看護のアジェンダ
[第220回] 国試支援活動に学ぶ
連載 井部俊子
2023.04.24 週刊医学界新聞(看護号):第3515号より
新設看護学部の完成年度を迎え,最後に越えなければならないハードルは国家試験(国試)である。昨年はどうしたという前例がないため,教職員と学生とで知恵を出し合っていかなければならない。3月末の退職を控えた私としても,最後の重要な任務である。
長野保健医療大学では,キャリア支援プログラムの一環として,2年次の2月に国試支援講座を開始した。国家資格を得ることの意味や国試の概要を説明し,第1回目の進路に関する意向調査を行った。3年次のキャリア支援講座は,国試問題の学習方法と就職活動について説明する。就職内定までの流れ,履歴書作成のポイント,面接試験の心得などが含まれる。看護師の採用内定時期が年々早まっているため,夏までにはいわゆる就活に備えておかなければならない。4年次のキャリア支援講座は国試支援講座がメインとなる。
国試支援に対する学生の率直な意見
2022年4月の国試支援ガイダンスを皮切りに,ポートフォリオを各自作成して計画を立て,①自分のペースで黙々と勉強したいタイプ,②教員に質問しながら勉強を進めたいタイプ,③その都度ノルマを決めて強制的に問題を解く学習タイプに分け,自己学習室を確保した。7月に学内模試を実施し,4年生は必修問題100問に挑戦した。8月の支援強化ウィークでは,人体の構造と機能,薬物療法,基礎看護技術について希望者に講義と演習を実施した。さらに第1回の全国模試を実施し振り返りを行った。
全国模試は専門の業者によって行われるものであるが,受験者個人の成績から大学の順位まで判明する。そこで,国試支援を強化する必要があると考えて,国試支援部会を拡大した。学生委員会が中心となり,大学を挙げて取り組むことになった。「11月から1月にかけて外部の専門家による国試支援プログラムを開講するので活用してほしい」と4年生に告げる。さらに,形態機能学と病態疾病治療論について週1回の補講も組んだ。
こうした国試支援特別プログラムと並行して,外部業者の模試を課し,学習の進展をみていくことにした。
保健師国試(2月10日),看護師国試(2月12日)が終了した2月末に国試支援活動の振り返りを行った。あらかじめ,学生委員会が4年生を対象に「国試支援に関するアンケート」を実施していた(n=53,回答率69%)。その結果は興味深いものであった。
まず,国試受験準備として特に力を入れて行ったことは「過去問題集に取り組んだ」が38.4%と最も多く,次いで「過年度に出題された国試問題に取り組んだ」が29.2%であり,「教科書や授業資料をまとめた」は3.1%と最も少なかった(複数回答可)。
国試受験準備として行った勉強方法は,「個人学習」が46.0%,「教室で行われた講義の受講」が30.1%,「小人数の友人との学習」が19.5%で上位を占めた。3年次に3回,4年次に4回実施した看護師国試模試の回数・時期については78.9%が「適切」と回答した。4年次に3回実施した保健師国試模試については,回数(69.3%),時期(66.7%)ともほぼ「適切」と回答している。その他,教員の個別指導は,「問題の解答に関する解説」(38.2%),「勉強の方法のアドバイス」(26.3%),「面談」(17.1%)が役立ったと回答している。
自由記述では,学生の率直な意見が多く寄せられた。中でも,「模試の振り返りはどのように行うのが効果的と考えますか」という問いに,「自分でやる」「各自で行う」「個人で振り返る」「解説と参考書をみて振り返る」「全体ではなく個人で行い,分からない部分を教員に聞きにいくようにする」など,自らが振り返りを行うという強い意志が感じられた。
魚を与えるべきか,魚の釣り方を教えるべきか
学生の回答を読み進めていくなかで,私はその昔こだわっていた事柄を想起することとなった。それは以下のフレーズである。「私が飢えた女性に魚を与えれば,彼女は空腹でなくなる。私が彼女に魚の釣り方を教えれば,彼女が飢えることはもうないだろう。しかし,私が彼女に自分で魚の釣り方を学ぶような状況をつくってあげれば,彼女は飢えないだろうし,セルフエスティームを高めることができるだろう」1)。
国試支援講座を詳細に組んで,必要な知識を学ぶように仕組むことは,「飢えた女性に魚を与えている」ことではないのか。しかも,相手を「飢えている」と決めつけているのではないか。「魚の釣り方」や「魚の釣り方を学ぶ状況をつくる」ような国試支援の在り方を考える必要があるのではないかと,学生から教えられた。
学生からの回答やコメントは歯に衣を着せず率直であった。大学の支援に感謝するというコメントがある一方,模試の結果で周りの学校と比べられて苦痛であったことや,教員の何げない言葉でキレたなど“辛らつで率直なコメント”は,読む側にもそれなりのマインド維持が必要であった。その過程でよみがえったのは,故・中西睦子先生が述べていた「生意気なナースを育てなさい」という教えだった。「“生意気なナース”というのは,言葉だけの“厚化粧”を振り払って,ほんとうの意味で患者の側に身を置きながら,成熟した“怒り”とともに働くことができるナースたち。そして,現実にある看護とその実践の姿を,誇張なくリアリスティックに捉えて,課題を見出し,自ら変えていこうとするナースたちのことなのよ」2)。
学生のコメントは,彼らが十分な「生意気さ」を保持していることを伝えている。成熟した怒りを変革の力に変えていってほしいと思った。「皆さんにすでに備わっているセルフエスティーム(自尊心)を高め,生意気に堂々と進んでください」と,看護学部長としての私から卒業生へのメッセージとした。
看護界には,彼らのような「新しい人」を歓迎する度量が求められる。
参考文献
1)ウィル・シュッツ著,斎藤彰悟監訳.自己と組織の創造学――ヒューマン・エレメント・アプローチ.春秋社;1995.p129.
2)中西睦子.異端の看護教育――中西睦子が語る.医学書院;2015.p87.
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