医学界新聞

多職種で支える誤嚥性肺炎のリハビリテーション

連載 百崎 良

2022.04.18 週刊医学界新聞(通常号):第3466号より

 誤嚥性肺炎は,抗菌薬による治療だけではなく,運動療法,嚥下訓練,口腔ケア,栄養管理など包括的な介入が功を奏する疾患です。しかし,誤嚥性肺炎診療における多職種の連携は十分とは言えません。そこで本連載では,誤嚥性肺炎に対するスムーズな連携に必要な視点や知識について紹介していきます。

80歳男性。発熱を主訴に救急外来を受診。受診3週間前には食物誤嚥による窒息のため救急搬送され,誤嚥物吸引後に帰宅したエピソードがあり,2日前から喀痰貯留も認めている。体重は直近6か月で5.0 kg減少し,受診時は40.0 kgだった。

 人口の高齢化に伴い肺炎に起因する死亡者数が増加し続けています。日本における肺炎死亡者の多くは65歳以上の高齢者であり,2020年の人口動態統計では,肺炎と誤嚥性肺炎の死亡者数を合わせると,日本人の死因の第4位になりました1)。高齢肺炎のほとんどは加齢に伴う嚥下機能低下(Presbyphagia,老嚥)を背景とした誤嚥性肺炎であると考えられています。老嚥を有する高齢者は,①加齢,②身体機能低下に伴う低活動,③嚥下機能低下に伴う低栄養,さらには④疾病への罹患の結果,全身や嚥下関連筋群のサルコペニアが進行し,サルコペニアによる摂食嚥下障害へと状態が移行します(図1)。高齢誤嚥性肺炎は,サルコペニアの進行によって生じる「サルコペニア肺炎」とも呼ぶべき病態と言えるでしょう。

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図1  サルコペニア肺炎が生じる過程
加齢・低活動・低栄養・疾病への罹患の結果,全身や嚥下関連筋群のサルコペニアが進行し,摂食嚥下障害へと移行。高齢者に発症する誤嚥性肺炎は,サルコペニアの進行によって生じる「サルコペニア肺炎」とも呼ぶべき病態と表現できる。

 誤嚥性肺炎は,嚥下機能の低下した高齢者,脳梗塞後遺症などの神経疾患や寝たきりの患者に多く発生し,入院が必要な肺炎の66.8%,院内肺炎の86.7%が該当すると言われています2)。また,肺炎球菌や口腔内の常在菌である嫌気性菌が原因となることが多いとされます3)。こうした誤嚥性肺炎を取り巻く状況をより詳細に明らかにしようと,筆者は診療報酬データベースを用いて誤嚥性肺炎に関する研究を行ってきました4~6)。本データセットは日本の急性期患者の50%以上を網羅するものであり,2010年7月~2012年3月(約1.5年分)の間に誤嚥性肺炎で入院した患者25万5394人(平均年齢:82歳)を対象にしています。表17)に示した日本の現状では,半数以上の患者が入院中に摂食機能療法を受けておらず,自宅退院もできていません。また,もともと誤嚥性肺炎入院患者には身体機能の低い低体重を有する高齢者が多い中,入院中により一層の身体機能が低下していることも読み取れます。つまり身体機能予後や経口摂取予後は不良であるにもかかわらず,適切なリハビリテーションや摂食機能療法の提供は不十分と言えます。食事再開までの期間,リハビリテーションや摂食機能療法の実施率には施設間格差がみられたことから,多職種による積極的な介入によって改善の余地があると考えられます。

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表1 2010年7月~2012年3月までの間に誤嚥性肺炎で入院した患者(25万5394人)の解析から得られた特徴(文献7より)

 肺炎の典型的症状は発熱,咳,痰などですが,これらの症状を認めず,何となく元気がない,食欲がない,のどがゴロゴロとなる,などの非特異的な症状のみが認められるケースが多いことも誤嚥性肺炎の特徴です。誤嚥性肺炎は嚥下障害者に生じる肺炎であり,その診断には肺炎の確認(画像診断や炎症反応,肺炎症状の確認)と嚥下障害・誤嚥の確認が必要です。しかし嚥下障害者の肺炎が全て誤嚥性肺炎というわけではありません。嚥下障害を認めても,肺炎が誤嚥によって生じていることを直接確認するのは困難な場合が多く,誤嚥性肺炎の確定診断は難しいと言えます。日本呼吸器学会の「医療・介護関連肺炎診療ガイドライン」では,嚥下障害ならびに誤嚥が証明された(あるいは,強く疑われた)症例に生じた肺炎を誤嚥性肺炎と定義しています(図28, 9)

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図2 誤嚥性肺炎診断フローチャート(文献8より)

 日本の介護老人保健施設の全国調査データ(9930例)を用いた観察研究では誤嚥性肺炎発症の危険因子が報告されています。論文内で示された危険因子(表210)を見てみると,「痰の吸引」からは痰の多さや喀出能力の低下を想像し気道クリアランス障害の存在が,「酸素療法」からは呼吸機能低下が,「経管栄養」からは嚥下機能低下や低栄養・サルコペニアの存在が示唆されます。また尿道カテーテルの使用はADL低下,発熱は全身状態の低下を意味していると推測できるでしょう。また,高齢誤嚥性肺炎患者6万6611人のデータを用いて入院後の経口摂取遅延因子を検討した結果6),入院時の低ADLや低体重,肺炎重症度,がんや脳卒中,呼吸器疾患をはじめとした併存疾患の存在が示唆されました。

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表2 誤嚥性肺炎発症の危険因子(文献10より)

 ここまで述べてきたように,誤嚥性肺炎の発症や予後には嚥下障害,身体機能低下,呼吸状態,低栄養,侵襲,多疾患併存など,さまざまな因子が関連しています。こうした多角的な問題に対応するためには多職種によるアプローチが重要です。本連載を通してその勘所を学んでいただければ幸いです。

●高齢肺炎の多くは老嚥を背景とした誤嚥性肺炎です。
●高齢誤嚥性肺炎はサルコペニアの進行によって生じます。
●誤嚥性肺炎は嚥下障害,低栄養,身体機能低下などと関連があり,多職種介入が重要です。


1)厚労省.令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況.2022.
2)J Am Geriatr Soc. 2008[PMID:18315680]
3)Arch Intern Med. 1975[PMID:28705]
4)Arch Phys Med Rehabil. 2015[PMID:25301440]
5)Geriatr Gerontol Int. 2015[PMID:25109319]
6)Geriatr Gerontol Int. 2016[PMID:25953259]
7)百崎良.高齢誤嚥性肺炎の現状・症状・危険因子など.医事新報.2018;4907:28-32.
8)嚥下性肺疾患研究会(編).嚥下性肺疾患の診断と治療.2003.
9)日本呼吸器学会(編).医療・介護関連肺炎診療ガイドライン.2011.
10)PLoS One. 2015[PMID:26444916]

三重大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学分野 教授

2004年慈恵医大卒。都立大塚病院,慈恵医大附属第三病院で研鑽を積み,15年慈恵医大リハビリテーション医学講座講師。帝京大リハビリテーション科准教授を経て,20年より現職。15年には東大大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。