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『がんCT画像読影のひきだし』より

連載 女屋博昭

2022.05.27

 

 近年,がん医療の現場では,多職種による症例検討会が行われるようになり,医師だけでなく薬剤師や看護師など,多職種でCT画像を検討する機会が多くなってきています。『がんCT画像読影のひきだし』は,症例検討会における議論やカルテの記載内容を理解し,患者さんの病態をより深く理解できるようになることを目的に,実臨床において「どのように」「何を考えながら」CT画像を読影すべきか,そのポイントを平易に解説しています。薬剤師や看護師はもちろん,これからがん診療にかかわる医師も含めた幅広い層にとって,CT画像読影の入門書として最適な一冊です。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,肝障害症例に対する画像診断,しびれを訴える症例に対する画像診断をピックアップして,2回に分けて紹介します。

1 がん治療における肝障害

□肝機能障害(肝障害)の原因には,アルコール性,ウイルス性,自己免疫性など様々なものがありますが,がん治療中の患者においては,がん化学療法による薬剤性肝障害か,それとも原疾患による肝障害なのかを鑑別することが重要です.

薬剤性肝障害(DILI:drug induced liver injury)は肝細胞障害型と胆汁うっ滞型に大別されますが,この場合の胆汁うっ滞は,胆汁の肝細胞内での輸送や肝細胞から毛細胆管への胆汁分泌の障害であり,CTでその区別をすることは困難です.

□一方,腫瘍による肝外胆管あるいは肝門部付近での胆道閉塞による肝障害は,CTでその閉塞起点を指摘することが可能です.

□その他,腫瘍に起因する肝障害としては,高度肝転移によるものにもよく遭遇します.

□ここでは,薬剤性肝障害と腫瘍による胆道閉塞に起因する肝障害について解説します.

2 読影の基本

□肝障害の原因を検討するために,まず正常な肝臓の所見について確認をしましょう.

□肝臓CTの基本的な画像は,2段目「正常画像」の「腹部」をご参照ください(→p21~22).このセクションでは,薬剤による肝障害(薬剤性肝障害)と,疾患による胆道の通過障害の違いを理解するためのポイントを理解していきましょう.

□薬剤性肝障害のCT所見は,肝腫大,肝吸収値の不均一性の増強,グリソン鞘*1の開大です.また,胆管系には明らかな異常が認められないことも一助となります.一方,胆道の通過障害の場合は,通過障害部位より上流の胆管系拡張と,その原因である狭窄や閉塞機転の病変を見つけ出すことが重要です.

□そのため,採血データによって肝障害を認めた症例のCT画像を見るときは,まず,以下の①肝腫大の有無→②肝吸収値の不均一性の増強→③グリソン鞘の開大→④胆道系の異常の有無を確認する手順で画像を確認していくとよいでしょう.

1. 腫大の有無

□正常の肝臓は表面が平滑で,辺縁の角度はです(図6-3-1a).また総胆管の正常画像についても,図6-3-1b図6-3-1cを確認してください.肝臓の造影効果も均一に得られています.

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□肝腫大のCT所見の特徴として,表面が丸みを帯び(外側に凸の形状),辺縁は鈍角となります(図6-3-2a).また,肝腫大が高じたり肝障害が長期にわたると門脈圧が亢進して,うっ血性に脾腫を生じたり,肝臓へと向かうはずの門脈血が順行性に流れないために,門脈系が屈曲蛇行したり側副路が発達したりすることも間接的な目安になります(図6-3-3).

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2. 肝吸収値の不均一性の増強

□正常の肝臓は全体的に均一な造影効果を示します.門脈が最もよく見えるタイミング(時相)で肝臓は最も強く造影されてきます(肝実質相とも呼ばれます).肝炎など障害の程度が強いと,肝内を循環する血流が変化し,造影効果が不均一になることがあります(図6-3-2).

