第13回日本プライマリ・ケア連合学会開催
取材記事
2022.07.04 週刊医学界新聞(通常号):第3476号より

第13回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会(大会長=多摩ファミリークリニック・大橋博樹氏)が6月11~12日,「今,プライマリ・ケアの真の価値を考える――さまざまな立場・環境をつないで」をテーマにパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された。本紙では,シンポジウム「『社会的処方』におけるプライマリ・ケアの役割および課題」(座長=京大・長谷田真帆氏,東京医歯大・長嶺由衣子氏)および「患者のエクスペリエンス/ジャーニーを医療の質向上にどう活かすか」(座長=慈恵医大・青木拓也氏)の模様を報告する。
従来の枠組みを超えた社会的処方の多様性
「社会的処方」におけるプライマリ・ケアの役割および課題
最初に登壇した西岡大輔氏(大阪医薬大)は,「近年,医療機関を起点としていないものの,社会的処方と称される活動が散見されるようになってきた」と,社会的処方の活動が多様化していることを指摘。芸術や建築といった場面でも実践されており,医療者はそれらにも目を配る必要があるとの見解を示した。本シンポジウムの目的は,多様な社会的処方の事例を把握し,地域で何が起きているか,プライマリ・ケア医はどのように地域に貢献できるかを考えることと位置付けた。
「社会的処方に注目したきっかけの一つは,2011年の東日本大震災」。冒頭でこう述べた藤沼康樹氏(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)は,震災以後,人と人とのつながりの必要性を改めて認識したと語る。発表内では,中等度の認知症を発症していた独居の高血圧症患者のケースを用いながら社会的処方の意義を解説。プライマリ・ケアの外来では患者の心理社会的問題への対応を求められることがあるとし,社会的処方が有効な患者は確実に存在すると訴えた。
3番目に登壇した水谷祐哉氏は,医療と介護の専門職が常駐し,医療や生活に関する悩み相談に無料で対応する「いなべ暮らしの保健室」を運営する。同施設の役割として「地域住民が日常生活の中で医療者と気軽に接点を持つ場を提供すること」を挙げ,地域のお寺を借りて簡単な健康相談を受ける「お寺カフェ」や,スマホの使い方を解説する中で日常生活の困りごとにも応える「スマホ講座」などの取り組みを紹介。活動を通じて就労や親子関係に関して相談されることも多いことから,「悩みの解決には医療者以外との連携が必須」と発表をまとめた。
「人と人とのつながりが希薄になり,多世代が孤独を感じている」と述べたのは小杉湯の平松佑介氏だ。氏は東京都高円寺にある1933年創業の老舗銭湯,小杉湯を運営(写真1)。小杉湯は平日で一日平均400~500人,土日には800~1000人が利用するほどの盛況ぶりで,地域住民の憩いの場となっている。また,会員制の銭湯付きセカンドハウス「小杉湯となり」が同施設の並びに開設されており,地域住民の交流の場として機能を果たす。これらの取り組みが人気を集める背景を,氏は「利用者が中距離のご近所関係に心地よさを感じているからではないか」と分析。心地よさを生み出す雰囲気づくりを重視していると語った。

右手奥に位置する白い建物が銭湯付きセカンドハウス「小杉湯となり」。小杉湯の隣に建っていたアパートを改装して2020年に開設。
最後に登壇したオレンジホームケアクリニックの西出真悟氏は,社会福祉士の立場から「公民館や公園といった地域住民のつながりを生み出す社会資源を増やすことが重要」と述べる。医師が個人で患者を抱えるのではなく,社会的処方の一環として早期から地域の社会資源を...
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