医学界新聞

書評

2022.11.07 週刊医学界新聞(通常号):第3492号より

《評者》 一般財団法人住友病院院長

 本書を手にとったとき,『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』というタイトルに引き込まれました。普段から自分でもカルテの書き方に満足していないからです。序文には,編者の吉村長久氏が6年前に北野病院に病院長として赴任後,カルテ記載に問題のあるケースが多々あることに気付き,カルテ記載の教育・指導が不十分であったことを思い知らされたとあります。そこで,医師と弁護士の両方の肩書をお持ちで,もう一人の編者である山崎祥光氏に「カルテの書き方」の講演を継続的にしていただいたところ,「目からうろこ」の思いをした医師も多く,その反響の大きさから講演内容をまとめ,本書として全国の皆さまに届けることになったのです。

 医師にはカルテの記載義務があります。人間の記憶は不確かで,20分後には4割,1時間後には半分以上が忘れられるとされており,診療したときに遅滞なく記載する必要があります。患者の状態や医療行為を時系列でカルテに記載しておくことにより,次の適切な医療行為が行えるのです。また,カルテは,医学上の資料となるだけではなく,会計上の原本にもなっています。さらに,重要な点は,カルテの記載内容が訴訟での証拠資料となることです。カルテに書いていないことは,事実認定されないのです。医療訴訟の事件数は年間800件を超えており,珍しいことではなくなっています。これらの案件では,和解や判決により6割前後のケースで被告側が何らかの支払いを要する結論が出ています。医療訴訟となった場合,審理期間は2年を超え,精神的にも肉体的にも疲弊します。

 このようにカルテは,臨床面に加え,トラブル回避に重要な意味を持っています。しかし,カルテの記載方法に関する系統だった教育を私たちは受けておりません。多くの方は,臨床実習や卒後臨床研修のときにOJTで学んでいるにすぎないと思います。ですから本書『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』に巡り合えたことは極めて幸いです。本書は,医療安全や医療情報に造詣の深い医師や医療訴訟に詳しい弁護士の方々により執筆されたものであり,カルテ記載における重要な問題点が実に要領よくまとめられています。明確でわかりやすく,一気に通読できそうです。

 また,本書は,さまざまな工夫がなされています。巻頭に疑問点マップがついており,カルテ記載における問題となる項目を検索できるようになっています。各項目では,本文の最後にまとめがついており,臨床現場で必要な知識が整理されています。さらに,各項目の関連テーマに関してcolumnがついており,普段悩ましいと思っている問題点が理解できる構成となっています。さまざまな症例提示により,カルテ記載の具体例を示してくれているのも実用的です。

 本書は,研修医,若手医師,指導医,病院管理者を対象として書かれていますが,広く医療従事者の方にも読んでいただける内容となっています。カルテの質向上のためにもぜひとも活用していただきたい一冊です。


《評者》 文京学院大教授・理学療法学

 序文にもあるが,本書は若手整形外科医を中心に執筆されている。まだ新しい技術ともいえる超音波を利用した診断や治療が千万無量に書かれている書籍である。また,超音波を共通言語として理学療法士とタッグを組むと記載されている,今までにはない書籍である。

 章の構成は「1.はじめの1歩」「2.ネクストステップ」「3.新たな技法」「4.マスターへの道」「5.PTに学ぶ身体所見」「6.理学療法における超音波の活用法」となっている。どの章もインパクトが強いが,4章で語られる「神経の攻めかた」などは,整形外科医はもとより理学療法士にも深く参考になると考えられる。

 どの項にもエコー画像と描出のポイントが正常像・疾患像とともに数多く示されていて,見ていて飽きない。頭の中で,解剖学とすり合わせてイメージを構築し,画像ごとに理解を深めることが可能になっている。またID登録が不要で,QRコードからすぐに動画が見られるのもうれしい配慮だと感じる。これらの動画は,さまざまな驚きを読者に与えてくれるのではないだろうか。

 身体へ負荷される外力が,身体内部でどのような伸張,圧縮,剪断などのメカニカルストレスを生じさせ,局所的な動きの不全に至るかのメカニズムに関する研究は,近年,可視化という強力な武器を得て大幅に進歩している。本書にはその多くの知見が記載されているが,技術的なアップデートは著しく,日々改善されている。その意味で,この書籍をいつ読んだらよいのかと言えば,当然「今」ということになる。

 書籍全体にはそれぞれの臨床家としてのこだわりがみられ,よく読むと「なぜ」そのような治療に至ったのかという発想の奥に人間性も感じられるような気がする。本書はその観点に触れながら,エコーを手にした状態で読み進めることが望ましい。また,技術を高めるためには,教科書のように序章から読み進めなくても,解剖書や解剖アプリとの併読がよいかもしれない。各項には「よく聞かれる質問」コーナーがあり,執筆者に直接聞きにくい内容が記載されているのも,私のような超音波初学者には大変ありがたい。

 疾患の病因を把握する際には,「器質的」あるいは「機能的」という言葉が多く用いられる。特に機能的と称される内容に包含される「動きの不全」については,「頭の中のイメージ」が先行していた。局所的な軟部組織の硬さや滑走性の改善が,周辺の機能的改善に結び付くことが,可視化されてやっと納得できることは多い。特に身体内部を可視化する機会の少ない理学療法士には,よい機会である。また事象の可視化,具現化により,解剖用語を基盤とした会話が成立しているのは本当に喜ばしいことだと思う。

