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医学界新聞


2023年

寄稿 春日雅人,大友康裕,南學正臣,鈴木幸雄,渡辺毅,鎌倉やよい,村田和香,成川衛,友納理緒,中嶋優子,種部恭子

2023.01.02 週刊医学界新聞(通常号):第3499号より

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第31回日本医学会総会 会頭
公益財団法人朝日生命成人病研究所 所長

 第31回日本医学会総会が本年の4月に東京で開催されます。日本医学会総会は,日本医学会に加盟する学会(2022年12月現在141学会が加盟)が,医学・医療の進歩についてその枠を越えて議論し,またそれらを社会へ発信する場として,1902年より4年ごとに開催されてきた伝統ある学術集会です。今回の第31回では講演と展示を,東京国際フォーラムを中心とした丸ノ内・有楽町エリアで集中的に開催します。久しぶりの東京での開催ですので,できる限り多くの皆さまに東京で現地参加していただきたいと思います。残念ながらご来場いただけない場合でも,講演ならびに展示をWeb配信(LIVE配信ならびにオンデマンド配信)いたしますので,日本各地からのご参加が可能です。

 今回のテーマは「ビッグデータが拓く未来の医学と医療~豊かな人生100年時代を求めて~」です。現在,わが国の医学・医療においては新型コロナウイルスによるパンデミック,少子超高齢社会,医師の働き方改革の達成,地域における医療供給体制の構築など多くの課題が山積しています。ビッグデータに体現されるデジタル革命,すなわちAI,IoT,ICT,ロボティクスなどの技術革新が医学・医療にどのような素晴らしい進歩をもたらすのか,そして先述の課題克服のためにどのように活用されようとしているのか,さらにこれらの技術革新を医療として社会に実装する際の問題点は何か,という基本的な問いかけに沿って多くの講演ならびに展示を企画しました。また,これらの技術革新がどの程度のスピード感を持って医学・医療に導入されていくのかについても参加者の皆さまと情報共有ができればと思います。そして今回の医学会総会では,ダイバーシティ推進委員会ならびに40歳未満の若手医師によるU40委員会を立ち上げ,それぞれの視点からの講演や展示も企画しました。ぜひ,ご期待いただければと思います。詳細は医学会総会のHPをご覧ください(https://isoukai2023.jp/)。

 4年に1度の貴重な機会です。ご自身の専門領域を少し離れて,現在のわが国の医学・医療の最先端を学ぶとともにその全体像を俯瞰し,未来の医学・医療を考える機会にしていただけたらありがたく思います。多くの皆さまのご参加を心よりお待ち申し上げております。


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一般社団法人日本災害医学会 代表理事
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 救急災害医学分野 教授

 1923年9月1日に発生した関東大震災によって,約10万5000人の命が失われた。今年は,その関東大震災から100年に当たる。大震災後,国は防災の啓発のために9月1日を「防災の日」と定め,同日を含む1週間を「防災週間」として講演会や防災訓練を実施してきた。また,1959年の伊勢湾台風の災害を受けて災害対策基本法を制定し,防災対策を進めていた。

 しかし,1995年にいざ阪神・淡路大震災が起きた際,それまで真剣に進めていたはずの防災対策はほとんど役に立たなかった。1月17日午前5時46分の発災後,定例の経済関係の閣議が粛々と開催され,震災対策関係閣僚会議が設置されたのが10時40分であった。筆者の記憶によると,午前11時に行われた当時の首相の会見ではまだ「死者数20~30人」としか述べていなかった。政府レベルでの情報管理が極めて脆弱であったと言える。また医療の観点から見ると,被災地内医療機関の80%以上で,断水により診療機能がダウンし,そこに瀕死の重傷を含めて多くの(発災初日に各病院に1000人程度)患者が運び込まれた。被害が甚大な病院に患者が集中したのである。しかし,神戸市も兵庫県も医療機関の状況を把握できず,支援調整の術が全くなかったのだ。