□単純CTにおいて,肝実質が広い範囲で低吸収を示す場合,脂肪沈着によることが多いです.原因として,脂肪肝やアルコール性肝炎,非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholic steatohepatitis)が挙げられます.また,劇症肝炎,薬剤性肝炎,腫瘍のびまん性浸潤などによっても,同様に低吸収となります.

3. グリソン鞘の開大

□肝臓へ流入する血液を運ぶ肝動脈門脈,胆汁の排泄経路である胆管の3つの構造は,同じ経路を近接して走行することが知られ,グリソン鞘と呼ばれます(門脈域ともいいます,図6-3-4).炎症や腫瘍浸潤など様々な原因でグリソン鞘が開大していきます.

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□CTでは3つの構造のうち,最も太い門脈の走行を確認することで,グリソン鞘が見つけやすくなります.グリソン鞘の開大とは,その門脈周囲に低吸収域が境界不明瞭に広がるという所見を示します(図6-3-2▲).

4. 胆道系の異常の有無

□肝細胞で産生される胆汁は胆道系という一連の経路を通って十二指腸に排泄されます.まず肝内胆管が集まって左右の肝管となった後,右肝管と左肝管が合流し,総肝管となって肝外へ出ます.胆汁を一時的に貯め,濃縮する役割を行う胆嚢からの,胆嚢管という管が総肝管に合流して,総胆管となります.総胆管はさらに膵臓内を通過した後に十二指腸乳頭部に開口して,胆汁を消化管内に分泌します(図6-3-5).肝内胆管は門脈に並走していますが,正常例では通常CTでほとんど描出されません.

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□実際のCT画像で総胆管を確認してみましょう.総胆管は肝臓内側区の背側に隣接するように位置する管腔構造(7~11mmφ程度)です(図6-3-1).内部には水に近い低吸収の胆汁があり壁は薄いため,境界明瞭な管状構造として同定されます.胆嚢管との合流部を知るには,まず肝臓の下面にはまり込むように存在する袋状の胆嚢を確認して,そこから総胆管へ連続する細い管を見つけるのがよいでしょう(図6-3-6).

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図6-3-1aの造影CTの冠状断MPR像(解説→p4)では肝門部から膵臓を通過する長軸方向の走行が確認できますね.膵臓の上縁に入るところで見えたり(図6-3-1b),その下方では膵頭部の内部,背側を沿うような位置に円形の低吸収として認められたりします(図6-3-1c).

□総胆管が何かの原因により閉塞すると,胆汁が胆管内にうっ滞して,閉塞機転から上流の胆道系の経路全体に及ぶ胆管拡張が認められるようになります.がん診療においては,膵頭部癌などにより胆管が高度な狭窄や閉塞をすると,胆汁がうっ滞するため,血中のビリルビン値が上昇します.

3 症例から学ぶ 画像読影のポイント Case 21

□50代男性.肺癌(cT2bN3M0,Stage Ⅲb)の化学放射線療法後再発のため,第3次治療としてニボルマブ(オプジーボⓇ)使用中,倦怠感を訴えました.血液生化学検査では,肺膿瘍の合併による炎症反応高値(CRP,WBC)と,AST,ALP,γ-GTP,D-Bilの上昇を認め,ALT,LDH,T-Bilは正常範囲でした.胆管炎なども疑われ,CT検査が実施されました.

1. 画像の見方

□症例の画像を見てみましょう.

□まずは肝腫大の有無を確認します.肝臓は左方向に張り出すように腫大しているようです(図6-3-7).1か月前のCT(図6-3-7d)と比較すると,腫大の様子が明らかです.肝腫大の有無については,門脈の枝の配置や,肝区域における位置関係などの解剖学的な指標を参照することで比較できます.1か月の期間にこれほどの腫大が進行したことから,急速な肝腫大の可能性があります.

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□次に肝吸収値の不均一性を確認します.肝臓の吸収値は通常より低く,その不均一性の傾向は造影早期相で強いです(図6-3-7b).門脈の走行を肝内へたどると,門脈自体がやや細くなっており,代わりにその周囲に低吸収の領域が目立っていることから,グリソン鞘の開大がわかります(図6-3-7c▲).