 超音波を介して,整形外科医が理学療法士と共通した言語を持ち,「機能不全」にタッグを組んで立ち向かう姿は,近年の新しい治療の姿を示してくれているとも感じられる。胸襟を開いて企画された編者の包容力とともに,執筆者の方々の日常臨床の創意工夫がちりばめられた良書である。


《評者》 札医大教授・リハビリテーション医学

 脳卒中を中心とする脳疾患でみられる高次脳機能障害は多彩であるが,移動能力を含む生活機能全般のリハビリテーションに大きな影響を及ぼし,治療を難渋させるものは「半側空間無視」である。半側空間無視は,主に右半球損傷後に起こり,簡単に言えば,身体から見た左側の空間や注目した物の左側とうまく付き合えなくなる症状である。視野障害と違って,頭部や視線を動かして良い状況で起こるため,日常生活のあらゆる場面に困難をもたらす。半側空間無視は,空間性注意の方向性の偏りに,その臨床的表現を顕在化するいくつかの要因が加わって起こると考えられ,そのリハビリテーションには,行動面の多角的な分析と多職種によるアプローチが不可欠である。

 本書は,タイトルに「臨床に使える」・「実践的アプローチ」とあるように,まさにリハビリテーションの現場で日々利用できる内容で,5つの章から構成されている。

 半側空間無視は,その病巣と発現メカニズムをはじめとして,国際的に幅広く,深く研究が行われてきた高次脳機能障害の代表である。この症候への臨床的アプローチには,病巣論とメカニズム論の基盤が求められ,「第1章 半側空間無視の責任病巣とメカニズム」では,これらについて,最近の知見を含めて,理解を深めつつ臨床に向かう態度を身に着けることができる。また,症候を見つめる「眼」を鍛えることは極めて重要であり,「第2章 “臨床で本当に使える”半側空間無視の評価」では,机上検査と幅広い行動観察に加えて,机上検査が実施できない重症例,あるいは机上検査で抽出できない軽症例をとらえるみかたが体系的に示されている。

 後半の「第3章 半側空間無視へアプローチする際に留意しておきたいこと」,「第4章 “臨床場面別”半側空間無視へのアプローチ」,「第5章 実践事例でみるアプローチの効果」は,いずれもリハビリテーションアプローチに関するものであり,この部分が本書の最大の特徴である。半側空間無視のリハビリテーションについて,臨床的に無視を改善するためにすぐに役立つ手法から,無視の存在を意識した生活動作へのアプローチ,さらには生活環境の調整と多岐にわたり,急性期から慢性期に至るアプローチが,最近の知見を踏まえてイメージしやすい流れで詳述されている。また,これまでの書籍と異なり,家事や外出などの生活関連動作,認知コミュニケーション障害,家族指導,就労や自動車運転,ロボット療法に関する内容も具体的に紹介されている。

 本書の執筆者がいずれも,臨床・研究・教育に従事し第一線で活躍している作業療法士であることは称賛に値する。私は,半側空間無視の臨床と研究に40年近く携わってきた。この数十年での作業療法学の発展は目を見張るものがあり,本書はその証ともいえる。

 本書は,豊富なカラーの図・写真が盛り込まれ,また,余裕のあるレイアウト構成となっており,盛りだくさんの内容を楽しく吸収できるという,読者を選ばない特徴も備えている。臨床経験が浅い療法士や医療従事者だけでなく,十分な経験を有する療法士,そして幅広い医療職の方々にも是非使っていただきたい良書として,本書を推薦したい。


《評者》 旭川医大病院薬剤部教授・薬剤部長

 本書は,薬剤師が薬物療法を患者個々の病態・状況に応じて進めるために,必要な情報や考え方と行うべきことを示した書である。薬物療法を成功させるためには,いうまでもなく個々の患者における薬剤の治療効果や副作用をしっかりと把握する必要があるが,そのためにどのような点について観察すべきかのポイントが示されている。このポイントがとても簡潔に書かれているため,理解しやすいのが本書の特徴である。

 また本書が2部構成になっていることも一つの特徴である。前半部は薬効別に薬剤の評価項目が示されており,冒頭にOverviewとして対象となる疾患の全体像がまとめられているので,全体を把握した上でどのような管理目的で薬物療法が展開されているのかという考え方を整理できる。また,その次には臨床所見と検査およびその目的が記されているので,それを参考にすると患者の状態も把握しやすい。前半部の中心は薬効の評価項目と副作用の確認項目であり,これも要点が整理されているため理解しやすく,病棟薬剤師なども必要時に参考にしやすいものとなっている。最後に評価から介入までフローチャートが作成されているので,悩んだときの助けとなる。さらに管理指導の書き方も記載されているので他の医療職からも理解されやすい記録が作成できる。

 また後半部は臨床検査,画像検査の評価ポイントが記載されている。臨床検査についてはそれぞれの臨床検査項目のOverviewと評価のポイントがコンパクトに記載されており,検査の目的を把握するのに適している。画像検査については,その検査の概要に加えて画像から得られる所見と疾患との関連を写真入りで解説している。

 本書は,そのコンセプトと使い方を編者の吉村知哲先生ご自身が「はじめに」の中に丁寧に解説されている。薬剤師が本書を活用して,これまで以上に適正な患者薬物療法への貢献が可能となるように編集されたことがよくわかる。検査,薬効,副作用に関して要点をコンパクトにまとめた本書は,全ての薬剤師の役に立つものとなるだけでなく,薬物療法にかかわる全ての職種にも参考になる良書であるといえる。

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