 1923年~95年の72年間,途中に太平洋戦争があったにせよ,国を挙げて真剣に震災対策を行ってきたはずであるのに,なぜこうなってしまうのか? その原因は,「真面目にやってはいるが,机上・想像の中での対策・計画発案にとどまっているため」と考える。東京都で毎年9月1日に実施されていた「ビッグレスキュー」という大規模防災訓練では,阪神大震災の際に被災地内の病院に患者が殺到したという実態が明らかとなった後も,しばらくの間,公園や学校に医療救護所を設置して最重症患者のトリアージや応急処置を施すという訓練を行っていた。大怪我をした人が,公園に搬送されるはずがないのにである。

 また現在都内で実施されている震災机上訓練では,二次医療圏に1か所設置される医療対策拠点を中心として,圏内での災害派遣医療チームの配分や重症患者転院搬送の調整を行う訓練がなされている。圏内の各区から参加する担当者より,「区に災害拠点病院が1か所しかなく,想定される患者数を収容することが難しい」という発言を頻繁に聞くが,平時,その区の区民の多くは,他の区の病院を受診しているのではないか?「災害発生時,自分の区の中でなんとかしなければならない」という机上の空想に陥ってしまう具体例である。

 このような行政・緊急対応機関・医療機関における災害対策の「机上の空想の罠」は,あらゆるレベルで発生する。例えば,地下鉄サリン事件以降経験していない大規模テロへの対応だ。タニケット装着の実技を学び,「テロ対策への準備はできた」とする医療機関が多く存在することも,G7広島サミットや大阪万国博覧会を控える中,不安要素である。

 内閣感染症危機管理統括庁に関しても気がかりだ。司令塔機能を持つにふさわしいのは,大規模な危機対応のオペレーションを担当できる「危機対応の」専門家だ。しかし,感染症の専門家に危機対応の専門家としての知見を求める,といったちぐはぐなことが起こりかねないのではないかと危惧している。これは例えるなら銃の専門家に戦争の指揮を執らせるようなものである。「机上の空想の罠」の典型例にならないことを祈る。


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一般社団法人日本内科学会 理事長
東京大学大学院医学系研究科 腎臓内科学・内分泌病態学 教授

 日本内科学会は長い歴史と伝統を有し,医学系学会ではわが国最大の学会であり,現在その会員数は約12万人です。歴代理事長や諸先輩方の優れたリーダーシップと会員の皆さまのご尽力で大きく発展した本学会の,第22代日本内科学会理事長を拝命して身の引き締まる思いです。

 内科学は古くから医学においてその基礎中心となっている学問です。今回のコロナ禍においても,全国で内科医が救急医・集中治療医などとともにその対応の最前線で活躍しました。日本内科学会の目的は,内科学の進歩普及を図り,わが国の学術の発展に寄与するとともに,国民の健康寿命の延伸に貢献することです。今後さらにその活動を活性化したいと思っております。

 そして,日本内科学会では多様性の重要性を強く認識し,これまで積極的に男女共同参画を推進してきました。多様性の要素は分野・性別にとどまらず,年代・地域・勤務形態などさまざまな要素があり,また日本の地域特性とともに国際標準を理解することも重要です。学会に所属する内科医が幅広く活躍していくために,さらなる多様性の推進を行うことで,内科学会を強化していきます。

 そして,内科医の基本はgeneral physicianです。内科医はみな,総合内科医としての優れた能力を獲得し維持しながら,それぞれのサブスペシャルティ領域における専門性を高めていくことが大きな特徴です。各サブスペシャルティの専門医に加え,高レベルな領域横断的能力を有した総合内科専門医の必要性と重要性は強く認識されています。日本専門医機構が主導する専門医制度に参加する立場として,優れた専門医の育成に努めるとともに,多様な内科医のキャリアに対応したリカレント教育についても重点領域として注力していきます。

 2023年は,日本内科学会120周年記念の年となります。諸先輩方と会員の皆さまに感謝するとともに,日本の未来を担う若手医師に優れた内科医となってもらえるように,日本内科学会の使命達成に向けて誠心誠意努力いたします。今後も皆さまからのご意見・ご要望や社会からの期待に応えてまいりますので,ご指導・ご鞭撻を何卒よろしくお願い申し上げます。


