医学界新聞

絶対に失敗しない学会発表のコツ

連載 後藤 徹

2022.04.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3465号より

 海外での学会発表に対して日本人が感じる主なハードルは,第一に英語そのものへの苦手意識,続いて滞在する現地で味わう非日常,「時差ぼけ」によるストレスなどです。「自分は英語が苦手」と語る人が多いですが,日本の英語教育で学ぶgrammarや文章構成力は非常に高いレベルにあります。要するに,英会話に難があるわけです。アジア諸国でさえ医学知識を英語で学ぶ一方で,わが国の医学部では全て日本語で講義が行われるのが一般的ですよね。そのような環境で教育を受けてきたのに,いきなり英語で医学についてプレゼンして議論しろというのは酷です。真の英語力の向上には時間がかかりますが,今回は“チート”テクニックをご紹介するので,まずは英語発表に苦手意識を持たないことを目標にしましょう!

 英語抄録は論文のAbstractと同じく,Background,Method,Results,Conclusionで構成します。文語のイディオム,副詞の使い方などの言いまわしは,同学会の過去の上位演題の抄録表現を見本として真似するとよいです。最近ではDeepL,GrammarlyといったAI翻訳サイトや自動英語添削サービスもかなりの精度で英訳を助けてくれるので,積極的に活用しましょう。英文作成にある程度慣れてきたら,自分が書いた英語をDeepLで日本語に訳して意味が通じていることを確認し,それを再びDeepLで英訳して元の英文と比べると,よい学習になります。

 私はカナダで就職してから,自分のカンファレンス発表や学会発表,ボスの口演など計300枚以上のスライドを作成してきました。結果として言えるのは,わかりやすいスライドの定義は国によって変わらないということです。見やすい配色,文字の大きさ,行間など気を付けることは同じです。日本人は英語の文章能力が高いのでついつい英文を完結させようとするクセがありますが,連載第2回(3444号)でお伝えしたようにスライドは単語と体言止めの繰り返しで勝負です。

 また,海外でもbusyなスライドは嫌われます。まずは日本語でいいので自分が伝えたい内容を最小限の単語の形で羅列し,それらを英訳してください。次に,羅列した単語のつなげ方を考えます。口演であれば口頭で補足説明ができるので,長々とした形容詞は削除しましょう。さらにスライド同士の関係性も考慮して,次のスライドは前のスライドの補足または例示,否定,新規事項(話題の切り替え)のどれに当たるのかを明示すると論理的でわかりやすい発表になります。

 英語の学習教材としても定評があるTEDを皆さんご存じでしょうか。TEDは,世界中で活躍する各分野(医学に限らない)のエキスパートが自分の仕事と発見について語る無料のインターネット番組です。娯楽としても楽しめる内容で,英語や日本語の字幕が付けられるため,当直時に観て楽しくリスニング力を鍛える若手医師も多いようです。さらにTEDでは,英語特有の長い間,強調部分での抑揚,そして流れに乗った後のスピード感など,海外でのプレゼンテクニックも学べます。

 日本語はイントネーションを付けず平坦に話す言語ですが,英語は異なります。各話題の間の“ため”を長く取ることでリズムを作り,声を高くする,または低くする,スピードを上げるといった技法で強調したいポイントを容易に伝えられます。大勢の人の前で話す機会が少ない日本人にとって,TEDの演者が自信満々に大観衆の前でプレゼンをする様子は国際学会のよい参考資料になりますので,ぜひご覧ください。

 また,日本人が英語でプレゼンを行う上で気を付けたいのは,発音の悪さを自覚することです。私自身,帰国子女でもなんでもないため日々発音を練習していますが,やはりnativeのような自然なイントネーション,舌使いで話すのは難しいものです。発音が悪いまま早く話そうとすると理解してもらえないので,nativeの0.7倍くらいのスピードまでに抑えましょう。

 スライドとプレゼン原稿は真面目にコツコツ作成すれば自信を持って予演会に出せるレベルになりますが,問題は質疑応答です。披露する医学知識やプレゼンは素晴らしいのに,英語の質疑応答で急にフリーズする(無言で固まってしまう)人は珍しくありません。全体の流れを止める大きな事故となりかねないので,その原因と対策を考えてみましょう!

