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トラブルを未然に防ぐカルテの書き方

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カルテ記載の思わぬ落とし穴とは? 医療紛争・トラブルにおいてはカルテ記載が重要となるが、時間の制限もあり、書くべき場面、書くべき内容の絞りこみが必要となる。本書では紛争・トラブルになり得るケースを多数紹介し、無用なトラブルを避けるためのポイントを押さえたカルテ記載の方法を伝授。臨床(医師)と紛争対応(弁護士)の双方の視点を押さえた先読みの記載があなたの身を守る!

編集 𠮷村 長久 / 山崎 祥光
発行 2022年02月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-04806-4
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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  • 序文
  • 目次
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 私が京都大学眼科学の教授を退任して,北野病院へ来てからもうすぐ6年になります。当初は,右も左もわからない状況でしたが,しばらくして周りの状況が見えるようになってくると,カルテの記載に問題のあるケースが多々あることに気づきました。私は長く大学病院に勤務していましたので,カルテの記載方法についての教育・指導をする立場にありました。医学的な所見の記載方法についてはそれなりに指導してきたつもりでしたが,第一線の病院へ来てみると,医学的な所見のとり方に問題はないものの,あまりにも無防備な記載をしているカルテが多いことに驚きました。私ができていると思っていたカルテ記載の教育・指導が不十分であったことを思い知らされました。
 その頃,東京から大阪に所属事務所を移された山崎祥光弁護士と出会い,それから北野病院で継続的に「カルテの書き方」の講演会をお願いしてきました。山崎先生は,医師と弁護士の両方の資格をおもちのこともあって(臨床研修も終えておられます),医療者の視点を踏まえた講演をしていただきました。出席した医師の反応は上々で,いつもたくさんの質問が出ました。「目から鱗」の思いをした医師もたくさんいたようです。この連続講演の回数が重なり,スライドが溜まってきましたので,折角の講演内容を広く全国の皆様に見ていただこうということで本書『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』を作ることにしました。
 本書は,北野病院医療安全管理室の医師5名と医療情報担当副院長(編纂開始当時),そして山崎先生との共同作業でできたものです(山崎先生以外に御堂筋法律事務所の見宮大介弁護士と小倉純正弁護士の助言と法的事項の確認作業も入っています)。最終的には,北野病院医師の原稿に比べて山崎先生の原稿がずいぶんと多くなりましたが,いずれも医師の目が入ったものとなっています。コロナ禍もあり,当初の予定よりは随分と遅れましたが,何とかここに出版することができました。
 本書は,カルテの記載をこのようにすれば法的な問題点をクリアできるというような後ろ向きの視点で書いたものではありません。ご一読いただければ,法令が求める「きちんとした」カルテ記載をしておくことが,無防備なカルテ記載によるトラブルを避ける王道であるとご理解いただけることと思います。そして,簡にして要を得たカルテ記載をするにはどのようなことに気をつけるのか,また,ポイントを押さえたカルテ記載が無用な誤解やトラブルの発生を防ぎ,医療従事者が患者さん・ご家族のためのよりよい医療の提供に専念することにつながるということがおわかりいただけるはずです。
 本書が研修医,若手医師の皆さんにはもちろん,指導医,そして病院管理者の方々にも役に立つことを確信しています。是非,広く医療従事者の皆様に読んでいただきたいと思います。

 2022年1月
 𠮷村長久

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本書の使い方
巻頭付録 疑問点マップ(本文参照頁付き)

第1章 カルテ記載の大原則――書くべきこと・書くべきではないこと
 1.カルテに書くべきではないこと
 2.カルテに書くべきこと――「何を根拠に」書けばよいのか?
 3.特に慎重にカルテを記載すべき場面とは?
 カルテにまつわる素朴な疑問① 診療録・診療記録・カルテとは?

第2章 訴訟上の事実認定とカルテ――書かなかったら「なかったこと」に!
 1.損害賠償請求・訴訟提起の流れと医師の負担
 2.訴訟での事実認定と診療記録――記載が一人歩きするリスク
 3.追記訂正と改ざんの違い
 4.なぜ裁判前の紛争段階でも診療記録が重要なのか?
 カルテにまつわる素朴な疑問② 電子カルテと紙カルテ――メリット・デメリットと注意点は?

第3章 カルテの記載が特に重要になる場面
 1.医療行為前の説明――「標準的な選択肢」と「合併症」の説明が重要!
 2.治療法の選択・適応判断の記録――ガイドライン・カンファレンス記録の位置付けは?
 3.治療拒否されたら? 理解能力に疑義がある場合は?
 4.逸脱患者への対応と記録
 5.医薬品初回処方時の注意
 6.経過観察時にどのような記載をするか?――基本的な考え方(経過観察の記載╱有害事象発生後の記載)
 7.救急受診患者の帰宅を認めるときの注意点(帰宅させる際の記録╱重篤な疾患と判明したあとの記載)
 8.救急受診・搬送の受け入れと応招義務(受け入れ拒絶時の記載,受け入れ時の記載╱状態悪化判明後の記載)
 9.転倒・身体拘束(事前の評価╱転倒後の記載╱身体拘束時の記載)
 10.自殺未遂・希死念慮(事前の評価╱実行時の記載)
 11.誤嚥・窒息(リスクの事前評価╱誤嚥後の記載)
 12.医療行為と有害事象(手技上のエラー)(有害事象発生時の原因の記載╱手技の内容の記載)
 13.「架空の事実で負けない」ための急変時の記録――分単位のずれが命とりに
 14.有害事象後の説明と記載
 カルテにまつわる素朴な疑問③ 診療録(カルテ)の代行入力――どこまで他職種の支援が許される?