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コロンビア大学メディカルセンター産婦人科婦人科腫瘍部門 博士研究員
横浜市立大学産婦人科学教室
日本専門医機構 理事

 命・健康の価値がますます高まっている近年において,医療が抱える社会課題は多い。世界的パンデミックへの対応,がんの撲滅,非感染性疾患(Non-Communicable Diseases:NCDs)の克服,メンタルヘルス,リプロダクティブ・ヘルス/ライツなど枚挙にいとまがない。

 新型コロナウイルスへの対峙,医師の働き方改革時代の到来など,医療提供の在り方や医師の仕事の在り方が時代の大きな変換点を迎えているのは間違いない。世界はものすごいスピードで常に変化している。うまく変化していかなければ,その先には後退しか待っていない。歴史的なパンデミックを経験し,われわれは大きく変わりつつある。この変化は進化につながっているのだろうか。課題から目を背け,表面を取り繕うだけになってはいないだろうか。医師も医療技術も医療システムも一日にして成らず。積年の工夫で均てん化された素晴らしい日本の医療を守りながら,どうすれば未来に希望を感じる進化を見せられるか,今一度足元から考えたい。

 今,子どもたちがなりたい職業ランキングではYouTuberなどエンターテインメント関連の職業が上位を席巻している。ヒーロー像は時代とともに変わってきた。専門職からスポーツ選手,そしてデジタル・エンタメ職へ。しかし私は今でも医師,医療者はヒーローだと信じている。米国ではパンデミック激震地での診療に当たる医療者の貢献を称え,ニューヨークのコロンビア大学病院に面した通りに“Healthcare Heroes Way”という名が付けられた。これからもわれわれ医療者は,最前線で命と向き合い,世界中の人を治す新薬を開発し,未来の医療を切り拓く,そんな命を守るヒーローでありたい。

 しかし,今見える日本の医療の未来は決して明るくない。身を粉にして働き,型にはまったキャリアを好む人は確実に減った。現代の医療を担うわれわれには,より良い未来の医療のために,失望の声を期待に変えていく責務がある。あらゆるニーズをとらえ魅力的なキャリアを示すためにも,医師の仕事とは何かを再定義し,限りある“時間”の使い方を根底から見つめ直さなければならない。医師の強みを生かす仕事にフォーカスするため,コアと言える診療の効率化と密度上昇を進めていきたい。こうして生み出される新たな時間を,家族に,社会に,趣味に,研究に,教育に,再分配するのである。

 2023年,今年もどんな社会の波が押し寄せるのかは皆目見当もつかない。しかし,さながら気候変動のごとくグローバルな影響を受ければ極端な現象が起こることは想像に難くない。どんな状況が訪れてもわれわれは未来に向けて後退することなく,発展していくべきである。医療界の未来に“希望”の声は少ない。今年は良い転換の年になることを願う。


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一般社団法人日本専門医機構 理事長
福島県立医科大学 名誉教授

 専門医制度は,医師の資質の向上(ミクロ的視点)と医療体制での人的資源の適正配置(マクロ的視点)の視点から,医療供給の質向上を目的としたものです。

 日本の専門医制度は,欧米から遅れること約半世紀,1962年以降に各領域専門学会の制度として次々設立されたものです。しかし,各制度の標準化・統一性に欠け,国民には理解し難いという欠点がありました。その後,1981年~2008年までの27年間,学会認定医制協議会や日本専門医制評価・認定機構と名前は変わりながらも,日本医学会加盟学会を中心とした組織で標準化・統一化が検討され,新専門医制度の根幹となる考え方は確立されました。しかし同時に学会主導の改革の限界も明らかとなったのです。そこで,厚労省「専門医制度に関する検討委員会」の報告書に基づいて,欧米では一般的な第三者機関として,2014年に日本専門医機構(以下,機構)が設立されました。

 機構の新専門医制度においては,専門医像は各領域でのいわゆるスーパードクターではなく標準的な医療が提供できる医師とされています。基本領域とサブスペシャルティ領域(以下,サブ領域)からなる二段階制となっており,必要な資質を得るための研修制度,資格を確認する認定制度と生涯教育のための更新制度からなります。

