臨床整形超音波学
運動器超音波が切り開く新しい整形外科学の教科書
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運動器超音波の登場により、整形外科が大きく変わりつつある。本書は、「臨床整形外科」誌増大特集号を全面書き直し、はじめての運動器超音波から、臨床現場での活用、新しい技術に加え、末梢神経をターゲットとする痛みへのアプローチを徹底解説。さらに、運動器超音波と解剖学を共通言語に整形外科医と理学療法士がタッグを組み、整形外科診療をアップグレードする。本書から新しい整形外科の地図がみえてくる。
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序文
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序
2016年11月,運動器超音波に興味をもっている若手医師のグループとして,Sonography for MSK Activating Project(SMAP)を結成しました.SMAPでは若手医師による若手医師のための超音波セミナーを企画するなど,運動器超音波の普及・啓蒙活動を行っていたところ,医学書院から,雑誌「臨床整形外科」の増大特集号をSMAPで企画してほしいという大変ありがたい依頼を受けました.
そして2020年5月,世界中がコロナ禍に突入したタイミングで完成した特集号はおかげさまで想像以上の大好評をいただき,発売して間もなく完売となった結果,本特集号の書籍化が決まりました.
本書は特集号の内容を継承したうえで,理学療法士との連携についてなどさらに内容を充実させ,2022年7月,完成しました.本書の大きな特徴は,執筆陣のほとんどが若手医師(SMAPのメンバー)である点です.われわれが日常診療で悩み,迷い,自問自答するとともに信頼する仲間たちとの議論を重ねてきた内容が詰まっています.本書が迷ったときの道標となり,現在そしてこれから整形外科診療に携わる皆さまのお役に立てれば幸いです.
整形外科領域における超音波診療は,リニアプローブの開発や画像構築技術の進歩によって2001年にパラダイムシフトを迎えました.皆川洋至先生(城東整形外科)によって切り拓かれ,高橋周先生(東あおば整形外科)によってレールが敷かれたこの道を,われわれを含め多くの有志たちが通っていくとともに,その道は少しずつ広がってきました.これまでみえなかった多くのものが,超音波によってみえてきたと感じる一方で,まだよくわかっていないことも多く,これからの課題も山積しています.
皆川洋至先生が伝説の名著『超音波でわかる運動器疾患─診断のテクニック』(メジカルビュー社)を上梓してから12年,それに負けずとも劣らない「運動器超音波のバイブル」となる本書が,多くの若手執筆陣によって完成いたしました.そして,10年いや5年後には,本書を超える新しいバイブルが若手医師たちにより執筆されることを願ってやみません.
最後に,SMAPの理念にご賛同いただき,発足前から応援していただいた松崎正史さん(ソニックジャパンホールディングス株式会社)と高橋勝さん(コニカミノルタジャパン株式会社),そして雑誌特集号の企画段階から足かけ3年半にわたり,執筆や校正が遅々として進まない私たちをサポートしてくださった医学書院の関係諸氏に,心からお礼申し上げます.
2022年6月
笹原 潤,宮武和馬
目次
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1 はじめの1歩──まずのぞいてみよう
1 超音波画像の基本的なみかた
そもそも超音波画像で何をみているか?
2 頚椎のみかた
3 胸郭のみかた
鎖骨,肩鎖関節,胸鎖関節,肋骨,肋軟骨
4 肩-上腕のみかた
5 肘関節のみかた
6 手関節のみかた
7 手・指のみかた
8 腰椎のみかた
9 骨盤のみかた
10 股関節のみかた
11 膝関節のみかた
12 足関節のみかた
13 足部のみかた
14 解剖と臨床
2 ネクストステップ──慣れてきたら困ること
1 超音波があればすべてがわかる!?
