医学界新聞

書評

2022.05.30 週刊医学界新聞(看護号):第3471号より

《評者》 安城市医師会安城碧海看護専門学校顧問(前・副学校長)

 スムーズな人間関係の構築は,日常生活を送る上で欠かせないものです。社会生活の変化によりコミュニケーションの方法は変化していきます。まさに今,コロナ禍におけるマスク越しの会話で十分なコミュニケーションが難しくなっていることを皆さん実感されているのではないでしょうか。マスク越しのコミュニケーションの中で学生は教員に対して①目が笑っていない,②怖く感じる,③声が通らないので何を言われているかわからないし聞き返せない,といった理由から関係構築に弊害があると感じていることがあります。本書第2版では,そのような社会の変化,つまりコロナ禍の時代に合わせた内容も追加されました。マスク着用時の研究結果から,声のトーンや表情・距離の取り方などのポイントが記されており,ことわざで「目は口ほどに物を言う」と言われているように,マスク着用時のコミュニケーションのマイナス面ばかりでなくメリットも掲載されています。

 初版は,共感・傾聴などの基本的な技術や具体的なコミュニケーション方法が図や絵などを用いて紹介されており,学生にとってわかりやすく学べる内容でした。また,各章の最後に「確認テスト」があることで,何が大切か言語の違いや使い方などがリフレクションできる内容になっていましたが,第2版でもそれらが踏襲されています。コミュニケーションは,ケア提供者や患者の性格,その場の雰囲気などで異なりますが,自己表現を振り返るために役立つ「コミュニケーション評価の視点」や「臨床で活用できる事例」もたくさんありますので,学生にとって良い教本です。初版と同様に,「あなたなら何と答えますか?」など,Q&Aの事例や,ロールプレイ用のシナリオ,患者からの申し出の断り方など,すぐに活用できることが多く紹介されています。

 今回新たに「第13章 新たな時代のコミュニケーション」が追加され,「ディスプレイを介したコミュニケーション」や「1対1以外のコミュニケーション」が紹介されています。特に最近導入する施設が増えつつある看護方式のPNS®(Partnership Nursing System)は,ぜひ注目して理解し身につけてもらいたい内容です。

 この『看護コミュニケーション 基礎から学ぶスキルとトレーニング 第2版』は,看護学生だけでなく看護師にとっても人間関係構築の原点に立ち戻ることができますので,手元に置いておくことをお薦めします。触れてほしいコミュニケーションスキルが満載の魅力ある一冊となっています。


《評者》 修文大教授・看護学

 昨今の外科的治療の進歩は,ロボット支援手術や低侵襲手術の普及を中心に目覚ましく,それに伴って看護も変わってきている。短期間で次々と術式が世代交代する時代にあっては,定型的な「〇〇術後患者の看護」は通用せず,周手術期の最前線では,目の前の患者にどのような手術が行われたかを理解し,それによって演繹的に看護を導く能力が求められる。

 このたび,『周術期の臨床判断を磨くII――術式による機能変化から導く看護』が刊行された。これは同じ著者による『周術期の臨床判断を磨く――手術侵襲と生体反応から導く看護』の続編として出されたものである。先行書では,外科的手術という侵襲に対する全身的な変化を局所変化/修復や心理的反応をも含めて解説し,これらの知識に基づいて看護を考えるように導いてある。このような知識および思考過程に,個々の患者の術式の理解を加味することによって,術後の経過を予測したり,変化に対応したりすることが可能となる。

 本書では患者の受けた手術を理解するための基礎知識として,それぞれの臓器の位置,機能,血管・神経支配などを図示し,術後の患者のからだがどうなっているか,理解を促進する。そして,手術による変化に応じた標準的な看護診断/共同問題および看護計画の例を示してある。読者は,基礎知識から看護計画への流れ,そして看護を考える思考過程を学ぶことができる。したがって,本書は読者が自分の知りたいことだけを選んで調べるのではなく,ぜひ,一つひとつの章を最初から最後まで通して読んでほしい。それをいくつかの手術について繰り返すことによって,看護を考える思考過程が身についていくことであろう。それが身につけば,個々の患者の身体的/心理的/社会的/スピリチュアルな反応の違いにも対応し,個別性のある看護を考えることができるのではないだろうか。

 無機質な基礎知識から具体的な患者への接し方までがつながるためには,一つひとつのつながりを納得しながら読み進めなくてはならない。本書は先行書と同じく「です」「ます」調で書かれており,優しく諭されているような気分になる。「~しましょう」と促されれば「はい,やってみます」と言いたくなるし,「~しようとします」という臓器/系統の擬人化は,手術で傷ついた人のからだへの慈しみの気持ちを生むことであろう。知識に裏付けられた思いやりにあふれた看護ができるようになるために,ぜひ本書を活用していただきたい。


《評者》 愛媛大病院総合臨床研修センター

 『ロールプレイでやってみよう!』という本書,思わず,「はーい!」と返事をしたくなるようなタイトルですが,これまで私たちが手にしてきたロールプレイの書籍とはまったく違います。中心となるのは,明日からでもロールプレイを実践できるように,患者さんが戸惑いやすい10の場面を取り上げ作成されたシナリオです。さらに,効果的な演習につながるように,“模擬患者になるために知っておくこと”や“シナリオの題材と作成”“演習がうまくいくために準備すること”などが丁寧に解説されており,看護職はもちろん全職種で学べるように問いや目標が設定されているため活用しやすくなっています。

 さらに,うれしいのは動画が付いていることです。各シナリオの動画のみならず,昨今の新型コロナウイルスによる事情に鑑みてWEB研修を開催する際の動画も付いています。どのように受講者に対して説明をしたりコメントを返したりすればよいのか,指導側のヒントが得られる教材となっています。ちなみに,各動画はあくまでもイメージであり,最初から動画は見ずにまずはやってみることを著者である高橋敬子先生は勧めています。ですが,答えを求めるのは最近の若者だけでなく,実は私たち管理者や教員も同じ。先に見てイメージづくりとして活用することで,私たちもより安心して演習に臨むことができそうです。各シナリオの設定は,非常にシンプルでわかりやすい内容となっています。ロールプレイのシナリオとなると,つい凝った大作を作りがちですが,経験ある医療者であれば案外シンプルなシナリオでもうまくいくもの。もしも,初心者や学生対象であっても,ロールプレイを実施した後で動画を一緒に視聴して,自分たちとの違いや共通点を尋ねてみるとさまざまな気付きが得られそうです。

 新型コロナウイルスによる影響が続き,実習を十分に経験できていない新人が入職する時代となりました。現場の指導者からは,「患者とも私たちともコミュニケーションが取れない」というメッセージを,よく耳にします。新人自身も,例年以上に実習経験不足である自分に不安を抱きながら入職をしてきます。従来通りの指導では,立ち行かなくなることが予測されます。本書の中で高橋先生は,「医療における安心は,患者さんだけが感じることではない」と説明し,まずは医療者自身が職場で心理的安全性を得ることの重要性を説明しています。そして,ロールプレイ演習は「やり直し」が利く教育方法であることを伝えています。過去は変えられませんが,未来は変えられます。不足している経験は,ロールプレイで補い安心につなげていきましょう。今だからこそ,医療に携わる多くの方に手に取ってほしいお薦めの一冊です。

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