逆輸出された漢字医学用語
[第4回] 内分泌
連載 福武敏夫
2023.09.04 週刊医学界新聞(通常号):第3531号より
中国には激素という用語がある。これは日本最大の漢和辞典である『大漢和辞典』(通称「諸橋大漢和」,大修館書店)にはみられないので比較的新しい言葉であり,hormoneの中国語訳である。Hormoneは20世紀になって,セクレチンを抽出したStarling EHによって命名された。ギリシャ語のhormon(促進させるもの)がその語源である。「激」という字は「はげしい」意味に使われることが多いので激素とは怖い感じがするが,同辞典には「はげむ・はげます」の意味も解説されている。一般には「激励」との言葉もあることから,激素は「促進させる素」と理解できる。
さて,ホルモンが主役をなす「内分泌」という用語は日本でいつ登場するか。『新華外来詞詞典』によると1921年となっているが,Google Scholarによるともっと早く,1906年の「糖尿病ニ於ケル膵臓ノ病的變化ニ就テ」(日本消化機病学会雑誌)という論文が初出と思われる。中国では1919年の『診断学』という書籍が初出である(『新華外来詞詞典』)。
内分泌といえば,甲状腺が最もポピュラーである。『新華外来詞詞典』では,「甲状腺」は日本(やはり1872年の『医語類聚』)で初出とされる。論文中には,1890年の順天堂医学が初出で(Google Scholar),中国で初めて使用されたのは1903年である(『新華外来詞詞典』)。1774年の『解体新書』には甲様軟骨はあるが,「甲状」は使われていない。
甲状腺疾患の中で,まず取り上げるべきは「橋本病」であり,中国でも「橋本脳症」として現在の教科書にも使用されている。発見者である橋本策による最初の報告は1912年のArch f klin Chir誌であり,用語としての「橋本病(橋本甲状腺腫)」の論文初出は1959年の症例報告(耳鼻咽喉科臨床)にみられる。しかし,驚くことに世界ではこれより早く,1944年に「Struma Lymphomatosa(Lymphadenoid Goitre:Hashimoto's Disease):A Study of Four Cases」(Ind Med Gaz)という論文が出版されている。「Hashimoto encephalopathy」は1994年(Takahashiら),「Hashimoto's encephalopathy」は1991年(Shawら)が最初であり,「橋本脳症」は2001年(大隅ら)に初出している(Google Scholar)。
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