2 骨折のみかた
超音波でみえる骨折とみえない骨折
3 筋損傷のみかた
筋挫傷と肉ばなれ
4 野球肘のみかた
見逃さないために
5 膠原病疾患のみかた
関節痛・滑膜肥厚を見分ける
6 乳児股関節脱臼のみかた
Graf分類の考えかた
7 小児運動器疾患のみかた
小児の成長と痛みを見極める
8 軟部腫瘍のみかた①
超音波でみる良悪性鑑別
9 軟部腫瘍のみかた②
腫瘍専門医が教える超音波の効果的な使いかたと落とし穴
10 腰椎のみかた
解剖と病態を同時に学ぶ
3 新たな技法──選択肢を増やす
1 超音波ガイド下インターベンションは安全か
合併症とその対策
2 ドプラモードの意義
3 エラストグラフィの可能性
4 エラストグラフィのピットフォール
Perspective:エラストグラフィの計測,「骨の近く」か・「骨の近くは避けるべき」か
5 超音波ガイド下手術
足関節外側靱帯損傷を中心に
4 マスターへの道──神経を攻める
末梢神経超音波を読み解くための考えかた
1 末梢神経を攻める
基本手技
2 頚部を攻める
3 肩関節・上腕を攻める
末梢神経の超音波解剖
4 肘関節・手指を攻める
5 胸部を攻める
6 腰殿部を攻める
腰部硬膜外ブロックをマスターする
7 仙腸関節を攻める
8 股関節周囲を攻める
9 膝関節周囲を攻める
膝関節内側部痛に対する神経をターゲットにした超音波ガイド下インターベンション
10 足部を攻める
末梢神経に対するハイドロリリース
11 術後疼痛から守る
超音波ガイド下ブロック,カテーテルを駆使する
5 PTに学ぶ身体所見──レジェンド整形外科医 推薦
PTとタッグを組む
木を見て森を見ず,森を見て木を見ず
1 上肢の身体所見
投球障害から上肢と肩の痛みを考える
2 下肢の身体所見
足関節・足部に着目して
3 アスリートの身体所見
左仙腸関節痛・左股関節つまり感の訴えにより投球困難となったプロ野球投手に対するリハビリテーション
4 脊椎・体幹の身体所見
5 運動器の触診の考え方
Perspective:レジェンド整形外科医に聞く 理学療法士を「推す」理由
6 理学療法における超音波の活用法
1 肩関節における超音波ガイド下理学療法
医師と理学療法士の連携
2 肘関節における超音波ガイド下理学療法
3 股関節における超音波ガイド下理学療法
4 膝関節周囲における超音波ガイド下理学療法
5 足部における超音波ガイド下理学療法
長母趾屈筋の解剖・超音波解剖から足関節背屈制限を考える
PROFILE
索引
書評
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全ての運動器医療にかかわる方にお薦め
書評者:田中 康仁(奈良医大学教授・整形外科学)
全ての運動器医療にかかわる方々に,本書をお薦めいたします。
超音波画像構築技術の進歩やリニアプローブの開発により,整形外科診療にパラダイムシフトが起こり,今や超音波は日常診療に必須のものとなってきました。操作が簡単になり,誰でも手軽に目的とするものが描出できるようになったことで,裾野はますます広がっています。しかし,中にはまだ,超音波の有用性を感じながら,ご自身で超音波プローブを触ったことがないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。本書ではそのような方にもわかりやすいように第1章では「はじめの1歩―まずはのぞいてみよう」ということで,超音波画像の基本的なプローブの操作の仕方や描出方法など,全身の各部位について,誰でもわかるようにやさしく記載されています。
もちろんこれは序章で,次に一般的な整形外科疾患について掘り下げられ,超音波をある程度診療に活用されている方にとっても,日頃疑問に思われている事柄について,丁寧に解説されています。
第3章までは一般的な超音波診療に関する事項ですが,第4章ではブラックボックスであった患者の痛みに末梢神経からアプローチし,「患者を痛いまま帰さない」臨床をめざして,超音波を使いこんでいる方にも新鮮な事項がたくさん登場してきて,まだわれわれがみたことがない新しい世界がみえるのではないかと期待感を抱かせます。最後には理学療法士とタッグを組み,新たな整形外科診療の可能性についても言及されています。