1)聞き取れない,意味が理解できない

 これは純粋な英語力(リスニング)の問題です。英語と言っても英国英語と北米英語は全く異なりますし,母国語が英語ではない方のイントネーションは独特です。英語を耳で聞いて頭の中で日本語訳せずにそのまま理解できればそれがベストですが,日常生活で英語になじみのない臨床医には難しい,上級者向けのスキルです。

 国際学会では,重鎮が長々と感想や自分の施設のことを話すことが多く,日本人は余計に混乱します。長い前振りがあったとしても,①最後の疑問文はどこか,②使われている疑問詞は5W1H(Who,When,Where,What,Why,How)のどれか,③何について(動詞)聞かれているかの3点に集中し,聞き取れれば内容はおおよそ理解できます。全く聞き取れなかった場合は潔く“Sorry, could you repeat(paraphrase) your question?”と聞くしかありませんが,断片がわかる場合には“I'm not sure about your question. Do you mean that......?”などと聞くとよいです。フリーズするのと“Pardon me?”と安易に聞き返すのは避けましょう。

2)答えがわからない

 1)をクリアし質問とその意図が理解できても,答えがわからない場合があります。この時の対処法は日本語と同じです。連載第3回(3448号)でお伝えしたように,文献的考察>主治医グループまたは研究団体での結論>個人の意見の優先順位で意見を述べましょう。ただし発表の舞台は日本ではないので,疾患のバックグラウンド(分類,頻度,重症度,標準治療)が異なる場合があります。自分が発表する疾患の国際分類や各国の標準治療は事前に調べて,日本との違いを英語で言えるようにしておきましょう。エビデンスに基づかない内容を話した後は,“But we need randomized controlled trials.”あるいは“We need to study a large number of patients.”のように将来性に触れて終わるとスマートです。

3)答えを英語で話せない

 最後の関門は,質疑の意図を理解して答えもわかっているのに英語でどう表現したらよいかわからないケースです。その場合も第3回で紹介したように,まずはMeaningless wordsで場をつなぎましょう。“Thank you for good question! That’s the important point of my presentation!”などと言っている間に回答を作ります。質問の形態と内容は無限にあるので一般的なアドバイスは難しいのですが,下記のような有用なフレーズをいくつか覚えておくだけで答えやすくなります。

● This finding was contributed to diagnosis of......
 =この所見は......の診断に役立つ

It remains still unknown but our study showed......
 =まだ不明の点が多いが,われわれの研究は......

It doesn't make sense......
 =......することに意味はない,理にかなっていない

 難しい単語や文章構成で答える必要はありません。中学英語レベルで構わないと私は考えています。最低限の単語と短文でストレートに答えて,余裕があるなら詳細を付け足していく形式で十分議論が可能です。

 国際学会での発表は,国内で発表する時以上に緊張すると思います。緊張を解くには,まず「絶対に自分はできる」と信じられるまで発表練習をすることです。現地のホテル,またはWeb発表であれば前日深夜まで繰り返し練習しましょう。当日の会場では,連載第4回でも紹介したように,ウォーミングアップとして自分の発表前に他の演者に質問してみるのがお勧めです。少しでも多くの自信をつけてから本番に挑みましょう。

 最後に,あなたの口演を聞く聴衆や質問を投げ掛ける座長も自分と専門を同じにする医師だということを忘れてはいけません。国籍や使う言語が異なっても,同じ分野の医師/研究者で医学の発展を望む同志なのです。言いたいことは必ず通じますので,恐れずに思いの丈を伝えましょう!

 最後に,本連載を最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。さまざまなコツをお伝えしましたが,一番大事なことは「どうやったら自分の考えが他人にうまく伝わるか,常に模索する姿勢」です。学会発表のチャンスを生かし,成長し続けましょう!

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