師などを経て現職。専門である疫学・公衆衛生学の経験を生かし,現在は医学教育学分野で教学IRや多職種連携教育を主に担当するほか,コロナ禍では学内教育のICT化にも尽力した。

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