医学界新聞

看護のアジェンダ

連載 井部 俊子

2022.05.30 週刊医学界新聞(看護号):第3471号より

 2022年度が始まり,長野への新幹線通勤も4年目に入った。来春には卒業生を送り出すことになり,今年度が看護学部開設の完成年度である。レールを敷きながら電車を走らせるという新たな体験は,いよいよ終盤に入った。

 絵本『大きい1年生と小さな2年生』(作=古田足日/絵=中山正美,偕成社)に,「子どもには,たいていのみちは,はじめての みち」という章がある。「1年生になったまさやは,ふたりの2年生のはなしをきいてびっくりします。『このみちは,一どしかとおったことのないみちだから,おもしろいわね』『一どもとおったことのないみちのほうが,おもしろいわ』。まさやは2年生になったら,ぼくも,そうなれるのかしら,と思いましたが,ふときがつきました。いま,まさやは,ちょっぴりしんぱいだけど,このはじめてのみちが,おもしろくなっているのです」。そして2年生のあきよちゃんとまりちゃんに向かって,こう言う。「ぼく,大はっけんしたよ,子どもにはね,たいていのみちが,はじめての みちなんだ」。

 私の中でこのフレーズが長く尾を引いていた。2017年4月にこの絵本を手にした時から,子どもだけでなく大人になっても「たいていのみちは,はじめての みち」なのではないかと思ったからである。

 話を戻そう。

 北陸新幹線の座席ポケットには,雑誌「トランヴェール」が入っている。毎月,更新される。この雑誌が入れ替わっているのをみて,月が変わったことに気付くこともある。表紙をめくり2頁目を,私はいつもちょっとどきどきしながら,開く。そして巻頭エッセイ「〔旅のつばくろ〕沢木耕太郎(文・写真)」に目をやり,本文をていねいに味わう。これが月初めの車中での楽しみである。

 2022年3月号のタイトルは「記憶のかけら」であった。日光を旅したあとに乗った日光線の鹿沼駅で筆者は「記憶のかけら」のようなものの存在に気付き,終点の宇都宮に到着する寸前に思い出したというてん末である。

 筆者は大学生時代,長い休暇になると日本橋の決まっ...

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