第4章 カルテ以外の重要な文書と注意すべき場面
 1.入院診療計画書
 2.同意書
 3.退院サマリー
 4.各種診断書・意見書(死亡診断書・死体検案書を除く)
 5.死亡診断書
 6.診療情報提供書と返書
 7.遺伝情報の取り扱い
 8.外国語で対応するとき
 9.虐待の記録(児童虐待を中心に)
 カルテにまつわる素朴な疑問④ カルテにコピペは使ってOK?

第5章 開示や修正を求められたら
 1.さまざまな開示請求――カルテ開示・証拠保全・文書提出命令
 2.患者からのカルテの訂正・追加・削除請求
 3.事故調査と記録をどう行うか?

あとがき
巻末付録 関連法の抜粋
索引

column
 看護記録
 望ましくない看護記録記載の例
 アクティブな事実確認と記録作成の必要性(紛争・トラブル対応の司令塔)
 記録係の重要性(急変時,医療行為前の説明時,有害事象後の説明時)
 「カルテ」の語源
 「署名または記名押印」の意味はご存知ですか?
 「遅滞なく」?
 旧姓でカルテを書いていいの?
 トラブルトリアージ
 録音
 カルテは「公文書」? 「公的文書」?
 個別指導とカルテ記載
 「同意書」の形式に意味があるか
 ガイドラインの見方
 回診・対診で「辻斬り」をしない
 同意能力とそれに合わせた対応
 一筆とったら責任を免れるか
 酩酊患者への対応
 医薬品の適応外使用等
 疑義照会:薬剤師の記録
 限られた時間でのカルテ記載
 因果関係,過失の主張立証に関する東京地裁・大阪地裁の考え方
 術中の脈管などの損傷と解剖学的バリエーション
 謝罪
 入院診療計画書の役割と予想される入院期間の記載
 手術の説明に本人以外の同席は必要か?
 信仰上の理由による輸血拒否
 救急外来での診断書
 死亡確認の根拠とは?
 死亡診断書に「老衰」と書いてもよいか?
 院内紹介
 医師間のメールをそのままカルテ記載することの是非
 遺伝用語の改訂
 「CVD」って何?
 医療通訳について
 レポートの見落とし
 手術ビデオ(DVD)の取り扱いに関して
 レポートのコピーを求められたら
 要配慮個人情報
 「予期せぬ死亡」って何でしょう?

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「トラブル」生み出す要因は,「そのカルテ記載」にあるのかも!?
書評者:松村 由美(京大病院医療安全管理室長・教授)

 本書は,𠮷村長久氏と山崎祥光氏の共同編集によるものです。𠮷村氏は,京大眼科教授から北野病院病院長になられました。山崎氏は,京大医学部卒業後,同大学での研修医を経て,同大学法科大学院で学び,現在は弁護士として活躍されています。𠮷村氏は管理者として,山崎氏は弁護士として,カルテ記載の重要性を痛感され,本書を企画されたのだろうと思います。私も,医療安全管理者として,カルテ記載がいかに重要かを知っています。重要性を認識している3名に共通することは,「痛い目」を経験しているということかもしれません。

 病院管理者,医療側弁護士,医療安全管理者は,あらゆるトラブルを経験します。私も,臨床医のまま一生を終えていたら経験しなかったようなことを経験してきました。その経験の中で,ぜひ,スタッフに伝えたいと思ったことが「カルテの書き方」です。今まで,私がこの十数年,経験的に学んだことが,本書では,コンパクトでありつつ,豊富な根拠を示した上で記載されています。本書はどの部分から読んでも,一つひとつの話題や内容が完結しているために,カルテ記載について気になったときに読むということもできます。また,時間のあるときにパラパラとめくって,斜め読みするだけでも,十分勉強になります。医局に数冊置いておくと有用であること間違いなしです。

 さて,先ほど「痛い目」を経験したと書きましたが,医療事故調査の際,現代ならではのカルテの記載についてリスクを痛感することがあります。例えば「コピペ」。本書では,コピペによってトラブルが生じる例が示されています。「えっ! コピペ? いつもやってるけど。どこが困るの?」と思われた方は,ぜひ,本書でご確認ください。また,最近はメール機能がついている電子カルテもあります。メール内容をカルテにコピペすると便利ですが,「それ,いつもやっていますよ!」と思われた方も,コラム「医師間のメールをそのままカルテ記載することの是非」を読んでみましょう。