皆さまSMAPというメンバーをご存じでしょうか。歌手のSMAPではなくSonography for MSK Activating Projectの略で,運動器に興味を持って超音波診療の進化と深化に取り組んでいる若手医師グループです。本書の執筆陣のほとんどがSMAPのメンバーであり,まさに現在進行形で発展している運動器超音波をけん引している集団です。彼らの勢い,迸るエネルギーを本書から感じ取ってください。
皆さまご存知のように整形外科診療の90%は保存治療であります。患者が病院や医院を訪れる主訴は「しんどい」か「痛い」かが多くを占めるのではないでしょうか。「痛い」という主訴の多くは整形外科的疾患で,その原因となる病態を提示し,治療介入することが求められています。言い換えれば,整形外科医はプライマリケア医としての役割が大きく,間口を広くして,運動器に関することは全て対応する必要があるのではないかと常々考えております。
ぜひ皆様も本書をご熟読いただき,日常診療にお役立てください。
超音波を理学療法士と整形外科医の共通言語に
書評者:福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)
序文にもあるが,本書は若手整形外科医を中心に執筆されている。まだ新しい技術ともいえる超音波を利用した診断や治療が千万無量に書かれている書籍である。また,超音波を共通言語として理学療法士とタッグを組むと記載されている,今までにはない書籍である。
章の構成は「1.はじめの1歩」,「2.ネクストステップ」,「3.新たな技法」,「4.マスターへの道」,「5.PTに学ぶ身体所見」,「6.理学療法における超音波の活用法」となっている。どの章もインパクトが強いが,4章で語られる「神経の攻めかた」などは,整形外科医はもとより理学療法士にも深く参考になると考えられる。
どの項にもエコー画像と描出のポイントが正常像・疾患像とともに数多く示されていて,見ていて飽きない。頭の中で,解剖学とすり合わせてイメージを構築し,画像ごとに理解を深めることが可能になっている。またID登録が不要で,QRコードからすぐに動画が見られるのもうれしい配慮だと感じる。これらの動画は,さまざまな驚きを読者に与えてくれるのではないだろうか。
身体へ負荷される外力が,身体内部でどのような伸張,圧縮,剪断などのメカニカルストレスを生じさせ,局所的な動きの不全に至るかのメカニズムに関する研究は,近年,可視化という強力な武器を得て大幅に進歩している。本書にはその多くの知見が記載されているが,技術的なアップデートは著しく,日々改善されている。その意味で,この書籍をいつ読んだらよいのかと言えば,当然「今」ということになる。
書籍全体にはそれぞれの臨床家としてのこだわりがみられ,よく読むと「なぜ」そのような治療に至ったのかという発想の奥に人間性も感じられるような気がする。本書はその観点に触れながら,エコーを手にした状態で読み進めることが望ましい。また,技術を高めるためには,教科書のように序章から読み進めなくても,解剖書や解剖アプリとの併読がよいかもしれない。各項には「よく聞かれる質問」コーナーがあり,執筆者に直接聞きにくい内容が記載されているのも,私のような超音波初学者には大変ありがたい。
疾患の病因を把握する際には,「器質的」あるいは「機能的」という言葉が多く用いられる。特に機能的と称される内容に包含される「動きの不全」については,「頭の中のイメージ」が先行していた。局所的な軟部組織の硬さや滑走性の改善が,周辺の機能的改善に結び付くことが,可視化されてやっと納得できることは多い。特に身体内部を可視化する機会の少ない理学療法士には,よい機会である。また事象の可視化,具現化により,解剖用語を基盤とした会話が成立しているのは本当に喜ばしいことだと思う。
超音波を介して,整形外科医が理学療法士と共通した言語を持ち,「機能不全」にタッグを組んで立ち向かう姿は,近年の新しい治療の姿を示してくれているとも感じられる。胸襟を開いて企画された編者の包容力とともに,執筆者の方々の日常臨床の創意工夫がちりばめられた良書である。
整形外科超音波のバイブル発刊!