 臨床医学は,診断に重点を置く内科(Medicine)と治療技術が主眼である外科(Surgery)の2つの潮流が紀元前からあり,おのおのが患者年齢,対象臓器や身体機能単位で分化したのが今日の基本領域です。臨床研修修了後どれかを専攻することが望まれ,研修は原則として研修計画に基づくプログラム制で行います。また医学や医療技術の進歩に伴い,基本領域がさらに細分化・高度化・横断化したのがサブ領域です。

 新設の総合診療を含めた19基本領域では,地域医療への悪影響の懸念から新制度の開始が1年遅れ,2018年4月からの開始となりました。その後,毎年,臨床研修修了者の95%以上(2022年度は9448人)が専攻医となり,制度はひとまず定着したと言えます。

 サブ領域においては,2018年の医療法及び医師法の一部改訂により,機構が厚労大臣の意見を反映させる努力義務を負う旨が明記され,厚労省医道審議会に設置された専門研修部会より地域医療への影響を懸念する声が上がったため,予定された2019年開始が延期されました。また,医道審議会により,23のサブ領域が研修方式によって3分類される形式への制度変更が要請されました。その後,新型コロナウイルスの影響による開始の遅れもある中,2022年4月にようやく15領域で連動研修方式(基本領域と併行して研修可能)での研修が開始されました。一方,新たに認定された3領域を含めた12サブ領域の研修開始は次年度以降となりました。現在,サブ領域専門医制度は,当初の開始予定より2年遅れ,また研修方式という制度の根幹における改訂もあり,軌道に乗ったとは言い難い状況です。

 新専門医制度は,専門医制度本来の理念をめざしています。しかし,臨床研修と異なり法制化されておらず,過去の学会による制度を引き継いだ歴史的制約があり,さらには医療法及び医師法の一部改訂に基づき国・自治体などへの配慮も必要なことからいわゆる「プロフェッショナルオートノミー」のみでは運用できない状況です。また,領域別必要医師数の算出と領域別専攻医の定員制度(シーリング)の検討,専攻医・専門医に関する登録システムとデータベースの構築,専門医の広告開示制度,機構の財源確保など多くの制度的課題も有しています。機構は,今後これらの課題を各方面と意見調整しながら合意形成をめざす必要があります。


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一般社団法人日本看護系大学協議会 代表理事
日本赤十字豊田看護大学 学長

 2010年に厚労省から「チーム医療の推進に関する検討会報告書」が発出され,看護師はチーム医療のキーパーソンとして明記された。そして2015年には保健師助産師看護師法が改正され,第37条の2に特定行為が位置付けられた。振り返ると1948年の保健師助産師看護師法制定後,1951年に看護師による静脈注射は違法であるとの厚生省医務局長通知が出されてから,2002年に法解釈が変更されるのに半世紀を要したことになる。先人たちの努力によって,ようやく動き出した看護師の役割拡大の要請を,私たちは受け止めてさらに看護学を発展させる必要がある。

 特定行為の制定は看護師が実施できる医行為の拡大を示している。認定看護師制度では,教育基準カリキュラムに特定行為研修が導入され,当該分野において,より充実した看護ケアを提供するために1~3区分の特定行為が選定され,教育が開始された。特定行為研修の修了者は増加しつつあり,臨床推論力が向上したとの臨床からの評価も聞こえる。チーム医療における看護の役割は,「医療を受ける人々の生活を支援する」ことであろう。特定行為をどのように看護学に生かすのか問われていると考えるが,医師の役割を代行するというよりも,さらに良質な看護を提供するためのスキルとして,積極的に活用することを考えていきたい。

