医学界新聞

寄稿 磯貝佐知子

2022.12.12 週刊医学界新聞(看護号):第3497号より

 がん薬物療法は,がんに対して薬物を使用する全身治療のことを指し,使用薬の種類によって,細胞障害性抗がん薬治療(化学療法),分子標的療法,内分泌療法,免疫療法と呼び分けられることもある。がん種や特定の遺伝子異常の有無によって使用可能な薬剤は限定されるものの,これらから1種類または複数の薬剤を使い,がんの治癒や進行抑制,症状の緩和をめざす。手術療法や放射線療法と併用されることもある。

 従来がん薬物療法は,入院が主な治療の場であった。しかし2002年度の診療報酬改定で初めて外来化学療法加算が設定され,翌年に入院を対象とした包括支払い制度が導入されたことが,がん薬物療法の場を入院から外来へ移行するインセンティブとして作用した。さらに近年,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新薬が数多く上市され,新たなレジメンの開発やがんゲノム医療による個別化医療の進歩が患者の生存率向上と治療期間の長期化をもたらしている。厚労省の調査では,①がん治療患者は50代以上に多いこと,②がん治療患者において,2005~08年の間に外来患者が入院患者の総数を上回っていること,③外来患者はがん治療の副作用や症状をコントロールしつつ,治療を受けながら仕事を続けている場合が多いことが報告された1)

 2018年に制定された第3期がん対策推進基本計画では,外来がん薬物療法に関する多職種での検討の場の設置と,専門医や薬剤師,看護師,がん相談支援センターの相談員等の人材育成と適正配置に努める他,専門職が連携し患者に適切な説明を行うための体制整備に努めるよう医療者に求めている。これを受けて,無菌製剤処理料(2008年度改定),がん患者指導管理料(2014年度改定),連携充実加算(2020年度改定)が新設され2),2022年度は外来でがん薬物療法を実施する患者の緊急時の相談・対応に対して,外来腫瘍化学療法診療料が設置された。

 これら医療情勢の変化と治療法・支持療法の進歩に加え,社会生活重視の考え方などにより,現在がん薬物療法の場はさらに外来へと移行している。がん薬物療法を受ける患者は今後も増加が予測されるため,緊急時の相談・対応の体制整備とともに,病院だけでなく地域を含めた多職種連携の強化が求められている。

 外来でがん薬物療法を安全に実施するには,看護師・医師・薬剤師などの多職種が連携した治療体制の構築が重要である2)。そうした治療体制の中で看護師に求められるのは,副作用の管理や緊急時の対応・体制整備などになる。以下に当院での取り組みを紹介する。

◆副作用症状のマネジメント

 細胞障害性抗がん薬や分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬など,薬剤により副作用の機序や発症時期は異なる。近年はこれらを組み合わせた複合がん免疫療法が初期治療として行われ,副作用マネジメントがより複雑化している。また,がん患者の生存率向上によるがん薬物療法期間の延長に加えて高齢化,就労,AYA(Adolescent and Young Adult)世代,心血管系など合併症を持つ患者の増加など患者背景も多種多様になっている。そのため患者ががん薬物療法と社会生活を両立できるように,多角的な視点でアセスメントし,支援を進めていくことが重要となる。

 当院では,点滴による外来がん薬物療法を受ける患者全員に問診を行い,副作用マネジメントとセルフケア支援を行っている。患者の症状や検査値の確認が必要な項目をチェック式+記述式で記入する問診用紙を作成し,「複数の目」で看る(診る)ため,その内容を確認しながら異常がないかをチェックしている。患者は自身の状況や価値観によって副作用のとらえ方や対処行動もさまざまであり,問診時だけでなく点滴中にも日常生活を送る上で副作用のような症状が出ていないか,出た場合の対策について確認・指導している。また,現在IT化が進みスマートフォンを使用した副作用チェック方法も登場している中,増加する外来がん薬物療法患者に治療の質を担保しケアを提供していくために,今後は患者の自己評価に基づいて有害事象がないかを測定するPRO-CTCAE™(Patient-Reported Outcome Common Terminology Criteria for Adverse Events)などの患者参加型の副作用チェック方法の導入を当院では検討している。