書評者:髙橋 周(東あおば整形外科院長)
整形外科超音波界の若きTWO TOPである笹原潤先生(帝京大スポーツ医科学センター)と宮武和馬先生(横浜市立大整形外科学)が編集した本書は,運動器超音波の基礎から始まり,運動器疾患の超音波診療,痛みに対する末梢神経からのアプローチ,超音波ガイド下理学療法まで網羅するまさに「整形外科超音波のバイブル」です!
これらのほとんどを,TWO TOPが牽引する若手医師グループSonography for MSK Activating Project(SMAP)が執筆しています。SMAPの医師は,研修医時代あるいは整形外科診療に従事し始めたころから超音波を診療に使い,超音波診療を研鑽している精鋭です。SMAPの医師が,日常診療での疑問点をグループ内だけでなく,グループ外のスペシャリストやレジェンドと議論し検証した内容を執筆しています。
笹原先生,宮武先生が自らの整形外科超音波診療を極めるだけでなく,SMAPという若き精鋭達と一緒に高みをめざしていることにとても感服しています。
整形外科学の画像診断は「まず,レントゲン」のX-ray firstの時代が長く続いてきました。レントゲン写真で異常がなければ,病態がわからないため,治療は安静,痛み止め,湿布程度になってしまいます。整形外科の外来で頻繁に遭遇する足関節内反捻挫は,レントゲン写真で骨折がないと,「骨には異常がありません。捻挫ですね」という説明がなされていましたが,エコーを使って診断すると,前距腓靱帯や踵腓靱帯の損傷や裂離骨折を静的・動的に可視化して診断することができるだけでなく,靱帯の修復過程や不安定性の改善度を評価して運動や日常生活への復帰につなげることができます。時代はX-ray firstからUS firstへと確実に変わってきています。
本書では,器質的異常を超音波で診断・治療するノウハウがしっかり解説されているだけでなく,運動器エコーをツールとして,医師と理学療法士が強力なタッグを組んで治療するエッセンスが詰まっています。整形外科診療に携わる医師,理学療法士などのメディカルスタッフにぜひ手に取っていただきたい良書です。
運動器超音波のバイブルとなる書
書評者:山田 宏(和歌山医大教授・整形外科学)
いつの時代も,世の中を変えるのは若者である。
運動器超音波を用いて新しい時代の幕を開こうとする若手医師たちの気概が,まさに衝撃波のように伝わってくるのが本書である。
通読した古参の医師の中には,「これは下手をすると,自分は時代遅れになってしまうかもわからない」という得体の知れない恐怖心に駆られてしまう方が多くおられるかもしれない。なぜなら,これから彼らが世に広めようとする新しい運動器診療には,既存の治療体系には存在しない革新的な診断・評価・治療に関するさまざまな技法が,珠玉のごとくちりばめられているからである。
ここでは,その1つであるハイドロリリースを紹介したい。この手法は,痛みの原因となっている筋膜や神経周囲の結合組織へ超音波ガイド下に薬液を注入し除痛を図るとともに,癒着を<525D>がし滑走を良くすることで可動域制限の改善効果も同時に期待するものである。実際に治療を受けた患者さんの中には,即時的に劇的な治療効果を示す例も少なくない。今までどこに行っても満足する治療を受けることができなかった患者さんたちが示す望外の喜びと,施術を行ってくれた医師に対する感謝の気持ちを体感できることは,まさに医師冥利に尽きると言っても過言ではないであろう。
このような貴重な体験を共有し,医療維新となる運動器診療の変革を推し進めなければ患者さんたちにとって明るい未来は来ないと信じて,運動器超音波の普及・啓発活動の輪を中心となって広げてきたのが,SMAP(Sonography for MSK Activating Project)の若手医師たちである。確かに,本書には,彼らが日常診療で,悩み,迷い,自問自答するとともに信頼する仲間たちと議論を重ねてきた内容が詰まっている。ゆえに,これから運動器超音波を用いた最新医療という未知の世界に一歩踏み出そうとする全くの初心者にも,必ずや心強い味方となって道標の役割を果たしてくれるであろう。
彼らが,序文で「本書は,運動器超音波のバイブルとなる」と自負しているが,その正当性を運動器診療の未来が必ずや証明することになるであろうことを私は確信している。