 看護学は実践の科学として発展し,看護診断は体系化されてきた。しかし,医師の治療に相当する看護ケアの方法論が体系化されているとは言い難い。看護学は患者に対するケアの個別性を重んじてきた。それは重要な視点であるが,それゆえに方法論の標準化が遅れたように思えてならない。チーム医療における目標は,患者の健康が回復することであり,参加する医療者はそれぞれの専門性に基づく知識と技術によって目標達成に貢献する。言い換えれば,看護の専門性に基づく看護ケアにおいても,他の専門職が理解できる方法論が必要なのである。目的志向性の高い一連の看護ケアプログラムとして,エビデンスを明示した方法論を体系化することが次代の課題と言える。

 さらには,看護師が患者を観察して臨床推論に基づいた適切な看護ケアプログラムを判断し,特定行為を活用してそのケアを患者に提供するためには,看護師の役割拡大のための制度の検討も必要となる。現在,日本看護系大学協議会は,日本におけるグローバル水準の高度実践看護師制度の構築をめざして,関係する団体や機関と連携・協働しながら活動している。これらの実現に向けて努力したい。


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第56回日本作業療法学会 学会長
群馬パース大学リハビリテーション学部長

 年頭に当たり,楽しい話を考えたい。作業療法士はどんな時代にあっても,日々の生活を大切にし,個々人の人生の質や喜び,楽しさを創り出す専門職である。人々の健康と幸福にかかわる職業であるため,クライエントが「できるようになりたいこと」「できる必要があること」,そして「できることが期待されていること」に焦点を当てる。生きるために,作業を利用し,環境に働きかける実践を展開させる。

 2022年に開催した第56回日本作業療法学会は,京都での対面,LIVE配信,オンデマンド配信のハイブリッド開催となった。もちろん,新型コロナウイルス感染症の対策であったが,学会の在り方を考える良い機会になった。これまでと違った参加の仕方を知ったことで,今後の学会の新たな展開が見えてきたのである。そもそも作業療法士には女性が多いため,育児や家事の合間に参加できる学会は,忙しく働く女性を支えるものとなる。実は女性だけではなく,学会に職場の若者を優先して送り出し,その間の仕事を請け負っていたため現場から離れられなかった管理職の作業療法士にとっても,遠慮せずに参加できる機会となった。

 学会のテーマは「持続可能な社会を創る作業療法」とした。まさに,多様性に注目する機会になったと感じる。障害を持つ,持たないだけではなく,行動を妨げられたり,活動を制限されたり,参加の制約を受けたり,時に禁じられたり,作業を剥奪されたり,社会の中心から脇に追いやられたり,といった状態に陥ることが,時に人には起こる。作業療法は治療として作業を提供しているだけではない。人間らしく生きる権利,すなわち基本的人権を守るために,個々人が望む形で生きるために環境に働きかける。そんなことを改めて,作業療法士自身が自覚する機会となった。

 持続可能な開発目標(SDGs)は2030年までの目標として採択されたものであり,誰も取り残さないという理念を持つ。作業療法の教育に携わる者として,作業療法学は人々が健康で幸福に生きるための支援ができるという強さを持っていることを学生に伝えたい。

 ちなみに,私の所属している大学名のパース(PAZ)はポルトガル語で平和を意味する。平和で公正な社会の発展が建学の精神である。今こそ,と感じている。


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北里大学薬学部 教授

 医薬品は,日々,私たちの健康を守るために大切な役割を果たしています。品質の確保された製品が安定的に医療の場に供給されることは非常に大切であり,「医薬品はあって当たり前」との感覚は強いでしょう。しかし,その当たり前が揺らぐ事態が相次いで発生しています。4年 ほど前,外国での製造上のトラブルに起因して,重要な抗菌薬の国内での安定的な供給が長期にわたって滞り,医療に深刻な影響を及ぼしました。また最近では,一部製薬メーカーの法律違反に端を発して,後発医薬品を中心に多くの品目で供給停止や出荷調整が行われ,品薄状態が続いています。

 新薬に目を転じると,かつて日本で問題となったドラッグ・ラグ(新薬が米国や欧州で承認されてから日本で承認・上市されるまでに長い時間がかかること)は,医薬品の承認審査を担う機関の体制強化や製薬産業におけるグローバルな開発戦略の推進を受け,一定の改善が図られてきました。しかし,世界における新薬の研究開発の主体は,いわゆるメガファーマから,日本市場への足場を持たないような新興バイオ企業にシフトしつつあり,これを背景に新たなドラッグ・ラグが生じ始めていることが指摘されています。有効で安全な医薬品をタイムリーかつ安定的に医療の場へ供給することの重要性は,かつてなく高まっていると言えるでしょう。