□一方で,胆道系の異常の有無については,肝内胆管がほぼ認識できないことから,明らかな拡張はないと考えられます.

□以上の所見から,本症例は薬剤性肝障害を疑うことが可能です.

2. 今後の治療法方針

□本症例はニボルマブ(オプジーボ)による薬剤性肝障害と診断されました.ニボルマブ(オプジーボ)投与を中止,「がん免疫療法ガイドライン(第2版)」に準じて,プレドニゾロンを開始し,2週間後には肝胆道系酵素などが正常化しました.また,肺膿瘍のドレナージ後の経過観察のために撮影された1か月後のCT検査では肝腫大はほぼ消失していました.

4 症例から学ぶ 画像読影のポイント Case 22

□80代男性.胃癌のため幽門側胃切除術後(pT2N1M0,StageⅡA).手術後1年半の経過観察CTが施行され,異常を指摘されました.

1. 画像の見方

□本症例は特に肝臓の腫大は認められません.また,肝臓の吸収値はほぼ正常範囲と思われる程度に,均一に造影されています(図6-3-8).門脈に隣接して,水に近い低吸収の構造が複数のCTスライスで確認できます(図6-3-8a~e).これは胆管が拡張した所見です.Case 21で認められたグリソン鞘の開大と異なる点は,本症例は,水に低い吸収値であること,胆管は薄い壁をもつため辺縁が明瞭かつ平滑に見えることです.

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□次に肝門近くに視線を向けると,総肝管~総胆管の高度な拡張にも気づきます.上流側の肝内胆管拡張が存在したこと,さらに胆嚢の腫脹も目立つことから,原因がより下流側に存在することを疑いつつ,今度は下流側(より足側)をたどっていきます.

□すると,十二指腸乳頭部に開口する部分で,このレベルの胆管の内腔に浮かぶような小さな円形物を認めます(図6-3-8e▲).造影CTだけではこの構造がポリープを代表とする隆起性の病変や悪性腫瘍なのか,結石であるかは判定が難しいです.単純CTを見れば,明らかな高吸収であることから,石灰化沈着を伴う総胆管結石ということが判明します(図6-3-8f▲).

□以上の所見から,総胆管結石による胆道系狭窄が原因と考えられます.

2. 今後の治療方針

□本症例はCT検査時点では,肝胆道系酵素の上昇を認めませんでした.しかし,術後に生じた結石であることや,結石嵌頓*2による閉塞性黄疸で重篤な病態となる危険性を考慮し,内視鏡による乳頭切開術,バルーンによる拡張術と結石除去が施行されました.


*1 グリソン鞘:肝臓を構成する,肝小葉を区切る結合組織.小葉間静脈(門脈)・小葉間動脈・小葉間胆管などが含まれます(詳細は→p167).

*2 結石嵌頓(かんとん):結石が管腔に引っ掛かった状態になり,内腔を塞いでしまうこと.

 1)山下康行:肝疾患の鑑別診断.山下康行編:画像診断別冊KEY BOOKシリーズ 肝胆膵の画像診断,pp24-30,学研メディカル秀潤社,2010
 2)神林祐子:免疫療法薬.松尾宏一他編:がん薬物療法のひきだし,pp106-110,医学書院,2020
 3)三宅知宏:肝障害.松尾宏一他編:がん薬物療法のひきだし,pp367-375,医学書院,2020

 

「繋ぐ、囲む、比べる」を実践して、CT画像の読み方のコツを身につけよう。

<内容紹介>がんのCT画像は「何を考えながら」「どのように」読影すべきか。そのポイントをわかりやすく解説した入門書。本書のゴールは「初心者が画像読影のスキルを伸ばし、症例検討会の議論やカルテの記載内容への理解を深め、結果的に患者の病態をより深く把握できるようになる」こと。正常画像(web動画あり)の見方に始まり、臓器別(ex. 肺癌、胃癌)や臨床課題別(ex. 症状は薬剤性/原疾患)の切り口で症例も掲載。

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