周術期の臨床判断を磨くⅡ
術式による機能変化から導く看護

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本書は癌などによってどのような切除術が行われ、患者がどのような生理的・機能的変化を起こすのかを詳細に解説し、どのような看護診断(もしくは共同問題)としてとらえて患者に看護を行うのかを示した書。本書で取り上げているのは、肺・食道・胃・膵・肝・直腸・結腸の切除術であるが、術式やそれによる変化を捉えて、臨床現場で遭遇することの多い術後患者に的確なケアできるよう丁寧に解説されている。

深田 順子 / 鎌倉 やよい
発行 2021年12月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-04675-6
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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    2023.02.27

  • 序文
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まえがき

 2020年10月に保健師助産師看護師学校養成所指定規則および「看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン」が一部改正され,2022年度から改正カリキュラムが適用されます。この根底には看護学基礎教育の基本的考え方として,「科学的根拠に基づいた看護の実践に必要な臨床判断を行うための基礎的能力を養うこと」があり,「臨床判断」の重要性が示されました。「臨床判断」とは,臨床場面における事実に基づく推論です。まず,患者の状態を観察した結果と看護師自身の知識を照合し,患者の状態について仮説を導き,さらに観察して結論を導くプロセスです。
 周術期看護では,患者が手術・麻酔による侵襲から身体的・心理的に回復するよう術前から援助することが重要です。術後には,刻々と変化する患者の状態について情報収集し,得た情報を手術侵襲による生体反応などの知識と照合して臨床推論し,その推論に基づき必要な看護を導き,実施・評価することが必要です。
 周術期看護において「臨床判断を磨く」ためには,まず第1に,手術侵襲と生体反応を十分に理解したうえで患者の状態を経時的に判断し,看護を導くことが必要です。第2に,手術では臓器・神経・血管などの切除と再建術が行われます。そのため,術式による構造と機能の変化を十分に理解したうえで患者の状態と照らし合わせて機能変化の状態を判断し,看護を導くことが必要です。本書は,後者に基づいています。
 本書は,手術に伴う構造の変化とその再建術による機能変化を理解したうえで,その機能変化に最も適応する生活を患者自身が調整できるようにする看護を導くことを目指しています。このプロセスは臨床判断のプロセスであり,どの手術においても適用できる考え方です。本書では標準治療として実施される肺切除術,食道切除術,胃切除術,膵切除術,肝切除術,結腸切除術および直腸切除術による構造と機能の変化とその援助について述べています。
 各章は「A 手術による機能変化を理解する」と「B 機能変化に対する援助を組み立てる」から構成されます。「A 手術による機能変化を理解する」では,まず,手術で切除される臓器・神経・血管とその再建術による構造の変化を,解剖学の知識をふまえて理解し,次に構造の変化に伴う機能変化を,生理学的知識をふまえて理解できるように構成しています。
 「B 機能変化に対する援助を組み立てる」では,その機能変化に伴う日常生活への影響と,機能変化の程度に影響する要因として患者の術前の身体的機能,健康管理行動および術後合併症などを明示しています。これらの知識をふまえて患者から得た情報をアセスメントして,NANDA-I看護診断に基づいて看護診断名を確定し,必要な看護計画を導いています。本書が,周術期における臨床判断の向上ならびに患者の生活の質(quality of life)向上を導く看護に資することを願っています。
 本書は,愛知県立大学看護学部で長年工夫して蓄積した講義資料に基づいています。これに推敲を繰り返し完成いたしました。推敲に時間を要する私どもを辛抱強く支援してくださった医学書院の藤居尚子様,丁寧に的確な医学校閲をしてくださった久留米大学医学部の安達洋祐先生に深謝申し上げます。また,愛知県立大学守山キャンパス図書館には膨大な文献を取り寄せていただきました。愛知県立大学看護学部学生の皆さまには授業をとおして,講義資料に対する有益な質問をいただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。

 2021年11月
 深田 順子
 鎌倉やよい

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まえがき

1章 肺切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 開胸法・肺切除術・リンパ節郭清を理解する
  2 開胸法・肺切除術・リンパ節郭清による呼吸機能・循環機能・運動機能の変化を理解する
  3 共同問題「合併症リスク状態(RC):無気肺・肺炎」,看護診断「活動耐性低下リスク状態」「身体可動性障害」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 呼吸機能・循環機能の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 呼吸機能・循環機能・上肢の運動機能の変化に影響する術前の身体機能と健康管理行動を理解する
  3 呼吸機能の変化に影響する肺瘻・気管支瘻を理解する
  4 呼吸機能・循環機能・上肢の運動機能の変化に対する援助を組み立てる

2章 食道切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 食道切除術・再建術式・リンパ節郭清を理解する
  2 食道切除術による嚥下機能・消化機能・消化管運動・呼吸機能の変化を理解する
  3 看護診断「誤嚥リスク状態」「健康自主管理促進準備状態」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 嚥下機能・消化機能・消化管運動の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 嚥下機能・消化機能・消化管運動の変化に影響する術前の身体機能と健康管理行動を理解する
  3 嚥下機能の変化に影響する縫合不全・吻合部狭窄を理解する
  4 嚥下機能・消化機能・消化管運動の変化に対する援助を組み立てる

3章 胃切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 胃切除術・再建法・リンパ節郭清を理解する
  2 胃切除術による消化機能・消化管運動の変化を理解する
  3 看護診断「健康自主管理促進準備状態」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 消化機能・消化管運動の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 消化機能・消化管運動の変化に影響する術前の身体機能と健康管理行動を理解する
  3 消化機能・消化管運動の変化に影響する縫合不全・吻合部通過障害・膵液漏を理解する
  4 消化機能・消化管運動の変化に対する援助を組み立てる