◆患者指導のポイント

 患者指導は1回だけではなく,患者の状態によって分割して複数回行う場合,患者の理解度によって繰り返し行う場合がある。治療が長期化する場合もあるため,理解度確認と意識づけのため3か月に1回程度を目安として定期的に行っている。また,ここ数年は新型コロナウィルス感染症蔓延による入院中の面会制限により,治療導入時や入院中に患者家族やキーパーソンへの指導が十分に行えない状況にある。そのため,がん治療の場が外来へ移行した際や病院への送迎時などのタイミングを利用して,患者家族やキーパーソンへの指導や情報収集を行い,患者本人の訴えと相違がないかを確認している。他にも,訪問看護ステーションなど地域と情報交換を行うケースもある。

 患者指導に対してはパンフレットなどさまざまなツールがあるものの,副作用マネジメントが複雑化している現状では,まずは「副作用への自己認識を高め,医療者に表出する力(患者の発信力)を養うこと」が副作用の早期発見や対応の第一歩と考える。したがって,なるべく副作用症状を1枚の用紙に収め,その用紙を冷蔵庫の扉など必ず毎日目にするところに掲示してもらっている。1日1回は用紙を眼にすることで,患者や家族に副作用チェックを意識してもらうように指導している。

◆緊急時のためのシステムづくり

 患者の発信力を高める取り組みだけでなく,受け取る医療者側の情報収集力(観察力)とトリアージ力を上げることも,副作用の早期対応には重要だと考える。当院では,患者からの電話相談のファーストタッチは各診療科や当直の看護師が行っている。電話を取った看護師が必要な情報を収集し,医師への報告とトリアージに速やかにつなげられるように,免疫チェックポイント阻害薬投与中の患者への対応において,問診表とフローチャート()を作成し運用している。

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 新潟県立がんセンター新潟病院における免疫チェックポイント阻害薬投与患者のトリアージフローチャート(一部抜粋)
緊急対応が必要な副作用を見逃さないために,がん患者からの電話相談に対してはフローチャートを活用し,各診療科や当直看護師の応対を標準化している。

 今後は臨床推論を用いた問診技術を取り入れることで,よりタイムリーに緊急時の早期対応が可能になると考える3)。また,同時に米国で医療安全と質の管理を目的に開発されたISBAR〔Introduction(紹介),Situation(状況,状態),Background(背景,経過),As sessment(評価),Recommendation(依頼,要請)〕などの伝達方法を用いることで,円滑なチーム医療の一助になると考える4)

 今後もがん薬物療法の副作用マネジメントと患者背景は,ますます複雑化することが予測される。安全な治療の導入や継続,がん薬物療法と社会生活の両立を支えること,患者・家族(キーパーソン)のセルフモニタリング力と発信力を強化すること,医療者としての「みる」目を養いチームの一員として円滑に医療をつなぐことが,外来でがん薬物療法に携わる看護師の役割と考える。


1)厚労省.事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン.pp22-3,2022.
2)厚労省.中央社会保険医療協議会総会(第492回)――個別事項(その2)がん・疾病対策について.2021.
3)徳田安春(著).迅速・的確なトリアージができる! ナースのための臨床推論.メヂカルフレンド;2016.
4)東京慈恵会医科大学附属病院.医療安全文化の醸成に向けて――Team STEPPSを活用して高信頼性組織を目指す.

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新潟県立がんセンター新潟病院 副看護師長 / がん化学療法看護認定看護師

1996年新潟県病院局に入職。2002年より新潟県立がんセンター新潟病院の化学療法病棟に勤務。09年に聖路加看護大(当時)看護実践開発研究センターにて,がん化学療法看護認定看護師の教育課程を受講し,10年に同資格を取得。同年より新潟県立がんセンター新潟病院外来化学療法室に勤務し,14年より現職。日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本緩和医療学会に所属。

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