 一つひとつの医薬品が医療の場に届けられるまでには,製薬企業等による研究開発と承認申請,国での審査・承認,公的医療保険で使用できるようにするための薬価基準への収載といった製品の上市に至るまでの作業と,メーカーによる製品の製造,医薬品卸売業を介した病院や薬局への販売などの市販後の製造販売に関する作業とがあり,携わるプレーヤーもさまざまです。安定した医薬品の供給には,全てのプレーヤーが適切に連携し,おのおのの作業が円滑に進む必要があります。これらを背景に,昨秋より,厚労省において「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が開催され,医薬品の流通,薬価制度,産業構造など,幅広い側面からの検討が行われています。ここでの議論が,私たちの健康で安心な暮らしの実現を支える,医薬品の供給の仕組みの改善に向けた施策につながることを期待しています。


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参議院議員・看護師・弁護士

 少子高齢社会の中で,人生100年時代を見据え,全世代型の地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みが進められています。さまざまな健康問題を抱えた方々が,できる限り住み慣れた地域あるいはご自宅で,必要な医療や看護の提供を受けつつ安心して自分らしく生活できる体制を早急に整えなければなりません。

 そのために必要なこととして,医療機関の外来看護や訪問看護等の体制の整備が挙げられます。入院と在宅をつなぐ外来看護は言うまでもなく重要です。コロナ禍においても外来看護の果たす役割は非常に大きく,その業務も複雑多様化しています。しかしながら,この外来の看護職の人員配置標準は1948年に制定された医療法に規定された「30対1」のままであるなど,外来看護の役割や機能について十分な検討がなされてきたとは言い難い状況にあります。時代が変わり,医療・看護を取り巻く状況が変わったのであれば,法律や制度も合わせて変えなければなりません。2022年4月1日に外来機能報告制度が施行されるなど,地域の医療機関の外来機能の明確化・連携が推進されています。外来看護について見直す時期に来ているのではないでしょうか。

 また,地域の療養生活を支えるためには,訪問看護や地域共生の拠点となる看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の体制整備も欠かせません。団塊の世代が全員後期高齢者となる2025年に向けて,訪問看護師の人材確保や質向上,訪問看護ステーションや看多機の安定的な経営のために,積極的な取り組みが必要です。

 最後に,本年4月に子ども家庭庁が設置され,政府は総合経済対策に,「妊娠時から出産・子育てまで一貫した伴走型相談支援の充実」を掲げています。特定妊婦()だけでなく全ての妊婦が助産師などの支援を受け,安心して出産,そして育児ができるようになることが望ましいと考えます。子どもを産みたいと思ってもらえる社会となるように,取り組みを進めます。

 全ての世代の皆さまが医療機関でも地域でも,安心して自分らしい生活をすることができるように,力を尽くしてまいります。

:予期せぬ妊娠や貧困,DV,若年妊婦など,子どもを育てるのが難しく,出生前から支援が特に必要とされる妊婦。


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国境なき医師団日本 会長・救急専門医

 ついに1億人を超えた──。2022年,そんなニュースが世界中を駆け巡りました。紛争や迫害によって住む場所を追われた,世界の難民・国内避難民の数です。

 日本でも大きな関心が集まったウクライナでの戦争のみならず,アフガニスタンの混乱,エチオピアの紛争などで多くの人々が国内外への避難を余儀なくされました。シリアでは内戦が始まってから昨年で11年,バングラデシュではミャンマーから70万人を超えるロヒンギャの人々が逃れた危機から5年と,問題は長期化しています。

 そうした中,国境なき医師団は,昨年も独立・中立・公平な立場で,命の危機にさらされた人たちに医療援助を届けることができました。これらの活動の基盤となっているのが,団体に賛同してくださっているお一人お一人の思いです。医療界でも,寄付によるご協力をはじめ,自身の力を人道援助の現場で生かそうと考える医療者の方々や,所属医師を国境なき医師団の活動に送り出してくださった病院の方々など,多大なるご協力に改めて感謝いたします。