4章 膵切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 膵切除術・リンパ節郭清を理解する
  2 膵切除術による内分泌機能(耐糖能)・消化機能・消化管運動の変化を理解する
  3 看護診断「血糖不安定リスク状態」「健康自主管理促進準備状態」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 内分泌機能(耐糖能)・消化機能・消化管運動の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 内分泌機能(耐糖能)・消化機能の変化に影響する術前の身体機能と健康管理行動を理解する
  3 消化機能・消化管運動の変化に影響する膵液漏・胆汁漏・縫合不全を理解する
  4 内分泌機能(耐糖能)・消化機能・消化管運動の変化に対する援助を組み立てる

5章 肝切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 肝切除術・胆道再建術・リンパ節郭清を理解する
  2 肝切除術による肝機能の変化を理解する
  3 共同問題「合併症リスク状態(RC):肝機能障害」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 肝機能の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 肝機能の変化に影響する術前の身体機能・健康管理行動を理解する
  3 肝機能の変化に影響する胆汁漏・縫合不全を理解する
  4 肝機能の変化に対する援助を組み立てる

6章 結腸切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 結腸切除術・リンパ節郭清を理解する
  2 結腸切除術による排便機能の変化を理解する
  3 看護診断「消化管運動機能障害リスク状態」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 排便機能の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 排便機能の変化に影響する術前の身体機能と健康管理行動を理解する
  3 排便機能の変化に影響する縫合不全・癒着性腸閉塞を理解する
  4 排便機能の変化に対する援助を組み立てる

7章 直腸切除術を受ける患者の看護
 A 手術による機能変化を理解する
  1 直腸切除術・リンパ節郭清を理解する
  2 直腸切除術による排便機能の変化を理解する
  3 リンパ節郭清による排尿機能・性機能の変化を理解する
  4 看護診断「消化管運動機能障害リスク状態」「排尿障害」「性機能障害」
 B 機能変化に対する援助を組み立てる
  1 排便機能・排尿機能の変化に伴う日常生活への影響を理解する
  2 排便機能・排尿機能の変化に影響する術前の身体機能と健康管理行動を理解する
  3 排便機能の変化に影響する縫合不全・癒着性腸閉塞を理解する
  4 排便機能・排尿機能・性機能の変化に対する援助を組み立てる

索引

Column
 ・胸腔鏡下手術と開胸法の換気,酸素化への影響
 ・肺切除範囲による換気量への影響と残存肺葉の増加量
 ・食道切除術における再建経路別の症状の発生率
 ・食道切除後の反回神経麻痺の発生率と経過
 ・早期ダンピング症状の発生機序
 ・非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)
 ・十二指腸切除の有無による外分泌機能への影響
 ・膵尾部切除における脾臓摘出による脾摘出後症候群
 ・直腸切除術後の術式,リンパ節郭清,自律神経温存術による排尿障害の発生率

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知識に裏付けられた思いやりにあふれた看護ができるようになるために
書評者:池松 裕子(名大大学院教授・看護学)

 昨今の外科的治療の進歩は,ロボット支援手術や低侵襲手術の普及を中心に目覚ましく,それに伴って看護も変わってきている。短期間で次々と術式が世代交代する時代にあっては,定型的な「〇〇術後患者の看護」は通用せず,周手術期の最前線では,目の前の患者にどのような手術が行われたかを理解し,それによって演繹的に看護を導く能力が求められる。

 このたび,『周術期の臨床判断を磨くII――術式による機能変化から導く看護』が刊行された。これは同じ著者による『周術期の臨床判断を磨く――手術侵襲と生体反応から導く看護』の続編として出されたものである。先行書では,外科的手術という侵襲に対する全身的な変化を局所変化/修復や心理的反応をも含めて解説し,これらの知識に基づいて看護を考えるように導いてある。このような知識および思考過程に,個々の患者の術式の理解を加味することによって,術後の経過を予測したり,変化に対応したりすることが可能となる。

 本書では患者の受けた手術を理解するための基礎知識として,それぞれの臓器の位置,機能,血管・神経支配などを図示し,術後の患者のからだがどうなっているか,理解を促進する。そして,手術による変化に応じた標準的な看護診断/共同問題および看護計画の例を示してある。読者は,基礎知識から看護計画への流れから,看護を考える思考過程を学ぶことができる。したがって,本書は読者が自分の知りたいことだけを選んで調べるのではなく,ぜひ,一つひとつの章を最初から最後まで通して読んで欲しい。それをいくつかの手術について繰り返すことによって,看護を考える思考過程が身についていくことであろう。それが身につけば,個々の患者の身体的/心理的/社会的/スピリチュアルな反応の違いにも対応し,個別性のある看護を考えることができるのではないだろうか。

 無機質な基礎知識から具体的な患者への接し方までがつながるためには,一つひとつのつながりを納得しながら読み進めなくてはならない。本書は先行書と同じく「です」「ます」調で書かれており,優しく諭されているような気分になる。「~しましょう」と促されれば「はい,やってみます」と言いたくなるし,「~しようとします」という臓器/系統の擬人化は,手術で傷ついた人のからだへの慈しみの気持ちを生むことであろう。知識に裏付けられた思いやりにあふれた看護ができるようになるために,ぜひ本書を活用していただきたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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    2023.02.27