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書評
2023.08.21 週刊医学界新聞(レジデント号):第3529号より
《評者》 大山 峰生 新潟医療福祉大教授・作業療法学
先例を見ない強烈な衝撃。極めて優れた解剖学書!
本書を手に取ると,まず目に入るのが「The Grasping Hand」という文字である。本書は解剖学書であるが,なんと斬新なタイトルであろう。タイトルには執筆者の深い思いが込められているものであるが,読者の方々はこのタイトルから何を感じとるであろうか。
手は人の進化の過程の中で重要な器官として存在し続け,中でも手の把持機能は人が生活する上で欠かせないものとして発達し続けてきた。初期においては環境に適応するために支持物をつかんで移動することを可能にした。次には,粗大な把持機能から個々の指の独立運動を獲得したことにより,精密な把持や道具の使用など,より高度な作業を可能とした。特に,道具の使用は手の延長として機能し,生存競争において優位性をもたらした。そして現代では,われわれは当たり前のように手を利用しているが,多くの動作において手が主役となって生活を支え,その手を効果的に使うために肩,肘,前腕,手関節運動が制御されていることを実感する。こうした観点から改めて本タイトルを見つめ直してみると,手の把持機能は果てしなく長い時間の経過の下に進化し続けてきた究極の賜物であり,「The Grasping Hand」というタイトルは手の基盤となる機能を示しているのみならず,この一語で手の重大さや尊厳までを表現していると言っても過言ではない。名づけの由来はどうあれ,原書編集者であるAmit Gupta先生ならびに玉井誠先生の手に対する敬意と情熱が直接的に伝わってくる感覚を覚える。
このような感覚を抱きつつ本書のページをめくると,その瞬間,先例を見ない強烈な衝撃を受け,本書が期待通り極めて素晴らしい解剖学書であることがわかる。神経,血管をはじめとする微細な組織までが丁寧に解剖され,リアルに触れられるかのような見事な新鮮解剖写真がふんだんに掲載されている。これらの美しい写真は読者を魅了するばかりでなく,鮮明だからこそ得られる的確で緻密な情報があり,それは新たな視点を見いだすのに役立つ。また,解剖写真の質が低下しないようにと気遣われた用紙の最低限の厚さや紙質,各要所で取り入れられた図解の説明,表面解剖と内部構造との関連性の提示など,いずれにおいても読者にわかりやすく伝えたいという執筆者らの願いと責任感がうかがえる。そして,現存する手の機能の進化を証明するかのように上肢全ての関節や筋,神経,血管の詳細な解剖が展開されるとともに,運動学,生理学,脳科学的な知見まで網羅され,その機能や意義についての理解も深めることができる。極めつけは,領域に応じて選抜された専門家が最近の知見まで深く掘り下げて解説していることから,臨床家にとって必要とする知識がタイムリーに確認できる書となっていることである。特に術中の写真を用いた解説は,より実践的な知識技術の獲得に有意義なものとなっている。
本書の冒頭では,偉大な外科医であるKleinert先生ならびにAcland先生から原書編集者らが得た学びについて述べられている。それは,精一杯働くことの価値,謙虚さ,忍耐力,不屈の精神,準備の大切さであるが,本書はその執筆を通して,これら全ての教えに見事に応えており,その証となっている。この教えは,全ての手外科医やハンドセラピストなどのメディカルスタッフにとって共有すべきものであり,今後手に携わろうとする方々も含め,より多くの読者に,ぜひ,その証をご覧いただきたいと思う。
《評
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