 国境なき医師団は2021年に設立50年を迎えました。設立以来,医療援助とともに続けてきたのが,現地で目の当たりにした人道危機の現実を社会に伝える「証言活動」です。近年,国際人道法に反して紛争地で医療が攻撃の対象となり,助かるはずの命が助からないという悲劇が多数発生しています。世界に衝撃を与えたウクライナの産科病院へのロシアによる攻撃もその一つで,決して見過ごしてはならない現実です。私たちはこれからも,命を脅かす理不尽な事態に声を上げ続けていきます。

 変わらぬ理念を大切にする一方で,フランスでの誕生から半世紀の間に組織が大きくなり,時代に適応した変革も求められています。欧州中心の流れから脱して,アフリカやアジアなど地域ごとに速やかに意思決定し動けるようにすることで,その国や地域の文化に合った援助活動ができ,機動力も増すはずです。多様性が増す世界でより良い医療援助を行うために,日本やアジアからの視点を積極的に提起していきたいと考えています。

 さらに私たちは今,学校教材や講演などを通し,次世代の育成に向けた取り組みも進めています。人道問題を遠い世界の出来事ではなく自分ごととしてとらえ,行動を起こせる人材を育てることが目的です。

 人道援助への関心を広げ,日本から世界へより大きな力を届けられるよう,私たちの挑戦は続きます。2023年,そしてその先の未来の命のために。

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写真 ウクライナでは医療列車による患者の救急搬送を行っている

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富山県議会議員
女性クリニックWe! TOYAMA代表・産婦人科医

 中絶を希望して来院した女子高校生は,家出後にSNSでパパ活を行い,泊めてもらう代償として性交に応じ妊娠していました。家出の理由は親からの性的虐待。手首から肩まで連なるリストカットの痕。帰るところはありませんでした。性同一性障害の高校生は,治療すればするほど学校や社会での摩擦が増し,自ら命を絶ちました。男女別の制服や髪型を定めた校則,自認する性と反対の性が記載された健康保険証,性別の記載を求める入学願書など,当事者を追い詰めるハザードは医療で解決できないものばかりでした。更年期症状を訴え来院した閉経期の女性は,更年期治療の処方薬を持って帰宅した後,自ら命を絶ちました。警察からの連絡でDV被害を受けていたことが判明。思い当たるのは「夫が生活費を渡してくれない」という一言と,帰宅時間を気にしていた様子。DVに気づいてあげることができず,医療で命を救うことはできませんでした。子どもが欲しいと来院した女性は,不妊の原因が性交障害。20年前に受けた性暴力について誰にも一切相談したことはなく,トラウマが性交障害の原因でした。激しい月経痛で来院した女性は,幼少時から教育虐待を受けており,月経ケアの失敗で母から激しい叱責を受けた経験を持っていました。

 私が政治をめざす理由は,これで十分でした。

 産婦人科医として傷ついた女性たちに向き合ってきた30年,健康を害した環境に彼女たちをそのまま帰すしかないという現状に納得がいかず,2019年の統一地方選挙を経て富山県議会議員になりました。

 医師には2つの役割があると思います。一つは病気を治すこと。もう一つは,病気になった理由を探り,傷ついた人々の代弁をすること。

 他の先進諸国では若者の死因の第一位は事故ですが,日本では自殺です。いじめ,不登校,自傷,性的搾取,殺人,若年出産,引きこもり,依存症,過量服薬……。日本の子ども・若者が生きづらい環境に置かれていることは明らかです。今後100年で人口が半分に縮小すると言われる日本で,希望を失った人々を救い全員野球ができるようにするのか,問題から目を背け,知らないふりをするのか。進むべき方向はただ一つでしょう。

 臨床医として生きづらい人々の声を代弁し,政治家として制度の隙間を埋める政策を実現し,人々が健康を取り戻せるようあがいてみたいと思います。

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