医学界新聞プラス
[第2回]皮疹を組織学的に考えてみよう
『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』より
松田 光弘
2022.01.28
誰も教えてくれなかった 皮疹の診かた・考えかた
臨床現場において,皮疹をみた際にどう診断をつければ良いかがわからず,途方に暮れてしまう人も多いのではないでしょうか? では,皮疹をみたときに皮膚科医は何を考え診断をしているのでしょうか。「研修医のときに欲しかった教科書」をコンセプトに書かれた『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』では,診断に至る思考過程をフローチャートでわかりやすく解説します。
「医学界新聞プラス」では本書のうち,皮疹の鑑別を始める前に注目すべき皮膚の性状について,症例を交えて4回にわたり紹介します。第3回には,本書付録のWeb動画を公開します。
第1回の内容の続きです(第1回の内容はこちら)。
それでは先ほどの2 つの皮疹を組織学的に考えてみましょう.まず皮疹の赤みは炎症に伴う真皮の血管の血流増加によります.そのため皮膚が赤くなっていれば,皮膚に何らかの炎症が起きていることがわかります.さらに表面がザラザラしているということは皮膚の一番外側である「表皮」に病変があることを表しています(図1-7).
次に,紅斑の表面がツルツルしている場合は,「表皮」には病変がないことを表しています.つまり皮疹の表面の性状から病変の存在部位がわかるのです(図1-8).
そして存在部位がわかれば,その病変がどこから始まったかを予想することができます3).まず表皮に変化がある場合は,病変が表皮から始まっていて,表皮の変化がない紅斑は,病変が真皮から始まっています.
表皮から始まる疾患の大部分は外因性で,原因物質が表皮に接することで起こります(図1-9A).その代表例は接触皮膚炎を代表とする湿疹です.刺激性の接触皮膚炎は,原因物質が表皮細胞に障害を与え,表皮細胞から放出された種々のサイトカインによって起こる疾患です.
一方,真皮から始まる疾患のほとんどが内因性で,原因物質が血流に乗って皮膚に到達することで起こります(図1-9B).その代表例は薬疹です.薬疹は体内に摂取された薬剤やその代謝産物により(正確には薬剤によって活性化された抗原特異的T 細胞の遊走により)皮疹を生じます.
以上から,表面がザラザラした紅斑であるA は外因性の湿疹,表面がツルツルした紅斑であるB は内因性の薬疹と予想できます.これは非常に簡略化した解説なので例外も多くありますが,皮膚科医の思考過程の一部をわかっていただけたのではないかと思います.初発病変が表皮か真皮かを鑑別することは診断の最初のステップとして最も重要になります.
このように皮疹の表面の性状から病変の深さがわかり,深さから原因を推測することができるのです(図1-10).
紅斑を見分ける練習
第2 章以降では,それぞれの紅斑について鑑別すべき疾患などを詳しく解説していきます.その前に復習として,実際に紅斑を見分ける練習をしてみましょう.
図1-11 にたくさんの紅斑の写真が並んでいます.表面の性状に注目して2 つに分けてみてください.いままでは漠然と紅斑としか認識できなかったかもしれませんが,今は明確に分類できるようになっているはずです.
皮膚の病変は誰でも肉眼で見ることができます.そのため誰にでも簡単に診断できると勘違いされがちです.ところが「視野に入っていること」と「意識して観察していること」は全く違います.これはイヌイットの話が参考になると思います.氷雪地帯に住むイヌイットは「白」を表現する言葉を数十種も持っているそうです.私たちが「白い」とひと言でいってしまい区別できていない雪の色を,彼らは細かく見分けているのです.
初心者は皮疹を見たつもりでも,実は全く見えていません.イヌイットが白を見分けるように,皮疹をきちんと見分けるためにはトレーニングが必要なのです.皮疹を意識して観察できるように,ここから紅斑のみかたを詳しく解説していきましょう.
文献
3)北島康雄:皮疹の診かたの基本ロジック.medicina 51:786-791,2014
誰も教えてくれなかった
皮疹の診かた・考えかた[Web動画付]
皮膚科×診断推論!
<内容紹介>皮膚科初学者にまず手に取っていただきたい「皮疹の診かた」の入門書。皮疹をみたときに皮膚科医は何を考えているのか―その思考過程を惜しみなく披露します。
本書では,皮疹の表面性状に注目し,病変の存在部位から皮疹が生じた原因を推測して鑑別診断を考えます。
診断のプロセスはフローチャートでわかりやすく示しました。各章末には症例問題を掲載し,実際の症例で診断のプロセスをおさらいできる構成となっています。
付録として症例問題を解説したWeb動画を収載!
目次はこちらから
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