 医療安全学では,望ましくない結果となった事例について,その結果を生み出した背景要因を分析し,具体的な再発防止策を講じますが,本書は,「望ましくない医療者・患者関係に陥った結果から学び,カルテ記載を改善する」という学習の機会を提供してくれる有用な書です。


正確なカルテ記載が身を守る
書評者:川崎 誠治(三井記念病院院長)

 本書は,北野病院の𠮷村長久院長と山崎祥光弁護士の編集で上梓されたものである。適切なカルテ記載の重要性を認識し,もともと関心を持っていらっしゃった𠮷村院長が,医師の資格もあり臨床経験もお持ちの山崎弁護士にカルテ記載に関する講演を数多く依頼してきた。その講演の内容が土台となったのが本書である。このお二人の組み合わせこそが,独特の視点を持つ本書の出版を可能にしたといえる。北野病院医療安全管理室の先生方と山崎弁護士が中心になり著述されているが,本書を読むと,「カルテ記載のない事柄はなかったことになる」ということがあらためて強く認識される。その他に,何となくそうではないか,あるいはぼんやりとどうなのだろう,と思っていたいくつかのことが明瞭に説明・記述されており,大変参考になる。以下に例を挙げる。

・カルテと異なり,忌憚のない意見交換の場であるカンファレンスや医療安全事例検討会などの議事録は開示の義務はない(むしろ開示すべきではない)。それと関連して開示・非開示の書類の区別を医療機関内できちんと定めておくべきである。

・カルテ改ざんと追記訂正は別である(改ざんと思われるのをいたずらに恐れて誤った記載をそのままにするのは問題である)。ただし追記訂正で望まれるのは,初めの記載から1~2日以内,トラブル発生以前である。

・暴言を繰り返したり大声を出す患者・家族と病院職員とのやりとりを録音する際には患者・家族の同意を得る必要はなく,同意を得なくても証拠として役立つ。

・救急受診患者の帰宅を認めるときには,重篤な疾病である可能性を低める事実・所見も意識してカルテに記載する。

 きちんとカルテに記載するということは基本的に時間を要する作業になるが,医師および診療に携わるスタッフの時間とエネルギーはできるだけ実際の患者診療に向けられるべきであるということが本書では強調され,チェックリストを利用するなどの具体的で簡便なカルテ記載方法も示されており,現場に寄り添った視点が貫かれていることに感銘を受けた。


カルテの質向上のため,広く医療従事者に活用してほしい一冊
書評者:金倉 譲(一般財団法人住友病院院長)

 本書を手にとったとき,『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』というタイトルに引き込まれました。普段から自分でもカルテの書き方に満足していないからです。序文には,編者の𠮷村長久氏が6年前に北野病院に病院長として赴任後,カルテ記載に問題のあるケースが多々あることに気付き,カルテ記載の教育・指導が不十分であったことを思い知らされたとあります。そこで,医師と弁護士の両方の肩書をお持ちで,もう一人の編者である山崎祥光氏に「カルテの書き方」の講演を継続的にしていただいたところ,「目からうろこ」の思いをした医師も多く,その反響の大きさから講演内容をまとめ,本書として全国の皆さまに届けることになったのです。

 医師にはカルテの記載義務があります。人間の記憶は不確かで,20分後には4割,1時間後には半分以上忘れるとされており,診療したときに遅滞なく記載する必要があります。患者の状態や医療行為を時系列でカルテに記載しておくことにより,次の適切な医療行為が行えるのです。また,カルテは,医学上の資料となるだけではなく,会計上の原本にもなっています。さらに,重要な点は,カルテの記載内容が訴訟での証拠資料となることです。カルテに書いていないことは,事実認定されないのです。医療訴訟の事件数は年間800件を超えており,珍しいことではなくなっています。これらの案件では,和解や判決により6割前後のケースで被告側が何らかの支払いを要する結論が出ています。医療訴訟となった場合,審理期間は2年を超え,精神的にも肉体的にも疲弊します。

 このようにカルテは,臨床面に加え,トラブル回避に重要な意味を持っています。しかし,カルテの記載方法に関する系統だった教育を私たちは受けておりません。多くの方は,臨床実習や卒後臨床研修のときにOJTで学んでいるにすぎないと思います。このようなときに,本書『トラブルを未然に防ぐカルテの書き方』に巡り合えたことは極めて幸いです。本書は,医療安全や医療情報に造詣の深い医師や医療訴訟に詳しい弁護士の方々により執筆されたものであり,カルテ記載における重要な問題点が実に要領よくまとめられています。明確でわかりやすく,一気に通読できそうです。

 また,本書は,さまざまな工夫がなされています。巻頭に疑問点マップがついており,カルテ記載における問題となる項目を検索できるようになっています。各項目では,本文の最後にまとめがついており,臨床現場で必要な知識が整理されています。さらに,各項目の関連テーマに関してcolumnがついており,普段悩ましいと思っている問題点が理解できる構成となっています。さまざまな症例提示により,カルテ記載の具体例を示してくれているのも実用的です。

 本書は,研修医,若手医師,指導医,病院管理者を対象として書かれていますが,広く医療従事者の方にも読んでいただける内容となっています。カルテの質向上のためにもぜひとも活用していただきたい一冊です。

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